フローゼリア邸へ
ついに明かされる、アンナが同伴するワケとは!?
僕たちはアンナの案内 (いや別にダジャレとかではない) に従い、首都の居住エリアに向かった。
「わぁ……おっきい……」
テトラは建ち並ぶ住宅を見ると、目を丸くして呟いた。民家は一戸一戸が3階建て、外装は金箔と豪勢な造りだ。大きな門と広い庭、プライベートプールが当たり前のようにある。
「こ、これは私が田舎者なのか、ここが都会なのか、ちょっと分からなくなってきたよ……」
「いや両方でしょ……ただ、やっぱりここは段違い過ぎるね。なんたって、世界一なんだから」
テトラに突っ込みを入れながら、アンナ自身も半ば呆れたように住宅地を眺め回した。
「――あ、そういえば、フローゼリア卿ってどういう人なんだ?」
僕は首都に入る前から聞こうと思っていたことを思い出した。アンナは、明らかに嫌そうな顔をした。
「王国の何パーセントかの領土を所有する大地主さ。それでも地主の王と呼ばれるエンデゲイツ伯爵には及ばないけどね。でも、フローゼリア家は首都の中でも最古の歴史を持つ大貴族だから、所有する領土が少なくても、ここらでは一定の権力を持ってる。
更にフローゼリア家は、代々当主が『ディザスター』のギルドマスターを務めているから、この街では何をするにも、あそこを通さないと話にならないのさ」
「ウソ!? あのディザスターの!?」
テトラが跳び上がるほど驚いた。キョトンとする僕に、アンナは苦笑いしながらも説明してくれる――悪かったな、世間知らずで。
まあ、僕は世間知らずというか、世界知らずなんだけれど。
「ディザスターは、専門ギルドの一つさ。アタイらケルベロスがアタッカー専門なのに対して、あちらさんは『ブラスター』専門なのさ」
「ブラスター?」
「ロールの一つで、魔法を主軸にして戦う奴を指すんだ。つまり、ディザスターは魔法を使う奴なら誰もが一度は憧れる、超名門ギルドってこと。何せ、ブラスター専門ギルドじゃ最強で通ってるからね。
アタイらアタッカーは、ブラスターとは犬猿の仲でね。だからケルベロスとディザスターは長年、いがみ合っていつ抗争になるかも分からない状態なんだ」
アタッカーは武器や拳を用いた近接戦闘職、ブラスターは魔法を使った中~遠距離戦闘職か。なるほど、確かにソリは合わなそうだ。
「でも、代々ディザスターのギルドマスターだなんて、とっても偉大な一族なんだね!」
テトラがパァッと顔を輝かせて言った。可愛い。可愛いけれど、アンナは全くもって不機嫌だ。
「偉大なもんか。あいつらは……ただの差別主義者だ」
「え?」
テトラが聞き返す。一体どういう意味なんだ?
「フローゼリア家は、邪君ディノグレンの腹心が初代当主でね。以来、現代までずっと男尊女卑社会を一貫して主張し続けてるんだ。あそこには三男と、女の子が一人いるらしいけど……可哀想に。きっととんでもない冷遇を受けているはずだ」
そんな、まさか……邪君ディノグレンって、たしか邪神リョウゼンが最初に取り憑いた奴だろ? そして、初代輝望皇エクレールと戦った……。
僕とテトラが驚愕していると、アンナは一際きらびやかで巨大な屋敷の門前で立ち止まった。
「着いたぞ。ここがフローゼリア家の屋敷だ」
黄金の宮殿――そんな言葉が相応しい豪邸だ。僕とテトラは、思わず言葉を失う。
「……アンナ、ここまで本当にどうもありがとう」
テトラがペコリと頭を下げた――そうか。アンナは本来、ケルベロスの人間だ。僕たちと一緒に来る必要は、本当はなかったんだ。あくまで、彼女の厚意による案内だった。
つまり、ここでアンナとはお別れ――。
「何を言ってるの、テトラ。アタイも一緒に行くよ」
――ではなかった。
「フローゼリアのクソ当主が何をするか、分かったもんじゃない。アタイはね、テトラ。あなたとそこの頼りないクソ亭主を守るために一緒に来たんだ。分かったら、ほら。さっさと行くよ」
姉御ぉ……。
次回、対面!
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