フローゼリア家53代目当主、ゼルファノーガ
アンナ、暴走す!?
僕とテトラはアンナに案内 (白状しよう、これはダジャレだ) され、フローゼリア卿の邸宅の前に辿り着いた。フローゼリア家の隠された歴史と、男尊女卑を至上とする主義を聞き、僕たちは3人でテトラの王国民証と首都民証の取得を目指すことになった。
アンナは、巨大な門を思いきり蹴飛ばした。
「頼もーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「いやそれ人にものを頼む態度じゃないいいい!」
あまりに突然の暴挙にも関わらず、僕は冷静に突っ込んでしまった。
「何かご用件ですかな?」
すると、アンナが蹴り飛ばした門を片手で弾き、恭しくお辞儀をする人影があった。白髪にスーツ姿の老人だ。
「フローゼリア卿に会いたい。王国民証と首都民証を発行してもらいたいんだ」
「承知致しました。では、中へご案内致します」
意外なほどすんなり通してくれるようだ。
「アタイは巷では少し名が通っててね、フローゼリア家も『ケルベロスの狂犬』が来たとなりゃ、通さないわけにはいかないだろうよ」
と、アンナは得意気に言う――いや、多分それ悪名だわ。
「その門の修繕費は後日、ケルベロス宛てに請求させていただきます」
思いっきり怒ってるわ。テトラは『ごめんなさい、ごめんなさい』と何度も謝りながら老人に着いていった。
アホほど広い庭園を横切り、僕たちは邸宅の中に入った。ツルピカに磨きあげられた壁と床が眩しい。真っ白だ。由緒正しそうな絵画や置物などが所狭しと飾られ、少しも油断できる状況じゃない。
僕たちは客間に案内され、フカフカのソファでくつろぐよう促された。
「では、ゼルファノーガ卿をお呼び致しますので、しばしお待ちください」
老人は深々と頭を下げ、部屋を出ていった。
「ゼルファノーガ卿って?」
「フローゼリア家の現当主。最低な奴だよ」
僕の質問に、アンナは舌打ちして答えた。
「そ、そんな言い方はダメだよ。私、今からゼルファノーガ卿にお願いをする立場なんだから」
そんな話をしていると、先ほどの老人が戻ってきた。
「お待たせしました。ゼルファノーガ卿と、そのご子息様ご息女様でございます」
老人が頭を下げて道を空けると、ライオンのたてがみが刺繍された黄金のマントを羽織る、壮年の男性が入ってきた。
彼の後ろから、眼鏡をかけた知的な青年、高身長で顔立ちの整った青年、服の裾から腹がはみ出している巨漢の少年が、続々と僕たちの向かいのソファに腰を下ろす。
「ようこそ、客人よ。我が荘厳なる館へ」
ゼルファノーガ卿が、大げさにマントを翻して言った。
「我こそがフローゼリア家53代目当主、ゼルファノーガ・ドゥ・ラムカデーベ・アッセラムザ・ファンブレア卿である」
ゼルファノーガ卿は、余計に声を大きくして名乗った。うるさい。
「私は当主の長男、フローゼリア家1等54代当主候補、ゼンダ。つまり、この高潔なるフローゼリア家の次期当主だ」
眼鏡の青年が言った。彼の声は普通ではあったが、どこか冷めた印象がある。いや、というよりは僕たちを蔑んでいるようだ。
「俺は次男のベリク。2等次期当主。つまり兄貴が死んだら俺が当主ってわけ。……お嬢さん、今夜は俺と一緒に夜を過ごさないか?」
長身のイケメンが、対面のテトラに投げキッスをした。テトラは愛想笑いをしたが、なんだか反応に困っている。
僕は彼女の隣から、次男坊を睨んでやった――僕の妻を口説いてんじゃねえよ。
「ボクは三男のカルロォ……」
太った少年がくぐもった声で言う。別に暑くもないのに、彼は汗だくだ。
「さて、客人。名前を窺おうか」
ゼルファノーガ卿に言われ、僕たちは名乗った。アンナは嫌悪を剥き出しにして、少し無礼な態度を取り続けていたけれど、特に咎められたりすることはなかった。
「ではユキオ殿、テトラ殿、アンナ殿。何用かな?」
「はい。私、実は――」
テトラが切り出そうとしたところに、部屋のドアをノックする音が聞こえた。ゼルファノーガ卿が『入れ』と言うと、ティーカップが乗ったおぼんを持って、綺麗な女性が入ってきた。
僕やテトラと同い年くらいの、腰まで伸びた銀髪が美しすぎる女の子だ。
新ヒロイン登場! そして事態は……変わる。
同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』もよろしくどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/




