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本性

 アンナ、始動。

 僕とテトラとアンナ、3人で王国を目指し旅をしている。アンナはいい人だった。テトラの厚意に甘えて、僕は彼女に見張りの番を任せ、テントの中へ入った。

 すると、アンナが僕を拒絶した。どういうことだ?


「今度アタイに近づいてみろ。引きちぎってやるからな」

「どこを!?」


 僕の問いに答えず、アンナは寝返りを打った――ちょっと待て。え? 何これ? どういうこと? アンナはテトラと僕を心配していて、それで……。


「アンナ……」

「アタイは忠告したからな」


 言い終えるや否や、アンナは寝袋から這い出て僕を押し倒した。あっという間に馬乗りになり、剣を抜いて、僕の喉に触れるか触れないかのところで止めた。

 あまりに一瞬すぎて、テトラに助けも乞えなかった。


「さあ、どこを引きちぎればいい?」


 待て待て待て待て待て待て待て――なんだ、これ? 一体全体どうなっているんだ?


「ち、ちょ……アンナ……落ち着――」


 アンナは最後まで待たず、僕の首を絞めた。ギリギリと、剣術で鍛え上げられた手が僕の喉を閉ざしていく。


「ぐっ……ぁ……ぅえ……」

「よくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前をよくも名前を…………」


 アンナはブツブツと訳の分からないことを呟いた。僕はもがこうとしたが、アンナの手足に四肢を塞がれ、何もすることが出来ない状態だった。


「アン……ぁぇ……ぼ……と……テトラ……し……心ぱ……して……」

「んん? なんだよ? 聞こえないなあ。男なら、聞こえるようにハッキリ喋れよクソったれ」


 アンナは憎しみに燃える瞳で僕を睨みながら、首を絞める手の力を僅かに緩めた。僕は、なんとか声を発した。


「僕と……テトラを……心配……してくれてたんじゃ……ハァ……なかったのか……?」


 息も絶え絶えに言い終えると、アンナは懸命に声を押し殺して笑った。


「おいおい、勘違いが過ぎるぜ。アタイが? 貴様を? 心配? ククク……バカだなあ。そんなことするわけないだろ、カスが」


 アンナは再び僕の首を絞めた。


「ぐ……ぎぃ……げっ……」

「アタイが心配してたのはテトラのことだけさ。貴様みたいな虫けらが、テトラみたいな汚れを知らない優しい子の体を狙ってると知ったら、守ってあげるのは当然だ」

「なぁ……にっ……をぉ……」

「男は、女の体しか見てないんだ。首から上と首から下だけで価値をつけて、値段をつけて、自分の汚らわしい欲望を満たすための道具として『使う』……仲睦まじい夫婦を見事に演じたつもりなんだろうが、アタイは騙されない。貴様も所詮、テトラの体しか興味ないのさ。ゲスめ……女の人権を……尊厳を踏みにじりやがって……」


 アンナは言葉を切ると、僕の鼻が触れそうなくらいに顔を近づけた。男勝りな口調と態度で隠れていたが、実はアンナが相当な美女であることを、僕は初めて知った。


「この世の男は全員、アタイが殺す……アタイは男を皆殺しにするために双剣士になったんだ」


 苦しい……。アンナが吐いた息を、僕は吸う他になかった――すると突如、僕の体がグワンと持ち上げられた。ちょっとした無重力を感じた直後、僕は力いっぱいに投げ飛ばされた。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 アンナは叫ぶと同時に、自分の服を引き裂いた。僕はテントの骨組みに激突し、そのまま外へ転がっていった。


「アンナ! どうしたの!?」


 テトラが、上半身が裸のアンナに駆け寄る。僕は真っ赤に指の形が残る首筋を気にしながら立ち上がった。

 そして気づいた。アンナは今、半裸だ。自ら、その服を破り捨てた。狙いは……これだったのか。


「テトラァ……あいつが……あいつがアタイをぉ……」


 アンナは泣きながらテトラに言った――もちろん演技だ――。テトラは、信じられなさそうに僕を見た。


「ウソ……ユキオさんが、そんな……」

「テトラァ……うぅ……アタイ、怖かった……アタイの体が……体がぁ……きたなくぅ……」


 アンナは、テトラに抱きついた――完璧だ。完璧な芝居だ。


「違う! 僕は何もしてない! 見てくれ! テトラ見ろ! 首に指の跡がある! アンナにやられた! アンナが先に襲いかかってきたんだ! そいつの自作自演なんだ! 僕は無実だ!」

「卑怯者ぉ! テトラがいるのに! 奥さんがいるのにぃ! こんなに尽くしてくれる妻がいながら、どうしてこんなことをぉ! アタイが何したって言うんだよぉ!」

「アンナァ! 僕に何の恨みがあるんだよ! 僕は何もしてないだろ! 訳の分からない妄言を吐いて、僕を陥れやがって! どうしてこんなことまでして男を憎――」

「それはアタイの台詞だ! アタイの……アタイの体をよくもぉ……テトラァ……あの首は捏造ねつぞうなのぉ……アタイは何もしてないのにぃ……あいつがアタイの体をぉ……本性をぉ……うわあああああああああああああああああああ!」


 アンナは大声で泣き出した――らちが明かない。僕は順当にテトラに事情を説明することにした。アンナを論破するより、こっちの方が話が早い。


「テトラ、聞いてくれ――」

「……来ないで」

「え……」

「アンナに……近づかないで」


 僕は立ち尽くした。テトラが、僕を敵と見なしていた。その眼には、もはや夫婦の絆など微塵も考えていないように思った。


「……とにかく、今晩はユキオさんが見張りをして。私はテントを組み直して、アンナと話し合うから」

「で、でもテトラ、僕は――」

「いいから!」


 初めて、テトラが怒っている。


「お願いだから……今は……傍に来ないで……」


 テトラは泣いていた。僕も泣いていた。テトラはアンナを焚き火の近くに座らせると、崩れたテントの部品を集め、組み立て始めた。

 その後ろで、アンナが僕の方を振り返り、ニヤリと笑った。

 ちょっと待ってください。まずは落ち着きましょう。ヒロインを取られたとお思いのそこのあなた。

 僕からは、とりあえず、ご安心くださいと言いましょう。大丈夫です。テトラは簡単に夫を疑うような女性ではありませんから。


 同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品に登場するヒロインがレインちゃんというんですが、彼女もまあ健気ですね。なんというか、彼女を一言で表すなら、『愛しています』という言葉そのものという感じになっちゃうんですよね、はい。

 よろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/

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