8話 取り憑かれた
「レンカは?!」
目の前にいる天使のような女の子にいらいらしながら質問してみた。
「どうかご安心ください。妹さんは絵の世界に巻き込まれていませんから」
「画霊、だよな。君の目的はなんだ?なぜ僕をここに連れてくるのか?」
「主は心の中のしこりに導かれたなのです。妾のせいではありません」
「ふざけるな。君が強引に僕を…!」
「ですから…そ、その…」
女の子の顔が赤み走ってきた。両手を揉み合わせ、辛い思いをさせられたそうな表情を浮かべた。
「やれやれ、下手に可愛い子ぶるなんて、しないほうがいいよ。誤魔化すつもりか?」
「えへへ、バレちゃったみたいですね」
画霊の女の子がペロリと舌を出し、あかんべえをした。
「おいおい、見れば分かるさ。その劣る演技力」
「そんな…すでにうまくいくと思っていました…」
「って、君、わざわざ僕の実家の家と同じような幻像まで作って、迷わせてくれる?」
「実は、ここの幻像は妾がわざわざ作り出したものではありません。主の心から映り出したものです」
「心から?」
「そうなんです。ここは主の心の中のしこりから映り出したところです。」
「僕の心のしこりって、一体何だ?」
「ここの光景は現実と何か異なることをじっくり考えてみてください」
「そう言われると、その女の子の部屋、母、さっきのもう一人の僕、それと、レンカ」
「正解のようですね」
「母の幻像がここに現れることは、母の行方不明に対して心にかけて忘れられないからだ。それは分かっているけど… でも、ほかのことはわけ分からないな。」
「多分、それは、主の記憶の奥に埋もれてしまう残像です」
「でも、まったく印象にないぞ」
「妾にも分からないです」
「そもそもどうしてこの絵の世界に巻き込まれたのはこの僕なんだよ!」
「それ、分かります。多分なんですけど…」
「分かったら早く言えよ」
「主の体質…一般人とは違うらしい、です」
「そう言われても、僕には霊力がないからさ…」
「いいえ、体質っていうのは霊力の有無ではありません。何というか、主の体は霊体向きっぽいです」
「それ、どういう意味かよ?今更僕を翻弄する気か!」
「つまり、妾にとって、この絵より主の体のほうが住みやすいです。この絵の世界はもうぼろぼろになっています。故に、今をもって、妾が主の体に住ませてもらいます。これからよろしくお願いしますね。」
「ふざけるな!おい、何言ってるか分からないぞ」
「だって、ここにいては寂しいですもの…」
「…寂しい?」
「そうなんです。…この世界のみんなが全部偽物で、妾はずっと一人ぼっちですもの。狂いすぎた後に感じる寂しさはもうこれ以上…」
…返す言葉もない。言い返したくもない。
彼女はゆっくりと僕に向かって歩いてきて。そして、そのまま僕の体の中に消えてしまった…




