青き馬、事実を知る
~風間牧場~
長距離の王者の遺伝子を継ぐ馬…マジソンティーケイが風間牧場にやってきた。
「ほら、この前有馬記念で見ただろ?こいつがお前の先輩…マジソンティーケイだ。」
牧場長はボルトを連れてマジソンに会わせた。
『おい…ガキ…』
マジソンはボルトに話し掛けてきた。
『もしかして…あんたか?』
ボルトは驚く。ボルト以外に話せる馬はアイグリーンスキーこと、グリーンしかいなかったからだ。
『そうだ…それよりも見たんだろ?有馬記念。』
マジソンはボルトに有馬記念を見たことを聞いた。
『ん?ああ…あんた、惜しかったよな。』
ボルトは事実を話し、マジソンにそう言って慰める。
『なら話しが早い。着いてこい。』
マジソンはボルトにそれだけ言うととある場所へと歩いて行った。
『え?待ってくれ!』
ボルトは慌ててマジソンを追いかけた。
「どうやらマジソンもボルトもやる気に満ちているみたいだな…」
牧場長はそう言ってゆっくりと歩いて行った。
『…ここは?』
『ここは菊花賞の舞台…京都競馬場をモデルにしたコースだ。』
『まさかこれから走るのか?』
『もちろんだ。俺は阪神大賞典を次走に控えている。その為の肩慣らしだ。』
『しかし有馬記念直後だし、放牧してゆっくり休んだ方がいいんじゃないか?』
『放牧前に一回やってその後、もう一回やれば実感できるだろ?どれだけ衰えたか、あるいは感覚はどんな感じかってのをな…』
『…どうしてもやらなきゃダメか?』
『当たり前だ。お前も三歳になれば菊花賞、四歳になれば阪神大賞典、天皇賞春に出るチャンスはある。その時の練習だ。』
『わかった。そこまでいうなら仕方ない。』
『よし、決まりだ。それじゃ牧場長のおっさんもいることだし…交渉するか。』
マジソンはそう言って牧場長に近づいた。
「ん?どうしたマジソン?」
「…」
マジソンは牧場長にタイムを測って貰うことを目で伝えようとした。
「もしかしてこのコースのタイムを測りたいのか?」
コクッ。
マジソンはそう頷いた。
「わかった…無茶するんじゃないぞ。」
そして二頭が並び終わった。
「よし。では行くぞ…!スタート!」
二頭が一斉に飛び出し、マッチレースが始まった。
『そういえばなんで俺の親父こと、アイグリーンスキーとあんたは俺と意思疎通が出来るんだ?』
ボルトは一馬身遅れてマジソンをマークするようについていく。
『それはお前…アイヴィグリーンの血を引いているからだな。』
マジソンは少し引き離そうとスピードを上げる。
『アイヴィグリーン?二冠牝馬のあいつか?』
ボルトはマジソンのペースに合わせ、距離を保つ。
『そうだ。俺の父母母はアイヴィグリーン…そしてアイグリーンスキーの母だ。』
マジソンは先ほどとは逆にペースを落とし、ボルトの横に並ぶ。
『なんだと?』
ボルトはマジソンの隣にいたままそう尋ねる。
『アイヴィグリーンは桜花賞、オークスの二冠牝馬でも有名だが繁殖戦績がとにかくすごい…6頭産んで6頭がGⅠを勝っている…その理由は武田先生が俺たちの声を聞き取れたってことにある。』
マジソンのペースが上がり、ボルトは再び一馬身のリードを許す。
『…』
『まあ、武田先生曰く、コミュニケーションがとれるようになるのはGⅠクラスの名馬にならないと聞き取れないらしいからアイヴィグリーンの孫…つまりグリーンやその兄弟の産駒でも話せるのは極々僅か…らしい。』
『つまりアイヴィグリーンの血があれば話せる可能性もあるってことか…』
『そうだな。』
ここまで1000mを通過…
「ほう…これは。」
牧場長がタイムを見るととんでもないラップが刻まれていた。
そのタイムは58秒9
二歳…しかも3000mの長距離でそんなタイムを出すのは異常とも言える。当歳馬の時点で2000mの中間…1000mのタイムが58秒2とふざけたタイムを出しているのでなんとも言えないが…それでも超ハイペースである。
「グリーンといい、マジソンといい…恵まれているとクロス…いやボルトもラッキーだな。」
牧場長はそれしか言えなかった…
『そういえば近年、ステイヤーの馬は種牡馬になりにくいって聞いたがあんたは大丈夫なのか?』
ボルトはマジソンに一馬身のリードを許し、そのまま維持する。
『その心配はいらない。スピードを重視している馬主じゃない風間さんはGⅠ馬で有れば必ず種牡馬登録する。』
マジソンはボルトからさらに距離を引き離そうとスピードを上げる。
『そうなのか?』
ボルトはそれに気づき、横に並ぶ。
『ああ…風間さんは気づいているんだよ。スピードを重視しても無意味だってことに。』
『どういうことだ?』
『三冠馬オルフェーヴル、二冠馬ゴールドシップ…この二頭の父親はステイゴールド、母父はメジロマックイーン…』
『それがどうした?』
『ステイゴールドもメジロマックイーンもGⅠ勝っているステイヤーなんだよ。』
『確かに…でもステイゴールドは長距離のGⅠは勝っていないよな。』
『ああ…だがな。ステイゴールドは武田先生曰くステイヤーらしい。』
『なるほど…ようはステイヤーで中距離のGⅠ勝っていれば種牡馬としての成績が期待が出来るってことか?』
ここまで2000m通過…
「あ、牧場長。何しているんすか?」
若いスタッフが牧場長に話し掛け、近づく。
「タイムだよ。あの二頭のな…」
「…ん?ん?ん!?もしかしてあれ…マジソンとクロスですよね!!?どうしてこんなことに!?」
「驚くのはまだ早い!これを見ろ!」
そう言って取り出したのは二頭のタイムだった。
マジソン
1000m 58秒9
2000m2分01秒1
ボルト
1000m 59秒2
2000m 2分01秒1
「クロス…速くなっていますね。」
「ああ…流石ボルトと言ったところだろう。」
『さて…残り1000mどこまでスタミナが残っているか見せて貰おうか…』
マジソンがそれだけ言うとペースを上げ、差を開こうとする…が
『スタミナ切れ?んなもの俺にはねえ…俺の欠点は墓場まで持っていくつもりだ!』
ボルトもボルトでしぶとくまだまだ差が開かない。
そんな調子で残り400m
『それじゃいくか!』
ボルトはかつてグリーンとのマッチレースをやった際に差し返したフォームに変える。
そのフォームは右前脚と左後脚を同時に、また同様に右後脚と左前脚を同時に動かし蹴りを強くする。さらに重心を低くして無駄な力を全て前に行かせ、スピードが上がる。
そのフォームに変わった途端…ボルトはマジソンが止まって見えた。
『なんだ!?』
マジソンはボルトの走りを見てこう思った…
あれは稲妻の末脚だと…
『これでゴールだ!』
そしてボルトのスピードは衰えず1着でゴールした。
「マジソンが負けた!?」
若いスタッフはマジソンが負けるなどと思ってもいなかった…その理由はマジソンは長距離の絶対王者で菊花賞、天皇賞春と長距離のレースを2つも勝っているからだ。
「…あり得ん。」
牧場長も牧場長で驚いていた。しかしその理由はマジソンがボルトに負けたということではなかった。
「3分00秒9だと…!?」
そう…そのタイムは世界レコードである。マッチレースでタイムが出しやすいとは言えボルトは二歳馬だ。牧場長は戦慄を覚えた…グリーン産駒は一般に晩成型が多く、デビューも遅い…だがこの馬はすでに世界レコードを出せる力を持っている…もしかしたら…トキノミノル、芝版セクレタリアトになるかもしれないと…
トキノミノル10戦10勝
史上初の無敗での二冠馬。しかしもっとすごいのはこの馬は新馬戦で日本レコードを出したチートである。
更に後の第一回安田記念を勝ったイツセイを五走連続で五回とも勝った化け物である。
そのことからもしもトキノミノルがいなければイツセイが無敗での二冠馬になっていたとも言われている。ちなみに生涯のレコードの数は7割…しかも10戦以上して無敗は日本馬としてはこの馬とクリフジだけである…
セクレタリアト 21戦16勝
通称ビックレッド。この馬の特徴は雄大な馬格にフォームを自在に変えられる超圧倒的な強さ…その強さはベルモンドS(2400mダート)で2分24秒という世界レコードを出したチートである。
ちなみにベルモンドSでセクレタリアト以外は2分26台が限界で2分25秒台は誰一頭もいない…