テントの中、テトラと二人きり
タイトル通りの回です。やましいことは何も起こりません。
僕とテトラ、そしてアンナも加わり、3人の旅が始まった。スライムの群れに遭遇した僕たちは、テトラを守るために戦った。
双剣を自分の手足のように扱うアンナは、アタッカー専門ギルド最強のケルベロスの名に恥じぬ強者だった。
それからしばらく歩き続けた僕たちだったが、日が暮れてきたので、安全そうな平地に着いたところでテントを張ることになった。今日はここで休眠をとるのだ。
アンナが食料を持っていたので、それを3人で分け合って食べた (なぜか僕に配られた分だけ少なめだったが、テトラは気づいていなかった) 。その後は明日の朝早くに出発することもあり、すぐに寝ることになった。
しかし、いくら安全そうな平地とはいえ、モンスターの襲撃に遭う可能性は皆無ではない。交代で一人ずつ、見張りをすることになった。
「最初はアタイが番をしよう」
アンナが率先して手を挙げた。テトラと僕は自分が先に番をするからと言い合ったが、アンナの強い希望に従い、一先ず眠ることにした。
テントの中に入って、一人分の狭い寝袋にテトラと入る。思えば、村にいた時は、毎晩テトラと一緒に寝てたんだよなぁ……そんなことを思っていると、急に心臓がバクバク鳴り出した。
絶対的にテトラに聞こえてる。
「……いい人だよね、アンナ」
テトラが唐突に言った。よかった、心音には気づいていないようだ。
「優しいし、強いし。お世話になりっぱなしだよ」
僕は不思議な気持ちに駆られた。アンナに、僅かながら良からぬ思いを抱いたのだ。アンナは僕に対してやけに辛く当たるし、テトラが夫である自分以外の人のことを話すのが嫌だった。
あっ……これ、嫉妬だ。
「……そうかなぁ?」
僕は、少し嫌な感じで言ってしまった。けど、こうなったら、もう止まらない。
「あの人、なんか僕にだけ冷たくない? 食事は僕の分だけ少なくしてたし、事ある毎に僕のことを嘲るんだ」
言い過ぎたかな、と思ったけれど、手遅れだ。テトラが黙っているのをいいことに、僕は更に続けた。
「大体、なんかおかしくない? テトラが絶体絶命のピンチの時に都合よく現れるなんて……なんか、僕たちの知らないところで何かが――」
「待って」
テトラが、冷ややかな口調で遮った。彼女の僕を見る眼は、どこまでも鋭かった――侮蔑だ。
「ユキオさん、ひどいよ。私たち、アンナに助けられてばかりなんだよ? 命の恩人なんだよ? それを、まるで事件の真犯人みたいに……ちょっと、ひどすぎると思う」
初めて、僕とテトラの意見が食い違った。
「ユキオさん、なんか変だよ。らしくないよ、そんなの……」
テトラは向こう側を――アンナが番をしている方に寝返りを打って、それきり何も言ってはくれなかった。
外の焚き火の音だけが、僕の耳に入ってきていた。
イチャイチャしやがる回だとか思った方とかいらっしゃいましたか? むしろケンカ回ですね、はい。
というわけで。なんか雲行きが怪しくなり始めたところで終わりです。安心してください。夜は長いですからね。双剣士アンナ編、ここからが本番って感じになって参りました。
同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品も、もうじきストーリー的に本番と言える局面に突入しそうですね。
第二章もそろそろ終わりますので、よろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/