パルカ村
テトラの故郷へ。言うなれば親御さんに挨拶する感じのイベントですね。
異世界のことを知り、僕はテトラの住む村に辿り着いた。
「まずは長老様に挨拶しなくちゃ!」
テトラは僕の手を引き、のどかな村へと入った。彼女の手は温かく、そして小さかった。村の家屋は木造で、屋根は藁を束ねて乗せているような形だ。
「おじ様、おはようございます」
「おぉ、テトラちゃん!おかえ……りぃいいいいいいいいいいいい!?」
老齢の男性はテトラを見かけると声をかけてきた。だがテトラと手を繋いでいる僕を見ると、腰を抜かしたように地べたに座り込んだ。
「てぇへんだぁ……バァさん……バアさんやぁあああああああああああああ!」
老人はうわ言を宣いながら家の中へ入っていった。
「……あの人、大丈夫なんですか?」
「あはは……もう、男の人を連れてきたくらいであんな驚かれちゃうと、決闘なんてしたらどうなるか分からないね」
そりゃある意味で結婚宣言だからな。
「テトラちゃんやぁああああああああ! テトラちゃんがどこの馬の骨ども知れねえダラズぬ取られつまうよぉ!」
誰がダラズだ。
「大丈夫! 大丈夫ですから、ね?」
「テトラちゃんんんんんんんんんんんんんん! オラと結婚すてくれるさ言ってくれたけ! あらウソだったすけ!?」
「もう、チャペリさん! そんな約束してないでしょ?」
騒ぎを聞きつけ出てきた青年を、テトラはたしなめた。
「さあ、ここが長老様のご自宅です。この騒ぎの様子だと、多分もうお目覚めになられてるはずです」
テトラは一際大きい家へと入っていった。手を引かれ、僕も彼女の後に着いていく。後ろからは『スケベ男!』とか、『女ったらし!』とか、謂れのない罵詈雑言を浴びせられた。
僕は不思議と苛立ったりはせず、どころかテトラを羨ましく思っていた。彼女は誰からも愛されている。でなきゃ、こんな騒ぎが起きるわけないだろ?
家の奥へ進むと、赤い敷物の上で胡座を掻く老人の姿があった。彼が長老なのだろう。
「長老様、ただいま戻りました」
テトラが一礼すると、長老は眼を開き、彼女と僕を見た。
「テトラや、お帰り。大事ないようで何よりじゃ……はて、その小僧は?」
「はい、長老様。彼のことでご相談があります」
「なんじゃ?」
「……彼と決闘します」
老人は黙ったまま立ち上がる。僕の目の前まで近づくと、老人は僕の顔や佇まいをまじまじと見つめた。
「むぅ……まぁ、テトラの決めたことであれば儂に反対する権利などないわけじゃが……テトラや、この小僧はテトラの仕事について知っとるのか?」
「あっ……いえ、まだ話してません」
「話してない……じゃと……?」
「はい……色々あって、ついうっかり」
テトラはバツが悪そうに『えへへ……』と笑った。可愛い。
「では、まず小僧に見せてやるといい。テトラが何を生業としとるか。幸い、ちょうど向かいのペレベレが腰を痛めておるらしい。テトラに治療を依頼したがっておった。結婚するのは、互いについて理解を深めた後でも構わんじゃろ」
「長老様! まだ結婚すると決まったわけじゃ……それに、私では多分……」
「ともかく、まずはペレベレの家へ向かうのじゃ」
「分かりました……行きましょう」
長老の命に従い、テトラは一礼して出ていった。僕も彼女に倣い、着いていく――僕、主人公なのに台詞がない……。
主人公に台詞がない回でした。
別作品『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』もよろしくどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/