出会って3時間で決闘
初めて明かされますが、テトラと出会ってから3時間が経過しています。
互いのことを理解し合った僕とテトラは、ついに決闘の時を迎えた。テトラのお母さんに着いていき、村の広場まで来ると、数十人もの村人たちが集まっているのが見えた。人混みはドーナツ型を成しており、その中央がバトルフィールドらしい。
「テトラちゃんー! 負けてくれー!」
「おい、そこのクソ野郎っ! 勝たなきゃ殺すからな! 絶対勝つんだからな! あとテトラちゃんに怪我さしても殺すからな!」
「あぁーテトラちゃん負けてほしい……でも勝ってほしいぃ……つーかそもそもテトラちゃんに誰かと争ってほしくないぃい……」
村人が口々に言う中、僕とテトラは人混みの中央で相対した。いよいよだ……。
「テトラさん……申し訳ないけど、僕は勝つつもりだよ。僕はテトラさんが、僕みたいな奴と結婚するにはあまりにもったいない人だと思うから……」
本心だった。ただ襲われているところを助けたという、社会的に当たり前なことをしたに過ぎないのに、なんやかんやでここまで来てしまったけれど。だけど、それを結婚の動機にするのは、とてもじゃないけど間違っていると思うんだ。
テトラには、きっと僕より相応しい人がいる。こんな、男女の関係に大きな溝がある世の中だけれど、いつか必ず――。
テトラは、肩の荷が降りたように笑った。
「良かったです……」
テトラは言うのだった。
「仕事柄、私は男の人と決闘するなんて出来ません。怪我を治す職業なのに、人を怪我させるなんて、もってのほかですから。
でも、ユキオさんが負けないつもりで戦ってくれるなら、私もこの決闘に真剣になれるんです。だって、私は人を怪我させちゃいけない人だけど、それよりもユキオさんと結婚したい気持ちの方が、もっとずっと強いから――」
その決意は本物だ。なるほど、お互い譲れないものをかけて、この場に立っているようだ。なら、僕も遠慮する理由はない。
長老が僕とテトラの間に入り、僕たちとその周囲の村人に声高に告げる。
「この決闘は、勝敗の結果により、テトラ、ユキオ両名の婚約を左右するものとする。テトラが勝利した場合、二人の結婚が認められ、ユキオが勝利した場合、この縁談は一切無効となる。
勝利条件は相手を戦闘続行不能状態に追い込むか、もしくは相手に敗北宣言させるかじゃ。
……二人とも、用意はいいかのぅ?」
長老の問いに、僕とテトラは同時に頷いて応えた。
「よかろう――では、決闘開始!」
僕たちは同時に動いた。僕は右手を、テトラは両手を、向かい合った相手に突き出した。テトラの手から、さっき治療の現場で見たものとは別の光が発せられた。透けた薄い黄色の光だ。
悪く思わないでくれ、なるべく痛くしないから――僕は心の中でテトラに詫び、女神から託された力を使った……。
しかし、あの閃光は放たれなかった。いくら念じても、森で使った時やさっきテトラに見せた時の感覚を再現しても、閃光は現れない。
突然の不調に当惑していると、テトラの手の光が僕に飛び込んできた。胸の真ん中を打たれた僕は、ぐしゃりとその場に倒れた。
体が動かない……起き上がることはおろか、手足をピクリとも動かすことが出来ないのだ。まるで、体の感覚が麻痺しているような、体がただのゴムにでもなってしまったのではないかとさえ錯覚してしまう気分だ。
テトラは治癒士、人々の怪我や病気を治す――これは麻酔のような効果を持つ技なのか。そんなことを考えていると、一向に立ち上がらない僕を見かねたのか、長老が顔を覗き込んだ。じぃ~っと、僕がまだ戦えるかを判定しているようだ。
「――――!」
僕は懸命に眼で伝えた。待ってくれ。まだ戦える。僕はまだ負けてない。こんな簡単ではいけないんだ。テトラには、僕なんかより相応しい人がいるはずなんだ。こんなところでテトラの尊い一生を決定するわけにはいかないんだよ!
頼む、長老! 僕の目を見て。見てくれ! 僕はまだ戦える! まだ負けてないんだよ! まだ何も、何も出来てない! 手も足も出ないなんてもんじゃない! まだ何もしてないんだ! こんなことでテトラが結婚してもいいって言うのかよ!
なあ、長老――。
「勝負ありいいいいいいいいいいい!」
長老は叫んだ。
「勝者……テトラアアアアアアアアアアアアアア!」
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?
はい。決着です。テトラとの決闘は、ユキオの敗北を以て終結しました。なぜ女神の力が働かなかったのか、その謎は次回で明らかとなります。
同時進行で連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』もよろしければどうぞ。http://ncode.syosetu.com/n9952cq/




