第一話:私、人狼になりました
「おーい、暇な奴らで今日人狼ゲームしようぜ! 強制参加だぞ~」
「いいねっ! もう卒業だし、やろやろ!」
この二人の発言から私達は、普通なら有り得ない様な経験をする事になる。
……それは、良くも悪くも大変な日常の幕開けだった____
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教室の隅に集まっているのは私のクラスメイト達だ。
クラスの暇な人達で人狼ゲームをやろうと誘われ、断れないままこの状況に……。まさか夜に学校へ忍び込むとは思わなかった……。
十三人……どれ位で終わるかな。
「カード行ったよね。じゃ、始めるよ!」
スマホを使って音声を流す。
今の時代は、何でも有りなんだろうか……。
私ら小学生だよ、一応。もう卒業するけど。
と、考えながらカードを見ると……私の役職は
……人狼?____
『恐ろしい夜がやって来ました。』
暗い機械音声の様な声が聞こえた瞬間、眩しい光に包まれて皆の気配が消えて行った。
眩しいはずなのに暗い所に居る様な感覚に襲われ、悪寒が走る。
手足の居場所が安定せず、声も出せない。出来る事と言ったら目を閉じる事だけ……。
そう、目を閉じる事だけ……。
気が付けば私は部屋のベッドで寝ていた。
何時もの部屋なはずなのに何処か違和感がある。
「……漫画の位置もズレてないし、グッズもある」
オタクの私が一番最初に気になったのは、大好きな『能力者学園~はるに始まる新たな出会い~』関連だ。
元はゲームだが、今ではアニメ化や漫画化等に続々とメディアミックスをしていっている。
「はぁ~……『学はる』最高」
まぁ、学校では知ってる人も少ないんだけどね……。
今は認められてきたオタク文化も小学生ではからかわれる事も多い。
「……人の好きなものなんかほっといてくれればいいのに」
「本当そうだよね。人間って面倒」
いきなり耳元から声が聞こえる。
少年のようなその声は懐かしさを感じさせ、妙に落ち着く。
が、此処の部屋に入って来た謎の人物という存在に恐怖も感じる。
「だ、誰!?」
振り返るとそこに居たのは黒髪に赤い目が印象的な男の子。
ニヤリと笑った口元には八重歯が見える。
「ボク? ……ボクはね、人狼だよ」
「はぁっ!? ふざけるのは止めてよ! 人狼がこんな所に居るわけ……」
「何言ってるのさ、君も人狼じゃないか」
「……え」
急いで手鏡を使って確認するとそこに写るのは耳の生えた私。
意を決して触って見ると柔らかい感触。
だが、何か違和感を感じるというか……くすぐったい。
「何で自分の一番敏感な所触ってんのさ、君、変態?」
「んなっ……!?」
どうやら耳や尻尾は人狼にとっては人一倍敏感らしい。
……というかそもそも人狼は全てにおいて敏感で生きづらいのだと。
「何で私がこんな目に……」
「それは君達があの日に人狼ゲームをしたからじゃないか」
満月の日の夜には異界との境界線が歪むんだって。
でも、今更そんなこと言われてもやってしまったものは仕方ない。
「聖奈~、何時まで寝てるの? 翔亜はもう起きてるわよ」
「はーい! ……あんたもついてきて」
「えぇ、ボクも~?」
「全部あんたのせい何だからッ!」
「とばっちり……」
そのまま私達はリビングに行き、挨拶を交わす。
「ママ、翔亜、おはよ~」
「「おはよう」」
「あ、姉ちゃん耳出てるよ。深呼吸」
「え、あ、うん」
弟の白石翔亜に指摘され、深呼吸をすると耳と尻尾が消える。なるほど、こういう仕組みか……。
あいつには誰も反応してないけど、見えないのだろうか。
頭を摩りながら椅子に座り、手を合わせる。
「頂きます」
私が無言で食べていると母親から声がかかる。
「そう言えば、桜ヶ丘学園から手紙届いてたわよ」
「え?」
「桜ヶ丘? 中高一貫校の?」
「そうそう」
え、桜ヶ丘? なんで桜ヶ丘って……。
「えー、姉ちゃん行くなら俺も行こうかな」
「シスコンって言われるんじゃないかしら……」
「大丈夫だって」
「え、え、ちょっと待って? 私ってその……桜ヶ丘に行くの?」
「? そうよ、今更何言ってるの?」
……私が元々通う筈だった学校は何処に行ったの……?
「ご馳走様」
何時もと何かが違うこの状況に怖くなり、急いで部屋へ戻って行った。
「もう、この世界は何!? 何処なの!? 元の世界に帰して」
「此処は此処だよ。君の元居た世界がネジ曲がった場所さ」
「じゃあ、この耳は? 尻尾は? 中学は? 意味わかんない……」
頭を抱えてベッドに倒れ込むと横から声が聞こえる。
どうやらベッドに座ったようだ。
「一気に説明したら混乱するよね。自己紹介をしよう」
「はぁ?」
「ボクはグリム、人狼」
「私は……」
「知ってるよ、白石聖奈、でしょ」
「何で知って……」
「さぁね」
笑いながらそういう彼に苛つきを覚え、何か言おうと思い口を開くが先に相手から喋られる。
「じゃあ、軽く説明しようか」
ニヤリと笑った相手は私の方を向き、そう言った。
「此処は君の世界。君の為に創られたと言っても良い」
「私の……為?」
「そうだよ。試しに窓を開けてみたら?」
そう諭され、窓を開ける。
私の目に写るのはいつもの?場所なのだろうか。
やはり違和感がある。
「人狼の君なら分かるよね。此処は前の世界と同じだけど違うんだ」
ベランダに出て更に広がる景色を眺める。
知っている筈なのに知らない。
「ねぇ、あの建物って……」
良く知っている形、色。
あれは……
「「桜ヶ丘」」
グリムと同時に言ったその言葉。学はるの舞台の学校だ。
恐怖や不安感よりも圧倒的に好奇心が沸き上がってきた。
……現金な奴だな、私も。
「やっぱり前言撤回。私を此処に居させて」
「うん、そう来なくっちゃ」
「元の世界なんかに戻ってやんないんだから」
「君ならそういってくれると思ったよ」
私はグリムの手を引く。
「"君"じゃない。私はセナ」
「……はいはい、セナ。宜しくね」