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時、既に……

 またもテトラ視点。次回からユキオ視点に戻ります。

 もうダメだ、おしまいだ……そう諦めかけていた私を、助けてくれるという女性が現れた。彼女は――アンナさんは私の窮地を救い、男の人たちを成敗すると言って、剣を抜いた。

 あっという間だった。2本の剣が踊るように振り回され、何回かまばたきをすると、男の人たちは全員、倒れて動かなくなっていた。

 アンナさんは刀身に付いた血を振るって落とすと、剣を腰の鞘に収めた。残ったのは、私とアンナさんだけだ。

 アンナさんは、真っ先に私の元へ駆けつけた。


「済まない、遅くなってしまった……怪我はないかい?」

「はっ、はい。大丈夫です」


 私はそう答えたけれど、体は震えたままだ。


「本当に? えっと、つまりその……大事なところとか……」

「平気です。危なかったけれど……ありがとうございます」


 私は頭を下げた。アンナさんは『そういうのはやめてくれ!』と慌てて制止して、顔を上げるよう言ってくれた。

 顔を上げると、アンナさんが私をジッと見つめているのが分かった。私を……眼とかではなく、もう少し下を……胸の辺りをだ。

 そういえば私、上が裸だ。


「あの……」


 私はガバッと体を腕で隠し、モゴモゴとアンナさんに言いにくいことを頼もうとした。けれどアンナさんは、言わずとも察してくれたようで、顔を真っ赤にして上着を脱いだ。


「そっ、そうだよね! 本当に済まない! 気遣いが足らなかった! これを来てくれ!」

「ありがとうございます……」


 アンナさんが差し出した上着を、私は素直に受け取った。助けてもらった上に服まで貸してくれて、いくらお礼を言っても言い足りないよ……。

 ただ、胸の辺りがダボダボになってしまうのは、女の子としては少し複雑だ。私に服を貸してくれたことで、下着姿みたいになってしまっているアンナさんだけれど、露になった体を見ると、やっぱり大きい。

 アンナさんは、なぜか服を着た私を凝視していた。私が『どうかしましたか?』と訊ねると、アンナさんは『なんでもない!』とそっぽを向いてしまった。

 なんだか、ちょっぴり変な人だ。


「隠れて!」


 そんなことを思っていると、アンナさんは素早く私を庇うように前に立ちはだかった。


「どうしたんですか!?」

「人が来る! 奴らの仲間かもしれない!」


 アンナさんが剣を抜いた。彼女の横から顔を出して見ると、フラフラと覚束ない足取りで向かってくる男の人の姿があった。

 その姿には、見覚えがあった。


「ユキオさん!」


 私はアンナさんの制止を振り切り、走った。それと同時に、ユキオさんが遠くで力尽きたようにバタリと倒れてしまった。

 待ってて、ユキオさん! 今行くから!


「ユキオさん!」


 私は夫の名前を叫び、その傍らに膝を着いた。そして、絶句した。


「知り合いなの?」


 アンナさんが追いついて、私に訊いた。私はとても答えられなかった。ユキオさんが……アンナさんも、ユキオさんの姿を見て、思わず息を呑んだようだった。

 ユキオさんは血だらけで、穴だらけだった。特に掌は、もはや手としての原形を留めていないくらいに損傷している。何かに突き刺されたような。

 掌だけじゃない。体中の至るところに風穴が空き、蛇口が壊れた水道の水のように、ボトボトと際限なく血が溢れ出ている。

 足は酷い裂傷を負っていて、不自然な方向に折れ曲がっている。膝の辺りは青紫色に変色して、なんだか質感が普通とは異なっていた――職業柄、こういったことには慣れているから、私には分かった。壊死している。


「ねえ……これほどの重傷じゃ、どんなに優秀な治癒士でも治すことは出来ない。残念だけど……」

「いや……」


 アンナさんの言わんとしていることは分かってる。でも、私には出来ない……諦めるなんて、出来ない。


「ユキオさんは私の夫なの。絶対に助けてみせる」

「夫……?」

「今度は、私の番なんだもん」


 私はユキオさんの体の上で、両手をかざした。ユキオさんは、私を助けてくれた。そのお返しをする時が来たんだ。必ず、応えてみせる……。

 私は集中した。ユキオさんの傷を治す。体の異常を、欠損を、疾患を、あらゆる『良くないもの』を、治す。その事のみに、意識を研ぎ澄ませる。


 半分、記憶はない。あまりに必死で、あまりに決死で、頭の中は真っ白だった。ただ、ユキオさんを治したい。またお話したい。笑い合いたい。それだけだった。

 その一心で、願い続けた。


「テ……トラ……?」


 ユキオさんが、目を覚ましてくれた!


「ユキオさん! ユキオさーん!」


 私は嬉しくて、ユキオさんに抱きついた。


「良かった……本当に……良かったぁ……」


 私は泣いた。幸せだった。またユキオさんとお話できる。笑い合える。

 今回のサブタイトルは、ユキオの治癒が間に合わないかもしれないというテトラの心境と、テトラを (自分で) 助けることが出来なかったユキオの立場を象徴するものとなっています。いわゆるダブルミーニング。

 この一連の騒動はユキオの見せ場ではなく、どちらかと言うとアンナの登場シーン、そしてテトラの治癒士としての才能の突出具合をアピールするためという部分が多いですね。主人公、立つ瀬なし。

 でも大丈夫ですよ多分。これからユキオはたくましくなっていくのですから。読者の皆様と共に成長する少年、これこそユキオの真骨頂なのですから。


 同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品につきましても、主人公、成長していきますね。色々な逆境があって、絶望して、無力感に苛まれて、どうしようもない現実に挫けそうになりながらも、奮起して立ち向かわなければならない。

 辛く過酷な宿命を背負った少年少女が苦楽を共にし、互いを高めあっていくストーリーなのです。こちらも、よろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/

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