神々の戦い ~異世界誕生秘話~
説明回。
テトラは語り始めた。遥か古代から現代まで続く、神々の戦いの歴史を。
「昔々、女神セア様とリョウゼンという邪神がいました。邪神リョウゼンは破壊を自らの唯一の存在意義とし、たくさんの命を滅ぼしました。
女神セア様は全生命の自由と平和のため、邪神リョウゼンと戦いました。空を落とし、海を割り、陸を裂いた熾烈な戦いは、相討ちに終わりました。女神セア様と邪神リョウゼンは力を使い果たし、実体を失いました。
ですが、邪神リョウゼンの思念は生き永らえ、いずれ自分が認めた人間の身体と心を乗っ取り、再び破壊の限りを尽くさんと機会を窺っていました。女神様はそれを知ると、邪神リョウゼンの復活に備え、眠りにつきました。
そして長き年月が経ちました。ある時、邪君ディノグレンが世界を支配しました。ディノグレンには邪神リョウゼンの思念が取り憑いていました。悪の権化が復活を果たしたのです。
邪神リョウゼンは、かつて自分の邪魔をした女神セア様を激しく憎んでおり、その邪念はディノグレンの行動に表れました。ディノグレンは支配下にある領土での独裁政権を悪用し、惨酷なまでの男尊女卑社会を築きました。
女神セア様はこれに対抗するために目覚め、神の力を使う素質のある資格者を選定し、戦う力を与えました。選ばれた者は、奇しくも女性でした。
彼女はディノグレンの支配下にいましたが、多くの同志と共に彼の独裁政権の届かぬ地へ逃れ、女性のみの組織を創りました。組織は村落、都市へ発展し、最盛期には国家になりました。国家ではディノグレンに反逆する発端となった女性に敬意を表し、『輝望皇』の地位を与えました。彼女が最初の輝望皇、エクレール様です」
「輝望皇? ……最初の?」
僕はオウム返しに訊ねた。僕以外にも輝望皇がいたのか?
「はい――輝望皇エクレール様は生涯に渡ってディノグレンと戦い、ついに勝利を収めました。当時、最後までディノグレンの支配下にあった領地は、男尊女卑の観念が凄まじく、女性の立場は最低に位置していました。邪神リョウゼンが、女神セア様と輝望皇エクレール様、二度に渡って女性に妨害を受けたことに業を煮やしたからだと言われています。
一連の戦いを経て、この世界の法律は根本から見直され、今日に至るわけです」
「そうだったんですか……」
なぜ決闘が結婚に繋がるのかは分かった。男性から女性への接触を警戒し、ディノグレンの独裁政権時代の二の舞を防ごうとしたのだ。でも、男女の関わりがなければ子孫は生まれない。そこで女性の優位性を維持・可視化する意味も兼ねて、決闘と結婚を結びつけたのだろう。
だが、ここで新たな疑問が浮かぶ。異世界の歴史や法律に疎い僕でも、今は聞かなければならない。輝望皇について。
「その……輝望皇って、現代にもいるんですか?」
僕はテトラに訊ねた。前方には、小さな村が見えてきた。テトラは途端に表情を一変させ、怯えている様子だ。
「とんでもない! 輝望皇様は暗黒の時代にのみ現れます。今の世の中は平和です。あなたのような優しい男性がいるのですから」
「いや、僕はそんなんじゃ……」
僕は顔を伏した。こうもハッキリ言われると、なんだか照れてしまう。
「まあ、たとえ現代に邪神リョウゼンが復活したとしても、また輝望皇様が阻止してくださるでしょうから――」
ん? 復活? また?
「ちょっと待ってください……邪神リョウゼンとの戦いは終わったんですよね?」
「いえ? 終わりませんよ」
テトラはしれっと言うのだった。
「邪神リョウゼンは、初代輝望皇であるエクレール様が邪君ディノグレンを倒した後も、幾度となく復活を繰り返しています。新たな人間に取り憑き、世界を暗黒の時代に陥れようとするのです。
その度、女神様は眠りからお目覚めになられて、輝望皇様を選定なさるのです」
……じゃあ? 僕が輝望皇に選ばれたということは、もうすぐ邪神リョウゼンが復活するということなのか?
「女神セア様が仰るには、邪神リョウゼンの思念が抱く怨嗟は果てがなく、戦いは永遠に終わらないとのことです……大丈夫です! 私たちには輝望皇様がついています! いかなる時代も、どんなに深い暗黒でも、きっと輝望皇様が照らしてくれるのです!」
どうやら随分と高く買われているようだ。
「さあ、そうこうしている内に着きましたよ! 私の村です!」
僕たちは辿り着いた。テトラの住む村だ。
台詞が大半となってしまいました。
あ、『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という連載中の別作品は地の文が充実していますので、よろしければご一緒にどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/