激昂
テントの中で見たモノとは!?
テトラと和解し、僕はアンナと見張りの番を代わった。すると、アンナは凄惨な過去を語った。聞き入るテトラに、アンナは自分の気持ちを打ち明けた。
二人は寝袋の中に入っていた。アンナは寝袋ごと回転し、テトラに馬乗りになるような態勢になっている。筋肉質なアンナの下敷きになり、テトラも息苦しそうだ。
「テトラから離れろ!」
アンナは僕を無視し、テトラを抱き締め続けた。テトラは懸命に抵抗しているが、振りほどけない。寝袋の中で絡まる二人を引き離そうと、僕はテトラの身体を抱えた。どこを引きちぎられようが知ったことか。
アンナに殴られ、蹴られ、引っ掻かれながらも、何とかテトラを救出することが出来た。アンナが怒りの形相で寝袋から出ようとしているので、僕は急いでテトラをテントの外へ連れて行く。
焚き火の明かりが、テトラの姿を鮮明に映し出した。服がはだけ、あの白く清らかな肌が露になっている。テトラの豊かな胸がチラリと見えてしまい、僕は目のやり場に困った。
「貴様ああああああああああああああああ!」
アンナが叫びながら出てきた。両手に双剣を握っている。
「アンナ! 落ち着いて!」
テトラの制止も、今回は逆効果だ。
「テトラ……アタイより、こんな奴の方が大切なのか!?」
アンナは片方の剣先をテトラに向けた。テトラは一瞬動じたが、怯みはしない。強い女の子だ、彼女は。
「アンナ……お願い……やめて……」
テトラの懇願にすら耳を貸さない。アンナは失望したように項垂れると、次は僕に憎しみに染まった瞳を向ける。
「……決闘だ……」
「やめて! アンナ!」
テトラの声は届かない。
「アタイは貴様に決闘を申し込む!」
……え?
「ど、どういうことだよ?」
決闘とは、即ち結婚するための儀式のはずだ。
「アンナ……僕と結婚したいのか?」
「気安くアタイの名前を呼ぶな! 誰が貴様みたいな人間のクズとなんか結婚したいもんか! くたばれ! 見当違いな憶測をくっちゃべるならその口ずっと閉じてろカス!」
見当違いらしかった。
「……結婚したら、相手を殺しても罪に問われないの」
「え……」
「夫と妻になった男女は、妻が夫を殺しても、法律上なんの問題もなくなるの……アンナは、ユキオさんを殺すために……」
え? いやいや、ちょっと待って。どうして? どうして結婚相手を殺しても無問題なの? おかしくない?
「あ、そうだ。そういえば僕、テトラと結婚している既婚者だった。いいや参った。というわけだから、ごめんアンナ、僕は君とは結婚できないや。アンナと結婚して殺されたいのは山々なんだけれど、テトラと結婚してしまっている時点でこの決闘は叶うべくもないよね?」
「ユキオさん。この世界では、人は何人の人と結婚してもいいの」
「はあ?」
「前にも言ったよね? 古代から続く女神セア様と邪神リョウゼンとの戦いで、男の人は畏怖され、女性から遠ざけられるようになった。子孫を残すため、女性から男の人に決闘を申し込むという婚約システムが生まれた。けれどね、これだけだと、やっぱり私たち人間が末長く繁栄するには足りないの。
だから、その打開策として重婚が合法化されたの。リョウゼンが支配した時代は一夫多妻制でね、女性の地位は最低だった。エクレール様が勝利してからは廃止されたけど、後年は人口の急減が目立ったから、重婚によって改善しようとした。これが成功して、今に至るの」
つまり、この異世界は一夫多妻制が禁じられた代わりに重婚が合法化された異世界だと――いや、どう考えてもおかしいだろ。
タイトル回収。そして次回、驚愕の対アンナ戦、開始――!
同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』も、よろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/




