1話 突然訪れた少女
思いも寄らないことはこの世にはたくさんある――
捨て石となった僕はもう何も求めないんだが…
…
ドン、ドン…
「誰だよ、こんな夜遅くに」
ドアを開けたら、なんと倒れている一人の白髪の少女がいた。
「こ、これは...」
ライトブルーワンピースを着ている少女は、こんな夜に、どうしてここに倒れているのか――思わず考えてしまう。
傷ついたようには見えないが、疲れそうで立ち上がれないようだ。
まあ、とりあえず… 助けないと…
少女の体に触れ、体温が少し冷たいとはいえ、まあまあ正常だ。
「おい!大丈夫か?」
少女を助け起こしようと思ったが、その体が思ったより軽かったので、つい…
話が終わった途端…
「兄、さん?」
小さめな唇から聞こえてくるのは、鈴を転がすような澄んだ声だった。
少女は頭を上げて、疲れそうに涙を含んだ無邪気な瞳で見つめてくる。
まるで子供のようで幼げな顔をしているベビーフェイスに色白な頬。ロングヘアの前髪は少し横に分けていて、眉毛が薄く見える。
一瞬、互いに見つめ合うことになった。とても懐かしい感じがして、心が吸い込まれそう。まさに心を重ね合わせるように感じられる。
「ああああああああああーーーーーーーー」
急に頭が割れそうに…
ぼんやりする光景は次々脳裏に浮かんでくる。目の前の少女が現れた、このぼんやりする記憶の中に…。頭がすごく混乱している。
この子は一体誰…
本当に僕の妹なのか。
もしかして、昔から離れ離れになっていた妹なのか?
少なくとも、頭の中で…確かに、この子についての記憶が…
いや、僕には妹がいないはずなんだが…
まさか幼馴染ということか?それでも印象がない。
「兄さん、どうしたの?私のこと、嫌い?会いたくない?」
頭痛がだんだん軽くなって、さっき思い浮かんでくる光景も消えた。
なぜだ?!もしかして、この子とどこかで会ったことがあるのか。だったら、どうして覚えていないんだろう…。って、さっきの思い浮かんできた光景は?!頭が割れそうな感じは?!
「そ、それ、より、ひ、人違い、だ、だろう」
恐怖が去らずビクビクしていて、声がわなわなと震えていた。
「ううん、兄さんは、兄さんなの。また兄さんに会えて、嬉しいの」
すらりとした少女はワンピースの裾がひらりと揺れる。
「参ったな…」
もう真夜中なので…
この子を放っておいてはいけないと思って…
今は僕なりの合理的な判断をするか。
この子は何か困難にぶつかって、偶然訪れたんだろう。
とにかく、体調をチェックする必要がある。
「…仕方ない、知り合いのお医者さんに連れていこうか。そもそもこのあたり結構危ないんだな。」
具合のよいアドバイスをしたけど…
「ふぁー…嫌、兄さんに会うだけ、そう、言われた」
少女が眠そうに目をこすっていた。
「あー、分かった、分かった。ひとまずは…待って、『言われた』ってどういう…」
誰かにここまで来ると言わされたということか…
気がついたら、少女はもう勝手に僕をぎゅっと抱きしめて…
「私を一人にしないで、兄さん… これからずっと離れない…」
「でもよ、僕には妹がいないけどな」
しかし、僕はその懐から脱け出していない。
なぜだろうか。多分この少女に対して特別な感情を抱いているのかな。
「ひどい、せっかく兄さんに会ったのに… どうして…」
少女はぽろぽろ涙がこぼれてくる。
「だから、僕は君の兄さんじゃないって」
「どうして、どうして、兄さんは、私のことを忘れちゃったの?私のこと、覚えてないの?」
もともと眠そうに見える少女は、急に感情を抑えきれななくなった。
「やっと兄さんに会ったのに… 兄さんもきっと喜んでくれると思ってたのに…」
少女の涙で僕の襟が濡れた。
「落ち着いてくれ、あのっ、できるだけ満足してあげるから」
「やっぱり、兄さんはもう私のこと覚えてないの。満足なんて、おかしいよ、兄さんらしくない。でも、兄さんは相変わらず優しいの。だから、兄さんのこと…」
話がまだ終わっていない少女は、僕の懐でスヤスヤ眠ってしまった…
やれやれ、これは仕方ないよな。
この子をベッドまでお姫様抱っこして運ぶか。部屋にたった一つのベッドまで。
少女は、ベットでぐーぐー眠り込んでいる。
まあ、寝ている様子から見れば、体調は悪くないはず。
ただ、その寝顔を見ると、どうやら僕が今夜床に寝なければならないと、そう判断した。
…