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旅は道連れ

 道連れにします。

 ゴブリンの群れに追い詰められ、落とし穴に引っ掛かってしまった。目が覚めると、テトラに抱き締められた。傍らには、見知らぬ女性が立っている。

 何が起こっているんだ? テトラは無事なようだが……。


「テトラ! 大丈夫か!? あいつらは!?」

「大丈夫だよ。彼女が助けてくださったの」


 テトラは、女性を指して言った。女性は僕に会釈したが、その表情は恨めしげで、あくまで社交的にそうしただけであることは明白だ。初対面なのに、既に嫌われているようだ。

 まあ、当たり前かもしれないな。だって、僕は自分の妻を助けられなかったのだから。あまつさえ、僕自身が助けるべき妻に助けられる始末。情けないったらありゃしない。女性が端から見れば、嫌悪を露にするのも仕方ないだろう。


 ――そういえば。僕はゴブリンの罠に嵌まって、穴に落ちて……どうやってここまで来たんだ? 周りにゴブリンがいる気配はないし、あの場を切り抜けたようだけれど、あの後のことは全く覚えていない。どうしてだろう――。

 ……ともかく、僕はアンナに責め立てられているような気がしてならなかった。


「本当に大丈夫なのか!? なにか、酷いことは……」

「うん、平気」


 僕は溜め息をついて安堵した。女性に向き合って、深々と頭を下げる。彼女が、不甲斐ない僕の代わりに、テトラを助けてくれたらしい。


「ありがとうございます……えっと……」

「あっ、こちらはアンナさん。双剣士だよ」


 双剣士? 僕は何のことか分からなかったが、彼女が腰に携えた2本の剣を見て、その意味を理解した。


「私からも……アンナさん。改めて、本当にありがとうございました」

「アンナでいいよ。それに、アタイは当たり前のことをしただけさ」


 アンナはテトラの肩に手をポンと置き、微笑んだ。僕には見せない――おそらく、決して見せない――笑顔だ。


「あっ、アンナ。こちらユキオさん。私の夫です」


 テトラは、アンナが発する嫌悪オーラに気づく様子もなく、彼女に僕を紹介した。

 嫁としては正しいが、妻としては間違っている (?) 。


「……どうも、タジマ ユキオです」

「アンナだ……よろしく」


 アンナが僕に手を差し出した。あれ、意外とそんなに険悪な感じではない感じなのか? なんだよ。僕の早とちりかよ。

 ちょっぴり期待してその手を握ると、アンナは万力のような凄まじい力で握り返してきた。

 前言撤回。手はおろか、プライドとか肝っ玉とか、色々と潰された気がした。


「それで……テトラ、ちゃん?」

「あ、はい」

「これから……二人は、どうするつもりなの?」


 アンナは、僕の手を握り潰しながら、朗らかに問うた。


「これから、ユキオさんとエルピス王国首都を目指します」

「王国へ?」

「はい。治癒士としての経験を積むため、学校に通うつもりです」

「そうか、テトラちゃんは治癒士か……道理でタジマの怪我を治せたわけだ。あれだけの傷を癒すんだから、相当な腕前なんだろうね」

「いや、そんなことは……」


 テトラは照れたように頬を赤らめた。


「そういえば、持ち物は? あの盗賊共に盗まれたんなら取り返さないと」


 アンナは、テトラや僕が手ぶらなのを見ると、来た道を引き返そうとした。僕はそれを、慌てて止めた。


「……荷物は、馬車の中に忘れました」

「なんだって?」


 アンナがキツい口調で聞き返した。


「テトラが拐われて、無我夢中で馬車から飛び降りたから、荷物は置いてきてしまったんです……」

「置いてきたって……」


 アンナは呆れて物も言えない様子だった。


「アンナ! ユキオさんじゃないの! 私が油断して拐われたから……」


 テトラが仲裁に入ってくれた。


「……どうやって王国まで辿り着くつもりなの?」


 アンナが、僕に対する時とは完全に異なる、優しい口調でテトラに訊ねた。


「次の便は2週間後だし、中継駅の馬車は予約してないから……歩いて行くしか、ないです……」

「でも、ここからじゃ最低でも3日はかかる。道中はモンスターも出るだろうし……」


 僕は、アンナの言葉を遮った。


「僕がテトラを守ります! 王国まで僕がモンスターを倒して、彼女が寝ている間も番を――」

「そのテトラちゃんが拐われるのを阻止できなかった分際で何を言うんだ!?」


 今までで一番強い語調だった。


「……アタイが着いていこう」

「え?」

「幸いキャンプ用品は持っているし、アタイもちょうど王国に用があるんだ。アタイが一緒に行って、テトラちゃんを守る」


 アンナは、大きな鞄を背負って言った。テントの骨組みが、チャックの隙間から飛び出ている。


「で、でも……そんな迷惑は……」

「迷惑なんかじゃない。困っている人を放ってはおけないし、アタイがテトラちゃんを守りたいんだ。アタイの好きにさせて」

「……分かりました。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

「敬語はよしてよ。これから少しの間とは言え、寝食を共にする仲なんだから。その代わり、アタイもテトラって呼んでいいかな?」

「もちろん!」


 二人は親睦を深め合い、握手を交わした。僕の時とは違う、温かい握手に見えた。


「ユキオさん、いいよね?」


 テトラはアンナと握手しながら、僕に訊ねる。なぜか、アンナが勝ち誇ったような顔をしている気がする。


「え? ああ、うん。もちろん」


 なんか僕、空気じゃね?

 パーティに新たな仲間が加わり、ついに双剣士アンナ編、本格始動です。まあ始動するまでに半分くらい尺を食ってしまいましたが。


 同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品の主人公がグレイくんという名前なんですが、彼も二刀流ですね。と言っても、序盤は一振りの剣しか扱っていませんでしたが。

 こちらの方もよろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/

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