腐敗の館
この一家は、どうしようもなく腐っていた――。
僕たちはゼルファノーガ卿とその息子3兄弟と対面した。そこへ、綺麗な銀髪の女性が現れた。
「失礼します。紅茶をお持ち致しました」
女性がか細い声で言うと、突如、ゼルファノーガ卿がテーブルを思いきり殴った。
「マリア! 遅いぞ、このたわけが! 客人をもてなすのがお前の仕事だと言うに、何をちんたらとしておるのだ! さっさとそれを持ち寄れ!」
そんな理不尽な怒号を浴びせられても、マリアと呼ばれた女性は顔色一つ変えず、僕たちにティーカップを配った。
テトラは心配そうに彼女の様子を窺ったが、全く動じてはいないようだ。
「なんだこれは!?」
ゼルファノーガ卿はティーカップの中を覗くと、また怒鳴った。
「マリア! こんな粗悪品を客人や我らに出したのか!? 何たる冒涜だ!」
ゼルファノーガ卿はティーカップを傾け、マリアに見せつけた。僕たちも自分のティーカップを覗いたが、しかし特に変わった様子はない。
「……何かございますか?」
マリアも差し出されたカップを見ると、無表情で首を傾げる。
「お前には目がないのか!? 毛が入っているではないか! この能無しの恥知らずめ!」
ゼルファノーガ卿は『見たまえ!』と、僕たちや3兄弟にもカップを見せつけた。確かに紅茶の水面に毛が1本、浮いている。
しかし、それは明らかにマリアのものではなかった。マリアの髪の毛は銀色だ。カップに入っているのは茶色の毛――ちょうど、ゼルファノーガ卿の髭と同じ色だった。
「もういい! お前は脇に控えてろ!」
ゼルファノーガ卿は、なんとカップの紅茶をマリアにかけた。かと思えば怒りに任せてカップを叩き割り、マリアに『片付けろ!』と命令した。
マリアは顔や服にかかった紅茶を拭うことすら許されず、カップの破片を拾い始めた。
「さて、娘が無様な姿を見せてしまったな、客人よ。改めて用件を聞こうか」
「え、あ、あの……」
テトラはマリアの方を見て、言うのを戸惑っていた。彼女の隣では、アンナが顔を真っ赤にして拳を握り、全身を震わせている。
テトラは立ち上がって、マリアの元へ向かおうとした。彼女を手伝うつもりだったのだろう。しかし、それをゼルファノーガ卿は引き止めた。
「私に用件を聞き入れさせたいのなら、客人よ。勝手な真似はするな」
これは警告だ。マリアを助けるなという警告。こいつ、自分の娘を何だと思ってるんだ……。テトラは一瞬、葛藤するあまりマリアをジッと見つめたまま停止したが、やがて肩を落として元の場所に座った。
仕方がなかった。テトラは、村のみんなの期待を背負ってここへ来たのだ。用件を言いもせずに立ち去ることなど、出来るわけはない。
マリアはまだ、黙々と独りでカップの破片を集めている。
「――私、学校に入学したいんです。そのために、王国民証と首都民証が必要で――」
「ほう、どこに入学したいのだ?」
「フォーブルス都立学園、です……」
テトラが言った瞬間。ゼルファノーガ卿の目の色が、豹変した。
「……つまり、治癒士か?」
「は、はい……そうです……」
ゼルファノーガ卿は立ち上がり、テーブルを迂回してテトラに近づいた。腰を曲げて、その顔を間近で見つめる。テトラは凄く気まずそうに目を伏した。
やがてゼルファノーガ卿は席に戻った。この時、僕は彼が嫌な笑みを浮かべた気がした。
「……テトラ、と言ったか」
「は、はい」
「規律に則り首都民証は発行しよう……だが、王国民証を発行するには条件がある」
「じ、条件……ですか……?」
テトラは不安げに聞き返した。一方アンナは、不信感を隠すことなく、ゼルファノーガ卿に疑惑の視線を投げかけている。
僕は、マリアが片付けを終え、ゼルファノーガ卿と3兄弟が座るソファの後ろに立ったのを見た。僕と目が合うと、マリアはソファの背もたれ辺りに視線を移してしまった。
そして、ゼルファノーガ卿は偉そうに足を組み、テトラに言った。
「我が息子カルロと結婚しろ」
衝撃の一言だった。
次回、急展開……!
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