結婚式
ついに挙げられる結婚式。愛を誓い合う二人の、ピュアでセンチメンタルな一時……。
花嫁衣装のテトラと、夫婦になるに当たっての約束をした。テトラと呼び捨て、敬語も遣わないとのことだ。まだ慣れないけれど、頑張っていこうと思う。
いよいよ、僕とテトラの結婚式が挙げられようとしていた。
「緊張、するね……」
「う、うん……」
バージンロードを隔てる扉の前で、テトラが言った。緊張なんてレベルじゃない。僕も心臓が爆発しそうだ。
やがて中から音楽が聞こえてきた。登場の合図だ。内側から扉が開かれ、僕たちの姿が、テトラの両親と長老以外には初めて晒される。
嗚咽混じりの拍手を受け、僕とテトラは腕を組み、共に歩調を合わせてバージンロードを歩き始めた。
僕たちの脇で、村の子供たちが籠から花びらを宙へ放る。テトラの両親は、最前列の席で娘の花嫁姿を見、おんおんと泣いている。
ゆったりした歩幅で、数分をかけ神父さんの目の前に辿り着くと、神父さんは優しく笑んで一礼し、掌に乗せた書物を開く。
「今宵は、汝ら二人を夫婦の契りにて、未来永劫に渡り結び留める神聖なる儀式を、女神セア様の御前で執り行うものとする」
神父の宣言をもって、結婚式は始まった。幾つもの決まりごとや口上を述べていたが、僕は緊張のし過ぎで全く頭に入らなかった。手汗とかヤバかったように思う。
隣を見てもテトラが綺麗すぎてアガっちゃうし、神父の方を見ても返って落ち着かなくなるし、後ろを振り向くなんてもってのほかだ。
「花婿、タジマ・ユキオ。花嫁、テトラ・ポートリス。向き合って」
神父に言われ、数秒してからようやく理解が追いついた僕は、慌ててテトラの方を向いた。テトラは既にベールの下から、上目遣いで僕を見ていた。
やめてくれ……眩しすぎる。
「花婿、タジマ・ユキオ……汝はこの者を自身の妻と認め、病める時も、貧しき時も、危うき時も、苦しき時も、一生を賭して守り抜くことを誓うか?」
「はっ……はいっ! ちっ、ちちか誓いますっ!」
緊張のあまり噛んでしまった。ちらほらとクスクス笑われているのが聞こえる。僕の隣ではテトラが、口元に手をやって笑いを堪えている。
あぁ、死にたい……。
「花嫁、テトラ・ポートリス」
「はい……」
「……汝はこの者を自身の夫と認め、いつ如何なる時も寄り添い、励まし、支え、死が二人を別つまで愛し続けることを誓うか?」
「はい、永久に」
テトラは一切の迷いなく言い切った。
「では――二人の愛の証に、誓いのキスを」
ついに、この時が来てしまった……。僕はゴクリと唾を飲み込み、震える手でテトラのベールを取った。
テトラは両目と唇を固く閉じ、僕のキスを待っていた。口臭とか大丈夫かな、鼻息とか平気かな、そんなことを考えながら、僕はテトラの両肩を抱き、その可愛い顔に近づいていった。
僕の手は震えていたけれど、テトラの肩も同じくらい震えていた。僕はちょっぴり安心した。テトラは震えながら、ただ僕との『瞬間』を待ちわびている。
テトラの白い肌が間近にあった。頬っぺたが少し赤くなっている。いい匂いがする。テトラの怖がるような、それでいて期待しているような荒い鼻息が、僕の唇の先に当たった。それは不思議と全く不快にならなかった。むしろそよ風に当たるようで気持ちよかった。
僕は目を閉じた。このままテトラを見続けたら、両目が蒸発してしまいそうだ。あとは、唇を重ねるだけ……僕はテトラとキスをした。
テトラの唇は平たくて、柔らかかった。その感触が気持ちよくて、愛おしくて、僕は唇をずっと押し当てていた。パラパラと聞こえる拍手の音も、どこかで誰かが泣き出す声も、僕の耳には入らなかった。
幸せなキスだった――。
二人は幸せなキスをしたところで、今回は幕です。
同時連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』という作品は、キスなどせずとも幸せに過ごせたりしているキャラクターの、愛だったり絆だったりをより重視して執筆しております。こちらもよろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/




