決心
村に残るか、街へ出るか――二人の下した選択とは!?
結婚式が終わり、晩餐を楽しんでいた僕たちは、村人全員の想いを知り、そしてテトラの両親と長老から、ある提案をされた――村を離れ、街へ出てみないかという提案を。
晩餐も終わり、一同は解散となった。僕たちの結婚を祝してくれた来賓の村人たちを見送り、夜も更けてきた頃合いだった。
アルコール飲料のようなものも出されていたが、僕とテトラは未成年なので飲ませてもらえなかった。だから、涼しい風が肌身に沁みるようだった。
式場の片付けを手伝い、いよいよ睡魔が襲ってきた時分に、僕たちはようやくテトラの家へ帰ってきた。
テトラの両親はお酒をガブ飲みし、べろんべろんに酔っぱらっていたので、家の灯りがついていない辺り、もう寝てしまっているようだ。
「どうしよっかなぁ……」
テトラは家を眺め回しながら呟いた――テトラの治癒士としての才能は、彼女の両親や長老はもちろん、村の誰もが知るところだ。
その才能を、こんな小さな村に閉じ込めておくのはもったいない。街へ繰り出し、良い施設で更に技量を磨けば、テトラの未来をより豊かにするのではないかというのが、提案した理由らしかった。
僕は、長老にテトラへの想いを試された時のことを思い出した。あの時、長老が暴露した体の真実は、あながち丸ごと嘘というわけではなかったのだ。
テトラの才能を重んじて受け止めているのは、紛れもなく本心だった。だから今日、ああしてテトラに旅立ちを提案したのだ。
テトラは家の中を歩き、昔と今を繋ぎ懐かしむように、家具や部屋をよくよく見つめた。壁には小さな傷が、古いものは低いところに、新しいものは高いところに、水平に刻まれていた。今のテトラは、一番新しい傷より、頭一つ分ほど背が高い……。
テトラは悩んでいるが、僕だって決断しなければならなかった。長老が言うには、街へ赴けば僕が元の世界へ帰る方法が見つかるかもしれないのだそうだ。テトラにとっては残念なことかもしれないが、僕にとっては今後の生き方に関わる重要なことだと。
僕も、異世界に少なからず魅力を感じている節があるとはいえ、元の世界に帰りたい気持ちもある。ただ、今は板挟みのような状態にあるのは確かだ。
元の世界には帰りたいけれど、僕は女神セアに力を与えられ、来る邪神リョウゼンの復活、そして暗黒の時代に立ち向かう宿命を背負っている――他でもない僕が、異世界を守らなければならないのだ。
気づけばテトラと僕は、彼女の部屋にいた。決闘の直前、二人で待機していた場所だ。あの時のテトラは、この部屋と別れることになるなんて、考えもしなかったろう……。
名残惜しむように、テトラは住み慣れた自室の隅々を見て回った。彼女のプライバシーを保護し続けてきた純白の壁、奥ゆかしいデザインのタンスや勉強机、使い古した専門書の並ぶ本棚、毎日テトラの安眠を見守っていたベッド――全て、テトラの生活に、いつも寄り添っていたものばかりだ。
「決めた……」
テトラは呟いた。
「私、街へ行く。お父さんお母さん、長老様やみんなが、私にくれたチャンスだから……」
その決心は固い、それがハッキリと分かった。なら僕は、それに応えるだけだ。
「一緒に行くよ。僕も、いつまでも誰かに頼りきりでいるつもりはない。帰る方法があるにしろないにしろ、異世界で役目を果たすためにも、もっと見聞を広めなくちゃならない気がするんだ」
「……うん!」
さて、そうと決まれば善は急げ。明日から村のみんなに挨拶回り、それから旅立ちの身支度もしなくちゃ――まあ、僕には荷物なんてないけれど。
だいぶ遅い時間だし、そろそろ寝るかと思ったけれど、寝室はテトラの両親が占領しているし、どこが空いているかを探さなくちゃ。
「じゃあ、僕はそろそろ寝るよ。おやすみ、テトラ」
僕はそう告げて、居間の方へ戻ろうとした。
「え? どこへ行くの? ユキオさん」
テトラはキョトンとした顔で僕を引き留めた。
「どこって、寝床を探さなくちゃ。部屋を借りるわけにもいかないし……布団って余分にあったりするかな?」
「何を言ってるの? 寝床ならあるじゃない」
テトラはそう言って、僕を部屋の中へ連れ戻した。やや抗うのが困難となりつつある睡魔のせいか、僕の視線が真っ先に捉えたのは、テトラのベッドだった。
するとテトラも、部屋の中で一つだけのベッドを指差し、僕にこう言った。
「一緒に寝よ?」
これは参った――。
あと2話くらいで『治癒士テトラ』編が完結する予定です。次の話は、残念ながらもう考えてあります。
先々のことを考えて執筆するスタイルというのは、既に別作品で採っているので、本作はその時々にパッと思いついた内容を即興で書き上げていく手法を通したかったのですが、ままなりません。
その、先々のことを考えて執筆するスタイルを採っている別作品というのが『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という小説です。さんざ口を酸っぱくして宣伝している例のアレですね。
本作を多くの方が読んでくださっているのは、僕としても嬉しい限りです。なので、僕個人としては本作よりもメインで書いている意識のある『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』の方も、ぜひ読んでいただけたらと思います。
よろしければ、ぜひどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/




