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異世界の治安はすこぶる悪い

悪いんです。

 美しい場所だ。辺りにビルなどは見当たらず、ひたすらに荘厳な自然の風景が広がっている。

 美しい……美しすぎて、狂おしい。僕には似合わない。僕は直感した。僕はあまりこの異世界が好きではない。この先も多分、好きになれずにい続けるだろう。


 ともあれ、いつまでも寝そべっていると草花が可哀想だから、僕はゆっくりと立ち上がった。心なしか身体が軽い。自然に彩られた新鮮な空気と、雑多な人混みと建物の群れる街並みから、脱却を果たしたからなのかもしれない。

 僕は一先ず近くの森へと入っていった。森を抜ければ、もしかしたらこの異世界の都市や集落に辿り着けるかもしれない。


 しばらく鬱蒼とした森の中を進むと、何やら女性の甲高い悲鳴が聞こえた。何かあったのだろうか――来て間もない異世界とはいえ、誰かが困っているなら見過ごすわけにはいかない――僕は悲鳴がした方へ向かった。

 声の方へ近づいていくと、複数の男の下賤な笑い声も聞こえた。これはもしかすると良からぬことが起きているのではないか。僕は予感に急かされるように、更に森の奥へ進んだ。

 声はどんどん鮮明になり、やがて言葉が微かに聞き取れるまでになった。


「ぐへへ……イイ女だ、悪かねえぜ」

「おいおい、鼻の下を伸ばしてんなよ、チャックポリス! 豚面が更に酷く見えら!」

「ぬへへ!」

「やめてください!」


 男たちの声に混じり、女性の悲痛な叫びが聞こえる。予感は確信に変わる。僕はそこら中に生える草が音を立てぬよう、俊敏かつ隠密に接近した。

 どうやら、女性は男たちに追い込まれ、一本の巨木に背を預けているらしい。遠目に見えたのは、それと男の一人が女性に手を伸ばしているところだ。

 小さく生地が引き裂かれるような音が聞こえたのと同時に、女性の悲鳴が轟いた。


「いやあああああああああああああああ!」

「ほら見ろ、やっぱりだ! 服越しでさえあんなそそる形をしてたんだ! 生はすこぶる上物だぜ!」

「ああ、ほんとにデケえな! ああ、ほんとにデケえな!」

「何で二度も言うんだよ」


 男が女性からボロボロになった服を取り上げるのが見えた。僕は決心した。もう隠密とか知ったことか。

 彼女を助ける。あの不届き者の腐れ外道共を退けるのだ。僕は草を、土を蹴り、女性の元へ走り出した。


「おい!」


 僕は脇から飛び出し、男たちと対峙した。男たちは一斉に突如として現れた僕に、苛立ちと殺意に満ちた眼差しを向ける。

 僕は初めて男たちを間近で見ることとなったが、酷かった。動物の骨のようなものを連ねたネックレスに、歯のようなもののついたピアスをしている。頭髪は色とりどりに染め上げられ、その格好は僕の元いた世界における、いわゆるDQN(ドキュン)より数倍ヤバい。


「っんだテメエはあ!」

「ざっけんなこらー!」


 頭の悪そうな威嚇をする男たち。僕はものすごく怖かった。喧嘩とかえらく久し振りだし。別段、強いわけでもないし。そもそも、よく考えたら1対多だし。

 後ろをチラリと振り返ると、女性は恐怖と安堵の混じった瞳で僕の背中を見つめていた。


「おい! ピッツェ、ゲバン、オルシティエーゼ、アンドル、エリ、パッパノ! こいつ、この女を助けにのこのこやってきたと見受けられるぜ!」


 集団の中でも一番強そうな男が言うと、一同はゲラゲラと笑った。僕は後悔と恥ずかしさと、もう後戻りは出来ないという諦念もそこそこ含まれた決意を胸に、目尻に滲んだ涙を悟られまいと男たちを一瞥した。


「悪いことは良くない。この人から離れるんだ」


 僕が言うと、男たちは更に笑った。


「チョーシこくなや! クソザコがよお!」

「両手の親指をへし折って、ついでに腰の骨もへし折ってやるぜ!」

「こいつ歯ぁ全部なくしてぇみたいだぜえ、リーダァ!」

「あぁ……思い知らせてやるぜ……俺ら『ニーズジャンクレイジング』に逆らうと、どういう目に遭うかをなぁ……」


 男たちは標的を変え、僕にジリジリと詰め寄った。どうしよう……僕、大ピンチ。

重婚とかいう本作のメインになる設定は、次々回くらいから頻りにプッシュされると思います。ひとまず次回は『最強にして無力』な能力の初披露となりますかね。


また、最強でも無力でもないキャラクターたちが織り成す『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品も同時に連載しておりますので、こちらもよろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/

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