テトラの仕事
タイトル通り。
向かいの家に行くと、老人が俯せになって身をよじっていた。テトラと僕の来訪に気づくと、老人は痛みに呻きながら僕たちの方を見た。
「あぁ……テトラちゃん……助かった……頼めるかのぅ……もう何日も我慢してたんじゃ……テトラちゃんがいいからのぅ」
「はい……じゃあ、すぐ楽にしてあげますから」
テトラは老人の腰に両手を当てた。すると、その手から白い光が現れた。同時に老人は『あぁ~……』と、何やら気の抜けたような声を漏らす。
なんだろう……この光を見ていると、胸の辺りが温かくなる。気持ちいい……何とも解放的な気分になる。
しばらくすると、テトラの手から光が消えた。
「はい、おじ様。もう大丈夫ですよ」
「ふぅ……気持ちよかったのぅ……やっぱりテトラちゃんのが一番じゃ」
「えへへ……ありがとうございます。また何かあったら、いつでも呼んでくださいね。お手伝いします」
テトラは『それじゃ、これで』と外へ出ようとした。
「……ところで、そこの男は誰かの?」
老人は僕を指差した。
「ああ……彼は私の決闘相手です。先ほど申し込んで……」
「はぇええええええええええええええええ!?」
老人は調理器具の並ぶ棚にぶつかって倒れた。テトラが『大丈夫ですか!?』と駆け寄るが、老人は放心状態だ。
「決闘……なんでぇ……なんで決闘なんかぁ……」
テトラはしばらく老人を起こそうと奮闘したが、やがて諦めたようにその場を去った。
後を追うと、テトラは複雑そうな表情で項垂れていた。
「……テトラ、さん?」
僕は心配になって、彼女に声をかけた (久しぶりの台詞!) 。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ! 大丈夫です! 私はいつでも元気なのです!」
テトラは無理をして言ったのだ。僕には分かった。
「……それより、長老様のところへ戻って報告しましょう」
「報告? 何を?」
「決まってるじゃないですか、ユキオさんが私の仕事について理解したことをです」
「え……」
理解できていない。おじいさんが気持ちよさそうに溜め息を吐いているのを、眺めていただけだ。
……どんな絵面だよ。
「私は回復魔法の使い手で、人の病気や怪我を手当てする治癒士なのです」
説明してくれた。どうやら、この世界には魔法の概念があるらしい。異世界、ようやくファンタジー色が濃くなってきたな。
でも、よくよく考えると僕、既に女神に会って、輝望皇に選ばれて、何かしらの力を与えられてるんだよなぁ。神って、ぶっちゃけかなりファンタジーだからな。今更感は否めない。
「では、行きましょう!」
テトラは決意するように言った。長老の家へ入る彼女の背中が、僕には少し悲しそうに見えた……。
テトラは治癒士でした。なんか治療のシーンにいやらしい響きを覚えた人は、まあ僕からは正しくないし間違ってもないとだけ言っておくこととしましょう。
連載中の別作品『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』の方も、よろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/