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対面……テトラの『家族』

 ご両親にご挨拶する回。

 長老の思いを知り、僕はテトラの家へと向かう。いよいよ彼女の家族に挨拶する時が来たのだ――いや、まだ結婚する段階では全くないんだけれど。

 なんか、決闘するまでもなく、僕がテトラと結婚する、みたいな雰囲気になりつつある気がして怖い……。

 僕は村の玄関の左手に位置する家に辿り着いた。ドアをノックすると、すぐにテトラが出てきた。


「あっ、ユキオさん! どうぞお入りください! 私の家族をご紹介します!」


 テトラは快活に僕を迎えた――だけど、そんな彼女の笑顔が、僕には無理をして浮かべているように見えてならなかった。

 中へ招かれると、居間で老夫婦が穏やかな面持ちで待ちかねていた。


「あなたがユキオさんですか……あなたが来るまでの間、テトラから色々と聞き及びました。現代にしては、とても優しく善良な男性であられるとか」

「テトラを助けていただいて、なんとお礼を申したらいいのか……本当に、ありがとうございます」


 テトラの父親、母親が言う。なんだか照れくさいなぁ……。


「い、いえ……お、お義父さん、お義母さん。僕はそんな大層な人間じゃ……」


 この村で今まで出会ってきた人たちの対応に押される形で、まだ結婚する段階ではないとか言っている僕自身が、さながらテトラの夫かのような物言いをしてしまった。お義父さんお義母さんって……馴れ馴れしいことこの上ないだろ。

 だが、そんな僕を前に、老夫婦は何やら気難しい顔をしているのだった。


「……テトラ、もう話す頃合いでしょう」

「そうだとも……偽りは悪、欺きは罪なのだよ、テトラ」

「…………」


 両親の言葉に、テトラは黙って頷き、真剣な表情で僕に向き合った。


「ユキオさん……実は私、お父さんお母さんの子供じゃないの」


 テトラは、打ち明けたのだった。


「テトラは捨てられていたのです。産まれて間もない頃、そこの村の入り口に。以来、私たちがテトラを引き取り、今日まで大事に育てました」


 テトラのお母さんが――そう呼んでいいのかどうかは分からないが――テトラの掌に、シワが刻まれた自らの手を重ねた。


「しかし、それはもはやキッカケ、過去に他ならない。我々はもちろん、村人たちも皆、テトラを家族同然に――いえ、『家族として』大切にしてきました。血の繋がりなど意味はないのです。生まれや育ちに絆は芽生えないのです。テトラは、我々の可愛い娘です」


 ――僕は浅はかだった。実の親? そう呼んでいいものか分からない? とんだ大馬鹿者のする言い草だった。

 テトラはテトラだ。正真正銘この老夫婦の、この村の、家族なのだ。


「娘を、よろしくお願いします」


 テトラのお父さんが言うと、お母さんと共に頭を深々と下げた。


「……はい」


 すっかり成り行きに流されている感は否めない。何度も言うが、まだ結婚するという段階には至っておらず、これはあくまでテトラと決闘するに当たっての挨拶だ。

 しかし、ここまで託されてしまっては、もう後には退けない。少なくとも、決闘から逃げるわけにはいかなくなった。

 結婚を目的として申し込まれた決闘なら、テトラは相当な覚悟をもっているはずだ。それを、この期に及んで無下にするなど、僕には甚だ出来ない。


「で、でも負けちゃったら結婚も何もなくなるんだし、ね……」


 テトラは顔を赤らめて言った。


「構わないわ。大事なのは、テトラ。あなたが結婚したいと思える男性と出会えたということなのよ。結果がどうあれ、私たちはテトラが見初めた人に、言うべきことは言わなければならなかったの」


 テトラのお母さんが優しく応える。


「……ユキオさん、もう決闘の準備は出来ているのかね?」

「えっ……あ、はい」


 お父さんに不意に聞かれ、僕は吃りつつも答えた。準備とか言われても、僕には荷物なんてないし。あるのは、この身一つだけだ――あと女神からもらった、あの力。


「では、一時間後に開始としましょう……その間にユキオさんとテトラは体を休めているといい。我々は村中の人たちに決闘の開催を告げ、定時に集まるよう伝えておきます」

「え? か、観戦されるんですか?」

「もちろん。家族が結婚するかもしれない世紀の一戦を蔑ろにするような薄情者は、この村にはいません。このことを伝えなければ、我々は死ぬまで村人に軽蔑されてしまう」

「な、なるほど……」


 何はともあれ、いよいよ僕とテトラの決闘が迫りつつあった。

 全てを知ったユキオ……次回、ユキオとテトラの関係に、ついに亀裂が!?


 同時進行で連載中の『ALTERNATIVE ~オルタナティヴ~』も、よろしければどうぞ。

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