青き馬、三冠レースのビデオを見る
マジソンとボルトのマッチレースから1ヶ月後…
『…そういえばいつ厩舎に戻るんだ?』
ボルトがそう言うとマジソンは少し考え…
『…もうそろそろ迎えがくる。』
と言い、マジソンは遠くを見る。
「おーいマジソン!迎えが来たぞ!」
牧場スタッフがマジソンを呼び、誘導させる。
『な?それじゃ先にいってくる。』
そう言ってマジソンはボルトに別れを告げた。
『…頑張れよ。』
ボルトはマジソンに聞こえない程度にそう言って健闘を祈った。
「それじゃボルト。今日はビデオを見るぞ。着いてこい。」
しばらくすると牧場長が現れ、ボルトを馬房まで誘導した。
『今日は一体何の資料だ?』
「今日のビデオはこれだ。」
そこには、2001クラシック三冠と書かれたビデオだった。
『2001年の三歳クラシックのビデオか。』
「それじゃつけるぞ。」
~ビデオスタート~
【さあ…入場して来ました。一番人気の無敗の弥生賞馬…天才、アグネスタキオン!前走では二歳王者シンキングアルザオを破り、未だ負け知らずの王者であります。】
『アグネスタキオン…ダイワスカーレットの親父か…』
【二番人気は…二歳王者シンキングアルザオ。前走ではアグネスタキオンに敗れましたが朝日杯で強さは証明済みであり、二着のメジロベイリーに3馬身以上のリードを取って優勝しました…】
『マジソンの親父は確か天皇賞春が勝ち鞍だったな…』
【第61回皐月賞スタート!】
「いいか?ボルト…シンキングアルザオとアグネスタキオンをよく見ておけ…」
【最後の直線!最後の直線はシンキングアルザオが先頭!さあ一番人気のアグネスタキオンはシンキングアルザオに迫り…迫った!】
『凄いレースだ…』
ボルトはそのレースの凄さを感じていた。二頭の決闘状態になったからだ。
【さあここからが勝負!シンキングアルザオとアグネスタキオンの一騎打ちだ!他の馬はついていけない!アグネスタキオンが差す!シンキングアルザオも差し返す!】
「何度見てもここは熱い勝負だ…!」
このビデオを何回も見ている牧場長すらも手に汗を流す。
【た…タキオンだ!タキオンが半馬身抜け出してゴールイン!二着にシンキングアルザオ、三着にジャングルポケット…】
『あと一歩及ばなかったか…』
ボルトは残念そうに声を出す。
「流石はサンデーサイレンス産駒の中で天才と呼ばれることはある…何度見ても素晴らしいレースだ。」
牧場長はタキオンをそう褒め、ビデオを早送りさせる。
「次のレースは日本ダービーだ…このレースはのちに府中の鬼と呼ばれるジャングルポケット、同じく白いセクレタリアトと呼ばれるクロフネ…そして我らがヒーローシンキングアルザオだ。豪華なメンツばかりだ。っと…始まるぞ!」
【第68回日本ダービースタート!】
『さて…今回のレースはどう出るんだ?』
「私は馬に勝負根性をつける為に色々試した。その中で最も効率的なものが持久力を鍛えかつ瞬発力を鍛えることだった。」
『そりゃどういうことだ?』
「かつて菊花賞を取ったビワハヤヒデ陣営も勝負根性の足りなさから皐月賞、ダービーで三着しか取れなかったことを悩んだ…だがそれは違った。」
『違った…?』
「グリーンの兄であり無敗での二冠馬セイザバラッドや皐月賞二着馬ナリタタイシン、ダービー二着馬ウイニングチケット…どれも瞬発力を重視するタイプの馬だった。もしかしたらビワハヤヒデ陣営は勝負根性ではなく瞬発力がないのでは…?と思い瞬発力を鍛え菊花賞を勝ち取った。」
『糞爺の兄貴が無敗での二冠馬か…納得出来たぜ。』
「セイザバラッドは菊花賞で敗れそれから全て二着と翌年の天皇賞春までスランプが続いた。だが武田先生も気がついたみたいで調教方法を変えた。それで天皇賞春を勝ったというわけだ。」
『興味深い話だ…』
【最後の直線!】
『おっと…もう直線か…』
【先頭はシンキングアルザオ!やはり強い!ジャングルポケットも凄い脚だ!皐月賞二着馬と皐月賞三着馬の対決だ!クロフネはきついか!?シンキングアルザオが先頭!しかしこれは差せるか!?ジャングルが差した!しかしアルザオ差し返した!ゴールイン!シンキングアルザオが一着!】
「結果だけ言えばシンキングアルザオは勝ったがジャングルポケットも凄い脚だった…だがアルザオはビワのように瞬発力を鍛えて勝負根性をつけたんだ。勝因はここだ…」
『確かに…今の時代は瞬発力だよな。カルシオ18も瞬発力を武器としているし。もしアルザオがいなかったらもっと早くジャングルは府中の鬼って呼ばれていただろうな…』
ボルトがそう思っていると牧場長はボタンを押して早送りをした。
舞台は京都競馬場…菊花賞の舞台だ。
「菊花賞は長いから途中から見るぞ…このレースにはこの年の有馬記念馬マンハッタンカフェが出る…」
【シンキングアルザオ今日は珍しく三番手の位置…と動いた!ちょっと早すぎないか?】
アルザオ以外にも逃げ馬がいたので武田はこのままではペースを削られると思い、三番手くらいの位置にしたのだ。
【最後の直線!シンキングアルザオが二番手に上がり、そして一気に千切った、千切った、千切った!二馬身三馬身、四馬身とリードを広げ…圧勝!シンキングアルザオ!ゴールイン!二着にマンハッタンカフェ…なんとシンキングアルザオ、ダービー、菊花賞の二冠馬となりました!】
「ダービーと菊花賞の二冠馬はシンキングアルザオを含め三頭しかいない…一頭は無敗馬クリフジ、もう一頭はハイセイコーのライバルのタケホープ。三冠馬よりも数が少ないんだ。最もこの二頭はどっちも皐月賞出ていないから皐月賞出ていれば三冠馬になっていたと私は思う。だがアルザオは運が悪かった…アグネスタキオンという天才がいたことだ。」
『…タキオンは確かに強いよな。まるで隙がない。』
「だがアルザオが二冠馬となったことでタキオンの強さは値上がりしてしまった。もしタキオンが無事に三冠のレースを走ったら三冠馬になっていたと言われるようになった。だが距離の関係上、ダービーならともかく菊花賞の時点でその夢は途絶えたと私は思う。シンキングアルザオは本来長距離馬…タキオンは血統から考えると厳しいものがある。」
牧場長の言うとおりだった。アグネスタキオンの母アグネスフローラは桜花賞を勝ってオークスでは負けていることと、兄アグネスフライトがダービーを勝っている為、タキオンの適性距離が2400までと言われている。
「これでシンキングアルザオの三歳時のレースはおしまいだ。ゆっくり休養させておきたかったらしい…」
『(休養は大切とはいえJCや有馬記念を回避するか?)』
「じゃあそろそろ私は仕事に戻るぞ。お前も自由にして良いぞ…」
牧場長はそう言って立ち去った。
『瞬発力か…糞爺に負けたのも瞬発力勝負が原因で負けたんだよな。』
ボルトは馬房でそんなことを考えているといつの間にか眠りについてしまった。