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青き馬のルーツと観戦

とりあえず書きだめした分だけ投稿

 時は遡り1976年8月札幌競馬場




【トウショウボーイもクライムカイザーも関係ないっ! 千切る千切る! 札幌記念を大差勝利したのは持込馬ハーツタール! トウショウボーイに新馬戦のリベンジを果たしました!】


 ハーツタール。父は米国年度代表馬となったダマスカス。持込馬でありアイグリーンスキーの母母、つまり祖母にあたる競走馬であり、グリーン一族のルーツでもある。


 そんな彼女は新馬戦でトウショウボーイ、シービークイン、グリーングラスといった後に名馬となる競走馬達と競い合いトウショウボーイの2着と健闘し、そこから重賞を含め6連勝。当時の規則で持込馬はクラシック登録が出来なかった故にクラシック競走に出走こそ出来なかったが実力は牝馬の中でも最強であり一目瞭然だった。


 しかしあくまでも牝馬の中でという前置きがついていた。それもそのはず、ハーツタールは当時外国産馬と同じ扱いだった持込馬だった為にそれまで破ってきた牡馬は決して第一線を戦ってきたという訳ではなく、むしろ二軍と呼ばれるような馬達ばかりで、別のレースで勝って証明するしかなかった。


 そのレースこそ札幌記念。無敗で皐月賞を勝ったトウショウボーイ、そのトウショウボーイを日本ダービーの舞台で破ったクライムカイザーが出走しており、まさしく牡馬の第一線そのもの。しかも丁度1年前に古馬との混合レースとなり歴戦をくぐり抜けた古馬達も集結していた。


 その猛者達を相手にハーツタールが圧勝するが、当時の札幌記念は芝ではなくダート2000mのレースであり、競馬関係者からハーツタールがダート専門の競走馬なのではないかという疑惑があった。




 余りの強さにダート専門という渾名を背負ってしまった汚名を返上すべくハーツタールの次走は京都大賞典に決まった。京都大賞典は芝2400mのレースで札幌記念よりも古馬の最前線に出るような競走馬達が集まるレースで年によっては下手なGⅠ競走よりもレベルが高い。そんなレースだ。またこの年はトウショウボーイと肩を並べていたテンポイントがおり、ここでテンポイントに先着出来ないようであればハーツタールをダートで活躍させる予定だった。


【テンポイントはようやく4着確保出来るか! 先頭はハーツタールだ、ハーツタールまたしても圧勝! 豪快、痛快、ハーツタール、6馬身差勝利です!】


 だがそんな予定をぶっ壊すかの如く圧勝。6馬身差のレコードだった。この時代、年功序列、男尊女卑と言わんばかりに3歳よりも古馬、牝馬よりも牡馬の方が強くテンポイントも6番人気であり勝利したハーツタール自身もそこまで人気はなかった。だがこの勝利によってハーツタールの評価はうなぎ登り。世代最強はハーツタールという声もあった程だった。その後エリザベス女王杯を勝利し、有馬記念に一点の曇りなく出発していた。




 しかしまさかの調教中に故障発生。完治するまで長く、有馬記念は当然その翌年の宝塚記念に出走することが出来ず、その間にテンポイントもトウショウボーイも評価を上げていた。だがハーツタール陣営は焦りなどなく、むしろ余裕ですらいた。




 時は流れ、1977年。


 故障明けのハーツタールがKGⅥ&QESに出走し4着と当時の日本では前代未聞の快挙を成し遂げていた。


 何故KGⅥ&QESに出走していたのかと言うとそれは外国産馬扱いされているハーツタールの出走出来るレースが国内でほとんどなかった為である。故にこのような暴挙をし、結果を残してしまった。


 その後、仏国に滞在しフォワ賞を獲りそのまま世界最高峰のレース凱旋門賞に出走し3着と惜敗。もはや誰もが疑う余地のない日本最強牝馬だったが、この年の年度代表馬は天皇賞春と有馬記念を勝ったテンポイントだった。


 これだけの成績を残しておいて年度代表馬に選ばれないことに対して様々な議論がなされたが、年間未勝利である上に国内でグランプリを取っていないのも事実であり、ハーツタール陣営は翌年宝塚記念と有馬記念に狙いを定め、国外のレースはKGⅥ&QESと凱旋門賞のみ出走することに決めた。


 トウショウボーイもテンポイントもターフを去った為、ハーツタールを止められる馬と言えばTTGの生き残りであるグリーングラスしかいない。世間の評価はハーツタールを本命、グリーングラスを対抗にしていた。




【さあハーツタールが先頭、伏兵エリモジョージが差し返そうとしているがハーツタールが粘る粘る! グリーングラスは来ないぞ、グラスピンチ! ハーツタール逃げ切ったーっ! 2着にエリモジョージ、3着にグリーングラスです!】


 宝塚記念で新馬戦以来となるグリーングラスとの対決に水を差すように伏兵エリモジョージが割って入ってきたものの二頭の猛追から逃げ切り、ハーツタールが宝塚記念を制覇。TTG世代と呼ばれながらその三頭に勝利した馬として名を馳せた。だが彼女がTTGよりも評価が低い理由、それは宝塚記念の直後に屈腱炎が発症して引退してしまったからだ。もし屈腱炎が発生することなくその年の有馬記念も勝利したならばTTGを凌いでハーツタール世代と評価されていた可能性もある。


 その後ハーツタールはニジンスキーの代用種牡馬グリーンダンサーと交わりゼノグリーンを輩出した。ゼノグリーンは競走馬としてはエリザベス女王杯5着の他に誇れる成績がなくトライアルでも3着がやっとという有り様で、また母としても鳴かず飛ばず、ハーツタールに比べると期待外れの結果に終わった。


 その一方でハーツタールはグリーングラスと交わり二冠牝馬アイヴィグリーンを輩出したが、アイヴィグリーンが繁殖入りするとすぐに結果を出し6頭全員がGⅠ競走を勝利。その中でも最高傑作と名高いアイグリーンスキーが悲願の凱旋門賞制覇を果たす。




 しかし母系としてのアイヴィグリーン系はそこまでだった。アイグリーンスキーやそれ以上に種牡馬として大成功を納めたシンキングアルザオがアイヴィグリーンの血を濃く継いでおり、アイヴィグリーン系に頼っておりしかもSS系を辟易していた風間牧場は悲鳴をあげることになる。血が濃くなりすぎた結果繁殖出来なくなるという所謂【セントサイモンの悲劇】に近い状況だった。尤も今回の事例は種牡馬ではなく繁殖牝馬であるという違いがあるが、それでもかなり苦しいものであった。


 そこでオーナーブリーダーである風間はハーツタールの血を繋ぐもう一つの母系、ゼノグリーン系から母系を繋ぐことにした。


 確かにゼノグリーンは母親としては失敗したが娘を何頭も残しており、その娘を始めとした子孫がアイヴィグリーン程ではないにせよ繁殖牝馬として優秀で、繁殖牝馬の母として活躍していた。


 その結果天皇賞秋を制覇したヘレニックイメージや阪神JFと桜花賞を制覇したミドルテンポなど名馬が多数現れ、現在となっては主流だったアイヴィグリーン系と力関係は逆転している。




 しかしそれでも血が濃くなって解決出来ない場合は海外──特にアメリカ大陸の日本では流行していなくしかも日本の芝に適応出来得る素質を持った繁殖牝馬を使って血を薄めており、母系としてのハーツタール系を絶滅させずにしている。




 閑話休題




 故にアイヴィグリーン系のみがグリーン一族と呼ばれるのではなくその姉ゼノグリーンの子孫も含まれるのにはそういった背景があった。アイヴィグリーン系がニジンスキーやメジロマックイーンといったクラシック路線の前線で戦い続けた競走馬を種馬にしているのに対して、ゼノグリーン系の特徴として2歳や3歳で冴えなくとも古馬になってから活躍した馬を種馬にしている。




 ミドルテンポはその二つの血統の結晶とも呼べる存在であり成長力が特に高く、マオウに負けた相手は精神崩壊されるのだが例外的に成長し続けていることからその異常さが理解出来る。




 そして時は2021年、武田厩舎


『なあマジソン、スタミナ切れってしたことあるか?』


『スタミナ切れか。少なくともレースでしたことはない。俺が負けたレースは全て末脚で負けたようなものだ。この前の天皇賞春を見ただろう?』


『ズブいけど一度スパートがかかれば長続きするって訳か』


『ズブいとかいうな。まあボルトの言うとおり俺は超ロングスパートのタイプでそれが脚質に現れている。だがそのスパートがその距離のレコードを更新するほど速いとなれば話は違う。今の俺は親父(シンキングアルザオ)お前の親父(アイグリーンスキー)、歴代のどの名馬よりも強いはずだ。歴代最強の俺に宝塚の舞台で勝てると思うなよ?』


『上等だ』


 マジソンとボルトが互いにライバルと意識し、高いモチベーションで宝塚記念を迎えようとしていた。




 しかしその数日後、とある競走馬がボルトを思い出させる。


 その馬の名前はマオウ。ボルトの同厩舎のミドルが新馬戦で一蹴され、NHKマイルCでボルトが更新するまで芝1600mの世界レコード保持者だった競走馬だ。


 そのマオウがケンタッキーダービーに出走していた。




【さあケンタッキーダービー、スタートしました】


 ケンタッキーダービー。それは米国のホースマン達が勝利を求める栄光のレースであり米国最高峰のレースである。何故ならケンタッキーダービー馬が種牡馬価値が薄まるという理由から古馬として引き続き現役続行することなく引退するケースがほとんどで極端な例だとケンタッキーダービーを制した後に引退することもあり得るほどにその価値は高いからだ。


 日本でもケンタッキーダービー馬の種牡馬としての需要は高く米国二冠を制したサンデーサイレンスや同じく米国二冠馬ウォーエンブレム等が成功しており特にサンデーサイレンスはリーディングサイアーの称号を何度も獲得しており、現在でもその血は重要なものとなっている。


 そんなケンタッキーダービーにマオウが挑もうとしていた。しかしながらマオウは血統的に言えば芝の方が適正があるように思えた。マオウの祖父は確かにサンデーサイレンスでケンタッキーダービー馬であるがその息子──つまりマオウの父ディープインパクトは日本の芝で活躍した馬であり、マオウの母方の血筋を辿ると欧州の芝で活躍した名馬が揃うが米国のダートで活躍した名馬はノーザンダンサーという馬にまで遡らないと行けない。つまりそれだけ芝で走ると思われていた。


 だが実際は違った。マオウが米国のダートでも走れることを昨年のBCジュヴナイルで圧勝したことにより証明してしまった。それによりマオウ陣営は日本でもなく欧州でもない米国のダートで走らせることにし、ケンタッキーダービーに出走していた。




 最終コーナーを曲がり、マオウが二番手まで上がっていくと先頭の馬が必死に食らいつくがそれもここまでだった。


【さあここからだ! マオウは、マオウが来た! マオウここで先頭に立って後は千切る千切る! 先頭はマオウ、マオウ、後ろからは何にもこない、何にもこない! |Maou first, the rest nowhere! 《マオウ、唯一抜きん出て並ぶものなし》 今マオウがゴールイン!】


 マオウの容赦ない末脚に出走馬が心を折られ、中にはゴール後に嘶き暴れだした馬もいた程だった。だがマオウがケンタッキーダービーのレコードを更新し、タイムオーバーにならなかったのがせめてもの幸いだった。


【時計はレコード! セクレタリアト以来のスーパーレコードを今、極東からやって来た魔王が3秒近く更新しました! もちろん世界レコードです!】


 マオウのレコードタイムはもちろんだが、それ以上に5着までの馬が2分を切り、11着の馬ですら例年の勝ちタイムを上回っていたことが世間を驚愕させた。


「ファンタスティック……」


 あまりの強さと競走馬達を故障するまで走らせることから米国の競馬関係者はマオウを【幻魔王】と評価している。某RPGに登場する【死の夢】を意味するラスボスの名前が由来となっている。



 武田厩舎の反応はというと


『相変わらずぶっとんだ野郎だ。なあミドル?』


『うん。あれからさらに強くなっているね』


 マオウのレースをみて盛り上がないはずもなく、特にクラシック前線で戦い続けている二頭には大きな刺激となり闘志が高まり、それがマジソン達に感染する。それが武田厩舎に所属している馬達の反応だった。


 かくしてマオウは世界から認められるラスボスとなり、世界最強の座を奪い取った。

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