大自然の真ん中で
いよいよ挙式!
アンナがデレた。
「式は今日にしよう!」
なんか覚えのあるノリで、結婚を宣言された当日中に結婚式を挙げることになった。
「いやいやいやいやいや、アンナちょっと待とう。色々と待とう」
「やだ! アタイはやると言ったらやる! 全ての男を殺すと誓ったのと同じにな!」
「それは結構だけど……」
「貴様を殺すのは最後にしてやる!」
「それは結構……じゃないわ」
やっぱり、この台詞、どうにも信用できないんだよなあ……あれは嘘だ、とか言っていとも容易く裏切られそう。
まあ気のせいなんだけれどね。
「……アタイは孤児だ。施設の親や兄弟姉妹、家族を捨てて双剣士になった。今さら呼べる人なんていない」
テトラは、綺麗な空を見上げた。
「ただ、テトラには見ててほしい……アタイの、バージンロード」
「うん……もちろんだよ」
「……ありがとう、テトラ」
二人は抱き合った。それは友人同士の親交だった。
「……テトラは、その……いいの?」
「なにが?」
「いや、だって、テトラからしてみれば、僕が別の女の子と結婚するってことで、つまりは浮気みたいなものであって……」
「気にしないよ? だって、アンナなら絶対にユキオさんを守ってくれるし、何より私、アンナと二人でユキオさんの奥さんになれること、すっごく嬉しいの!」
どういうこっちゃ。
「でもアンナ、花嫁衣装とかはないけど、いいの?」
「いいんだ。アタイ、ああいう感じは性に合わないから。アタイはアタイらしく、このギルドの戦闘服で結婚するさ」
こうして、三人きりの結婚式が始まった。新郎は僕、新婦はアンナ、テトラは新婦のバージンロードのエスコートと神父の二役だ。
新婦と神父。
「こっ、こういうの照れるなあ……」
テトラは僕たちと向かい合うと、途端に顔を赤らめた。
「タジマ ユキオさん。あなたは、この女性を生涯の妻として認め――『第1妻同様』、末永く愛することを誓いますか?」
「……はい」
テトラの語調が、途中で急に強くなった気がした。
「アンナさん。あなたは、この男性を最愛の夫とし、第1妻と共に、いついかなる時も支え、励まし、守り、助け、愛することを誓いますか?」
「はい」
即答だぁ……テトラの時とおんなじだぁ……。
「では、誓いのキッスを」
キッスって……なんだか噴き出しそうになったけれど、なんとか堪えた。テトラの時と違い、アンナにベールはない。
僕はアンナと向き合った。この広い草原の中心で今、僕とアンナは結ばれようとしている。僕はアンナの肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づけた。
アンナの肩は揺れていた。恐怖か、あるいは高揚か。いずれにせよ、僕も同じくらい震えている。でも、なんだかアンナは落ち着いている。僕と口づけを交わす心の準備が、完璧に整っているかのようだ。
どうしよう、僕、準備とか全然まだアレなのに……。
「……タジマ?」
「はい……え?」
アンナは目をつむりながら、初めて僕の名前を呼ぶ。
「アタイは焦れったいのは嫌いなんだ」
アンナは僕の頬を掴み、強引にキスした。アンナの唇は厚く、堅かった。剣士として鍛え上げられた体は、しかしなぜか触れてみると心地よかった。
なんとなくだけれど、テトラをバニラ味と例えるなら、アンナはクリーム味だなと思った。僕の印象を裏づけるように、アンナは僕の背中を抱き締め、体の芯まで這い入る蛇のようなキスを続けた。
アンナの汗のにおい、鉄のにおい、獣のにおい――そういうのは一切、気にならなかった。むしろ、そのにおいがこの瞬間をより刺激的にした。ここには、僕とアンナしかいない。そんな気持ちになる、情熱の溢れるような時間だった。
こんなのは初めてだった。
次回――双剣士アンナ編、完結!
同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』も、第二章が完結間近です。よろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/




