旅立ち
二人が旅立った直後の話です。ついに冒険が始まるその瞬間、二人の間で何が語られるのか……!
ある日、僕は死んでしまった。死後の異世界で女神に選ばれ、悪を討つ『輝望皇』の使命を背負った。
暴漢から助けたのがキッカケで、テトラという治癒士の美少女と結婚した。テトラの治癒士としての技術の向上、そして僕が元の世界に帰る方法を探すため、村を離れ街へ出ることになった。
僕たちの姿が見えなくなるまで、村の人たちは手を振り、激励の言葉を叫んでくれた。色々なものをもらって、テトラはついに自らの道を進むのだ。
とうとう村が見えなくなった頃には、テトラの瞳は既に未来を見つめていた。村を――過去を振り返ってなどいなかった。
もう涙はいらない。迷いはない。怖くなんか、ない……僕たち二人の冒険の旅が、今ようやく始まったのだ。
「ねえ、ユキオさん」
「なに? テトラ」
「子供は何人ほしい?」
急に聞いてきたもんだから、僕は思いきりむせてしまった。ちょっとその話は早すぎやしませんかねぇ……。
「私、男の子と女の子、一人ずつはほしいなぁ」
「そ、そう……」
「男の子はユキオさんみたいに優しくて強い人になって、女の子はそんなお兄ちゃんか弟を支えるたくましくて可愛い子になるの」
「そ、そう……」
「でも凄いよね、赤ちゃんって。一体どこから出てくるんだろ?」
「……ん?」
なんだか、出産のシステムを知らないような物言いだ。
「昨日、お父さんとお母さんに聞いたの。ユキオさんと結婚したからには、いつか子供も育てることになるよねーって。その時、興味本意で『赤ちゃんってどうやって産まれてくるの?』って聞いたら、なんかはぐらかされちゃった。秘匿しなければならない、超高難度の魔法なのかなぁ……。
……ねえ、ユキオさんは何か知ってる? ユキオさんの元の世界では、どうやって赤ちゃんが産まれるの?」
「…………」
「ユキオさん?」
「…………」
これ絶対に秘匿しなければならないよね? 秘匿しないとお義父さんお義母さんが業腹になるアレだよね? 決して大事な愛娘にハレンチなことを教えまいとするご両親の意向を汲まなければならない系のジレンマだよね?
うわっ、どうしよう……テトラ、すげえこっち見てる。明らかに僕からの解答を求めているわ、これ。どうしても赤ちゃんが産まれる仕組みを知りたがっている眼差しだわ、これ。このまま沈黙を貫き通しても返って好奇心が増幅されて後々尾を引く感じの事案だわ、これ。
「……ぼっ。僕も知らないんだよ、そういうの。そういうのは、僕の世界では世界の七不思議に数えられるくらい謎な現象として、日夜研究が行われて止まないくらいの神秘なんだ……」
「七不思議!? なにそれ、すごーい! 赤ちゃん以外に六つも不思議なことがあるの!? わー、この世界でも三つしかないのに、そういうの!」
「もっ、元の世界に帰る方法が分かったら、一緒に来なよ……そういう不思議系スポット、たくさんあるから」
「ほんと!? うん、行く行く! 絶対行く!」
なんとか話を逸らせた――のか?
「……あー! 大変! 街へ向かう馬車が出ちゃう!」
「え!? 馬車!?」
「どうしよう!? 駅の村まで、まだ全然あるよ~……」
「で、でもまあ……次の便を待てば……ね?」
「次の便は二週間後だよ」
「走ろう!」
僕とテトラ――男女二人の冒険の旅路。その道程は、どうやら前途多難のようだ。
治癒士テトラ編、完――ということで次回からは、新章『双剣士アンナ』編となります。
また、同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品も現在、第二章の終盤に差し掛かっています。
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