聞き耳
たちます。
…………いや、聞き耳がね?
僕とテトラとアンナ、3人で王国を目指し旅をしている。僕とテトラを助けてくれたアンナ、食事と寝床をくれたアンナ、率先して最初の見張りを引き受けてくれたアンナ――そんな彼女に、僕はひどい悪口を言ってしまった。
テトラともケンカしてしまったし、どうなるんだ、僕……。
「おい、交代の時間だ」
アンナの声で目が覚めた。まだ眠いけれど、もうそんな時間か。時計とかないから分からないや。
「ふわぁ……いいよぉ……私がぁ……ほわぁ……」
テトラは欠伸を掻きながら立ち上がろうとする。僕は、それを制した。
「いいんだ、僕が見張る。ちょっと……夜風に当たってくるよ」
アンナに悪口を言ってしまった……自分の一時のくだらないヤキモチのせいで、テトラとの夫婦生活に支障が出るのはあんまりだ。
少し頭を冷やして反省しよう。僕が出ていくと、アンナがテントの中へ入った。僕は夜の闇の中、焚き火の音だけをお供に番をした。
「……テトラ…………」
「……どうしたの? …………」
しばらくすると、中から二人の話し声が聞こえた。
「……でさ、それで…………」
「……えぇ、ウソ!? それって…………」
二人とも、すごく上機嫌だ。僕の時とは、大違い。
「…………」
いけないことだ――僕は、それを知りつつも、テントの中の会話を聞くため、耳を澄ました。
「……ねえ、アンナ」
「ん?」
「アンナ、ユキオさんに悪いことなんてしないもんね?」
ちょうど、そんな話だった。
「――当たり前じゃない」
アンナは答えた。
「だよね……ユキオさんがね、アンナに嫌われてるんだって……」
「ああ……彼は、テトラのことを守れなくて気が滅入ってるんだ。テトラの夫として失格だ、てね。それで、色々なことが起きすぎて、混乱してるんだろう」
「そっか……」
「仕方ないよ。アタイも悪いんだ。成り行きで同行してしまって、夫婦の時間を邪魔してる」
「そ、そんなこと……」
「でも、アタイはテトラのことが心配だったんだ。だから、つい……」
「うん……ありがとう。私、アンナが一緒で良かったって思ってる」
「テトラ……」
「きっとユキオさんも、明日になれば気分も晴れるよ。ユキオさん、本当はすごく優しい人だから……」
「……ともかく、折角の旅だ。思いきり楽しもう」
「うん!」
僕は、テントの傍から離れた。
「最低だな、僕……」
悪いのは僕だ。僕だったんだ。アンナはいい人だった。僕のことを気にかけてくれていたんだ。何より、テトラのことを心配してくれていた。僕のやましい心、それこそが諸悪の根源だったんだ。
なんて愚かなんだ、僕。この場で、こうも利己的に振る舞っているのは、僕だけだ。僕だけが、自分のために悩んでいた。
僕は夜空を眺めて祈った。楽しい旅――テトラとアンナが望んだ旅を、どうか二人のために。僕の邪悪を、あの星のいずれかに追いやってくれ。
「――あ、そろそろ交代の時間かも」
「え? でもテトラ、まだ早いんじゃ……」
「ううん。ユキオさんも疲れてるんだから、私がしっかりしなくちゃ」
テトラがテントから出てきた。
「あーっ、よく寝たっ! ユキオさん、おはよ。そしておやすみだよ。交代の時間。今度は私が見張る番だからね」
「テトラ……」
「ほら、早く早く! 明日の朝は早いんだから!」
テトラは僕を強引にテントの中に追いやった。テトラ……なんて素晴らしい子なんだ。僕は、こんな優しい女の子の夫でいられることに、この上ない幸せを感じていた。
テトラの厚意を無下にするわけにはいかない。さあ寝よう――と寝袋の方へ向かうと、アンナは僕のスネを蹴飛ばした。
「なに入ろうとしてんだよ。貴様は床で寝ろ。汚らわしい害獣め」
え……!?
こいついい奴なんじゃね? と思っていた矢先に期待を裏切られる感じ。この場合、むしろ期待を裏切った相手よりも、少しでも期待してしまった自分に対する憎しみみたいなものが生まれがちです。
アンナ、その真意や如何に!?
同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品は……まあ、皆さんの期待は裏切らないんじゃないでしょうか。
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