最終回「勝った!〜世界の危機、終結!!〜」
悪魔――邪神リョウゼンの闇の眷属と、僕たちは対峙していた。
呼び名に反して機械的な外見の悪魔たちは、僕たちを認識するや否や、明らかな敵意を放ちながら地上へ降下していく。
僕たちは走り出した。前へ……その先にある明日へ。
善と悪をかけた決戦が、幕を開けたんだ。
レミナは唯一、家へ引き返して屋上に待機していた。そこから、天より来襲する悪魔たちを一望している。
エリスは僕たちと一緒に駆け出したが、丘の縁で立ち止まる。そこもまた、僕たち全員を視界に入れられる、見晴らしのいい地点だ。
僕たち5人は、戦場と化しつつある草原を突き抜けた。
「がんばれーーーっ!!」
エリスの声援が聞こえる。不思議と、僕たちの全身から力が湧いてくる。
レミナは家の屋上から何やら呪詛を呟き、それと共に悪魔たちの動きがぎこちなくなっていく。
2人が放つオーラのような魔力は、やがて僕たちを、そして悪魔の軍勢の全てを包み込んだ。
「あたしとユキオくんたちの幸せを……許さない…………」
レミナはブレーカー。いわゆる『デバフ』で敵の能力を減退させる怨念士だ。
一方、エリスはサポーター。『バフ』で味方、つまり僕たちの戦闘能力を増幅させる応援士。
2人の力を僕たちや悪魔の軍勢、全てに最大限の効果で発揮させるには、戦場全域を見渡せる場所で待機するのが効率的なんだ。
エリスとレミナの後方支援を受けながら、僕たちはついに悪魔どもと会敵する。
金属音を鳴らしながら着地し、翼を折り畳む悪魔たち。
真っ先に突っ込んだのは、アンナだった。
「おらららららららららァ!」
アンナは扱い慣れた双剣を駆使して、眼前の悪魔を次々と両断していく。エリスのバフによって飛躍的に増した脚力で跳び上がり、腕力で悪魔の四肢を、胴体を、首を刈っていく。
すると、1体の悪魔がアンナの背後から、太い腕を振るった。空中で身動きの制限されたアンナは、振り返るものの回避できそうもない。
直撃するかに思われたその時、カレンが盾で攻撃を防いだ。盾が輝き、受けた力を溜め込む。
「てええやあああああああああ!」
カレンの盾は悪魔の腕を弾き、衝撃の余波で悪魔の半身を吹き飛ばした。
アンナとカレンが着地すると同時に、ドゴオォと悪魔が倒れ伏す。
「やるじゃん。アタイが斬り損ねた悪魔を一撃でヤるなんてさ」
「べ、別にっ……たまたま狙ってたやつがアンナに襲いかかってただけだし!」
2人が軽口を交わしていると、その周囲を複数の悪魔たちが取り囲んだ。
一斉に腕を掲げ、彼女たちを圧し潰さんと振り下ろす。
だが、突如として雷を帯びた暴風が吹き荒び、悪魔たちは態勢を崩した。
「おいたが過ぎましてよ……グランガスト・サンダーボルト!」
マリアが詠唱すると、暴風がアンナたちを中心に渦巻き、悪魔たちを吹き上げた。乱回転しながら上空へ舞う悪魔を、連続で雷撃が襲いかかる。
風と雷の複合魔法の威力は凄まじく、悪魔どもはドドドドォ……と地上に落下して動かなくなった。
しかし、うち1体が何事もなかったかのように起き上がり、マリアを太い五指で掴んだ。
「なっ……まさか、属性魔法に耐性を持ってるの!?」
テトラが驚愕した。悪魔の中には、そんな個体がいるのか……!?
マリアを掴む悪魔は、両手を重ねてギュウ……と力を込め始めた。
ギリ……、ミチミチ……とマリアが絞め上げられていく。
「マリア!」
カレンが、その様を地上から見上げて叫んだ。
今の悪魔の手に握られたマリアには、いくらカレンでも守護士の能力で介入する術はない。
「かはっ……んっ……あぁ…………」
マリアが苦しそうに呻く。
僕も助けに行きたいが、他の悪魔たちがみんなに危害を加えないよう、迎撃するのに手一杯だ。
くそっ、一体どうすればいいんだ――。
「レミナちゃん!」
テトラがすかさず、後方支援の2人を振り向く。
「分かってる……! 全ての力を、あの悪魔の両手に集中してるからっ…………!」
レミナが全意識を、マリアを握り潰さんとする悪魔へ向けていた。
レミナのデバフが全てかかっているおかげか、マリアはかなり持ちこたえられている。
けど、それも時間の問題だ。マリアは今にも気を失ってしまいそうだ。
「アンナさん! エリスの力を全部使って!」
エリスはアンナに全てのバフを集中させる。
アンナは凄まじい闘気を帯びて飛翔し、悪魔へと突撃する。
「オオオオオオオオオオオオオォ!」
アンナは回転しながら、悪魔の両手を斬り落とした。
身体から斬り離された悪魔の両手首が、マリアを握り締めたまま落下する。
カレンは、跳び上がって空中でマリアを助け出し、介抱しつつ着地した。
「マリアさん! 待ってて、いま回復しますから……っ!」
テトラが駆け寄って、負傷したマリアを治癒の魔法で包み込む。
「あ……温かい、ですわ…………ふふ、あの悪魔の手とは、大違い…………」
マリアは可笑しそうに言った。どうやら命に別条はないらしい。よかった…………。
さて――そろそろ終わりにしようか。
愛する妻たちを傷つけられて、怒らない夫がどこにいる?
「エリス! レミナ!」
「まかせて、ユッキー!」
「分かってるってば!」
僕が2人に呼びかけると、どうやら指示をだすまでもないことが分かった。
エリスはアンナにしたように、バフを僕に集約する。レミナは、初めと同じように全ての悪魔へ均一にデバフをかける。
僕は、両手から一際眩い光を放った。
「2度と僕の家族に手を出すなぁ!」
僕が怒号を飛ばすと、光は更に強まり、悪魔たちはその閃光を目にして怯む。
僕は、掌に溜めた女神の光を、一気に炸裂させた。
「ホープ・ライト!!」
辺り一帯が光に覆われる。僕も、僕の家族も、家も草木も全てを包み込む。
光が散ると、全ての悪魔が地に伏していた。空を埋め尽くすほどのおびただしい悪魔たちは全部、撃滅した。
戦いは終わった。善と悪の決戦が、幕を閉じたのだ。
「これで終わり、か……思ったより呆気ないな」
僕は呟いた。
この程度で世界や僕たちの平穏が訪れるなら安いものだけど……。
正直、邪神がどうとか言われてたから、拍子抜けの感も否めない。
『みなさんが強すぎたのです。人としての喜びを知らぬ悪魔たちが、永遠に得られない絆の強さが、あなたたちに勝利をもたらしたのですから』
僕の中で、女神セアが微笑んだ。
「――ええ。僕たちの幸せを望む想いが、未来を掴み取ったんだ」
僕は喜びのあまり、妻たちへ駆け寄った。
こうして、この時代の輝望皇としての、僕の役目は果たされた。
ここからは、僕の好きな物語を紡ぐとしよう。
ハッピーエンドの、その先を。
終わりません。




