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白い魔術師、三度目の阪神大賞典

阪神大賞典。芝3000m、阪神競馬場で行われる重賞レースである。このレースを制したものは天皇賞春をも制するとまで言われている。

その理由は天皇賞春の距離に最も近く、超長距離レースであるからだ。一昨年と昨年の覇者マジソンティーケイを始め、数多くの天皇賞春を勝ち鞍にしている名馬がこのレースを制覇している。無論大阪杯など別のステップレースから天皇賞春を制することもあれば直接天皇賞春を制することもある。

しかし本気で天皇賞春を制する気があれば距離が近い阪神大賞典を選択する。それをしない場合は調整に自信があるか、出走することによるデメリットが目立ち過ぎるか、賞金や怪我等の関係から出走出来ないかのいずれかである。


マジソンも天皇賞春に向けてこの阪神大賞典に出走していた。


【さあマジソン、ゴールドシップ以来同重賞レース三連覇なるか? 】

マジソンが逃げ、それを他の馬が追いかける。いつものレースだが、面子はかなり異なり、マジソンを追い詰める馬は全てリセット達の同期つまり20世代の馬だった。マジソンと20世代達の間の世代、つまり5歳馬は皆無でありマジソンが最年長であった。

【逃げるマジソン、追い詰める20世代! 去年の有馬記念馬が襲ってくる!】

有馬記念馬、サードメンタルがマジソンを捉え、交わした。

『まだだおらぁっ!』

しかしマジソンは更に競り合い、サードメンタルを差す。

『てめえに負けたら俺はあいつらにあわせる顔がねえんだよ!』

そしてマジソンがサードメンタルを差しきったところでゴールインし、それまでの20世代の重賞連勝記録を阻止。まさしくマジソンの意地だった。


『どうだ、見たかこの野郎ども! 俺様の走りを見やがれぇぇぇっ!』

マジソンが嘶き、そのままウイニングラン。通常ウイニングランは重賞レースでもGⅠレースのみであり、重賞レースで行った例はサイレンススズカの毎日王冠くらいのものである。しかしあの時は通常のGⅠレース、いやそれ以上のメンバーが集結していただけでなく観客もGⅠレース以上に賑わっていたからウイニングランをしても違和感がなかっただけで、今回行われたレースはそれよりも劣る普通のGⅡレースと変わりない。むしろ昨年度の年度代表馬リセットがいない分観客は盛り上がりに欠けていた。


故に係員がマジソンを捕まえるのは極当たり前のことだった。

『あっ、スーパースターである俺に何をするっ!?』

係員に連行されるのを嫌がるマジソンを見た観客達はある馬を思い出していた。




ゴールドシップ

戦績 28戦13勝

主な勝ち鞍 宝塚記念連覇、グランプリ連覇、天皇賞春、皐月賞、菊花賞

GⅠ6勝、それも必ず年間でGⅠを1勝以上していた正真正銘名馬であり種牡馬であるが。彼の場合は癖馬──ようは問題児としてかなり有名である。とは言っても祖父SS(サンデーサイレンス)や父ステイゴールドのように草食動物とは思えないほど荒い訳ではない。やることが人間のイタズラっ子そのもので我が儘。彼の気性を表すエピソードとして以下の事が挙げられる。


三度目の挑戦となった天皇賞春ではゲート入りを嫌がり目隠しをされようやく出走した挙げ句勝ってしまう。

三連覇がかかった宝塚記念では謎のダンスで120億の馬券を無駄にさせる。

引退式ではゴネまくり遅らせる。

セクハラを後ろ蹴りで撃退。


とこのように彼の気性を表すエピソードは多数ある。


そう、今のマジソンはゴールドシップそのものであり我が儘言いたい放題で、人々はそれを重ねていた。

『ちくしょぉっ! ウイニングランをもっとやらせろぉぉぉっ!』

嫌々連れていかれるマジソンが咆哮する姿はまさしくゴールドシップそのものであった。そして同時にメジロマックイーンを血統表しか知らない人々は「ゴールドシップとマジソンティーケイの祖父──前者は母父、後者は父父──であるメジロマックイーンの気性はこんな感じだったのか」と思うようになった。あんまりである。




その頃、ドバイでは日本馬が次々と快挙を成し遂げていた。

【アルクォズスプリントを制したのはトーマ!】

【UAEダービーを制したのマオウ! ケンタッキーダービーに向けて死角無し!】

【ドバイターフを制したのはゴールデンウィーク! マイルの舞台でも勝った、中距離専門馬とは言わせない!】

【トロピカルターボ先頭でゴールイン!ドバイシーマクラシックを勝ったのはトロピカルターボだ!】

マオウやトーマ達20世代が次々とドバイの重賞レースを食い散らかす。それを見たドバイやその他海外の国々の競馬関係者や競馬ファン達は悪夢に頭を抱える。尚、ドバイの国際レースではないがジ・エベレストも日本馬のロレアルゴーが勝利しておりスプリント路線でも日本馬が先を行っていた。




そして日本馬達がもう一つのドバイのGⅠレースに出走登録していた。


ドバイWC。ヴィクトワールピサが制して以来、日本馬による勝利は皆無である。しかしリセットを始めドバイWCに出走する日本馬が4頭も出走していた。


【マオウにこそ昨年度の最優秀ダート馬の座を譲ることになったユキオシンキングですが、東京大賞典を勝っています。マオウを除いた昨年度の日本のダート最強馬がどのように走るのか期待がかかります】

芦毛が特徴のシンキングアルザオ産駒が姿を現すと現地の人々はその姿を見て感心すらしていた。馬体、気性が完璧でありため息をこぼすほどであった。


【今年になって頭角を表し始めた川崎記念及びフェブラリーSの勝者、サンキューファルコ】

そして再び驚愕の声が響く。またしても芸術品のように完璧な馬体であり、興奮する画家が多数現れ日本馬二頭をスケッチし始めた。


【東京大賞典二着ながらもマクトゥームチャレンジラウンドⅡに挑戦しドバイ勢を抑え勝利したハマノグレネード。】

そしてもう一頭、日本馬が現れると期待した以上に馬体が完成されており、その姿はまるで翼を収納した天馬のようだった。


【マクトゥームチャレンジラウンドⅢを大差で勝った日本史上最強牝馬リセット。本日は屈辱の二番人気、しかし先頭に立つのはやはりこの馬でしょう】


最後の一頭は期待外れ。丸太のように太い腹に汗をセントサイモンの如く流し常に入れ込んでいた。いくら無敗馬とはいえこの入れ込み具合では二番人気になるのは極当たり前のことであった。


【一番人気はこの馬。前走ペガサスWCを勝利した欧州三冠馬アブソルート。昨年度のケンタッキーダービー馬を25馬身差で千切ったその脚が炸裂するか?】


一番人気になったその馬の名前はアブソルート。前前走のJCこそリセットに鼻差で敗北した──尚、陣営は地元贔屓と供述している──が前走ペガサスWCで歴史的大差を挙げ、芝よりもダートに適性があると見なされて一番人気に支持された。




そんなこんなでゲート入りが終わり、ドバイWCが始まろうとしていた。

【世界最強決定戦となるドバイWC、スタート!】

後書きらしい後書き

サブタイに青き馬と書かれていない理由はお分かりかと思いますが主人公ことボルトチェンジが登場しないからです。代わりに白い魔術師ことマジソンがサブタイになりました。次回も主人公が出るかどうかわかりませんのでご了承下さいますようお願いします。


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