青き馬、伝説と勝負する
『この舞台は皐月賞の舞台と酷似している…』
グリーンの言う通り、牧場の周りのコースは2000mの坂有りのコース…皐月賞の舞台と酷似していた。
『それがどうした?』
『これは俺の為に作られた…が結局は無駄だった。俺は仕上げが遅かったせいで皐月賞に出れずに青葉賞へと進んだ。もし…仕上げが早ければ俺は皐月賞を取れただろうと言われ続け、その上俺の産駒(息子達)はダービーや菊花賞、その他のGⅠに勝っても、皐月賞を取れやしなかった…』
グリーンは当時皐月賞に出られる条件を満たしておらず、一か八かの抽選に出たが落ちてしまい…やむなく青葉賞に出場し楽々と制覇。そのままダービーへと進んだのだ。またグリーンの種牡馬成績は優秀だがこれまでの間に皐月賞を勝った馬はいなかった。その為「皐月賞を狙うならグリーンの種はつけるな」と言われ続けた。
『お前が最後の望みなんだ。ここでお前が俺に負けるようならお前は皐月賞は取れやしない。がっかりさせるんじゃねえぞ…』
グリーンの言う通り、グリーンは老馬と呼べる歳でもう現役時代よりも遥かに衰えているのだ。その衰えている馬に負けるようでは皐月賞は制せない。
『その心配はいらねえ…俺は三冠全て勝ちに産まれたんだからな。』
『そのセリフは勝ってから言え。当歳馬。』
『言ったな?糞爺。』
などと言うやり取りをしている間にも1000mを通過した…
一方ベテランスタッフは驚いていた…
「どうしたんですか?」
若いスタッフがベテランスタッフに驚いた理由を尋ねた。
「このタイムをみればわかる…!」
そう言ってベテランスタッフが出したのは1000mのラップだ。その内容は驚くべき内容だった。
1000mの通過ラップ…58秒2だ。これがどれだけ凄いかわかるだろうか?
このラップは超ハイペースであり、絶対に追い込んだ馬が勝つと言っても過言ではない。
「58.2?それがどうしたんです?」
しかし若いスタッフはあまりにも無知だった…
「馬鹿野郎!このタイムはカブラヤオーの日本ダービーのペースよりも速いんだ!」
カブラヤオー…その名前はあまりにも有名だ。一万頭に一頭と言われる強心臓を持ち、日本ダービーの1000mのラップのレコードの元記録保持者であり、そのまま一着を取った馬である。
「…えええ!?それじゃあの二頭はカブラヤオーよりも速いペースで走っているんですか!?」
「ああ…間違いなくあの二頭は落ちるな…」
「やっぱりですか…」
二頭は最後の直線へと入り、ハイペースのままクロスが先行していた。
『さて…糞爺…覚悟は出来ているんだろうな?』
『お前は直線で脚が伸びない…お前はもうばてている。』
『何を馬鹿なことを…!?』
その時、クロスの脚が思い通りに動かなくなった…
『じゃあな…!』
グリーンはそう言うとクロスを抜いてどんどん引き離して行った…
「勝負ありましたね…」
「ああ…そうだな。グリーンの勝ちだ。全く大した奴だよ…グリーンも。あいつはまだGⅠ級の現役馬達を凌いでいるんだからな…」
グリーンは確かに現役時代に比べれば衰えている…しかしだ、この馬は四年連続で年度代表馬になったのだ。四年連続で年度代表馬になった馬どころか三年連続もいない…どういうことかお分かりだろうか?
年度代表馬になれるのは三(旧四)歳の年齢からである。グリーンが年度代表馬になったのは1994年…同期には三冠馬ナリタブライアンがいる。日本ダービーでナリタブライアンに勝ったと思いきや斜行して競争妨害をしていたことが発覚し二着になった…
その後宝塚記念に勝ち海外へと進んだ。その海外のレースは…父ニジンスキーが負けた凱旋門賞だ。今まで日本調教馬で誰一頭も取れなかった凱旋門賞に挑んだ。その結果…四馬身差をつけて勝ってしまったのだ。この時点で年度代表馬は決まったようなものであるが、その後JCで大差をつけて勝ち、有馬記念でナリタブライアンへの雪辱を晴らす為に出走…一騎打ちの大勝負だったがグリーンが勝ってGⅠ四勝して年度代表馬となったのだ。
その後その年代以降の名馬達を相手に天皇賞春秋連覇、グランプリ連覇、JC制覇などを全て行い、年度代表馬を何回も取ったのだ…
つまり、ナリタブライアンを破って以来ほとんど衰えていないのだ。先程の言葉と矛盾するが事実なのだ。クロスが勝つのは絶望的かと思いきや…
「マケルカ!!」
そんな言葉が牧場に響き渡り、スタッフ達を驚かせた。何故なら…
「そんな馬鹿な…!クロスが差し返した!?」
『どうだ!思い知ったか糞爺!!』
クロスは走り方を変えた。その走り方は重心を低くしてストライドを伸ばす走り方だ。
『なんて奴だ…!』
『現役時代の糞爺ならともかく、今のお前相手じゃ俺は負けねえ!』
クロスはグリーンを引き離しにかかった。
『(重心を低くしてストライドを伸ばすとは驚いたぜ…だが…)ここで俺も負けるわけにはいかん!』
再びグリーンが差し返し、クロスをつき離す。
『糞爺…てめえ!』
クロスは必死に追うも追いつけずにどんどん引き離されてしまった。ラスト200mだ。
『これでゴールだ!』
グリーンがクロスを突き放しにかかり、勝利を確信する。だがその時…
「チキショー!!」
と言う声がクロスから出た。
クロスは元人間である…その為走る時は右手を出す時に左足を出す。逆に左手を出す時に右足を出す…それは出来て当たり前のことである。故に馬になってもその本能は忘れない…
『うおおおお!!』
クロスが同時に右前足と左後足で土を蹴り、スピードが増す…同じく左前足と右後足で土を蹴るとまたスピードが増す…そしてグリーンとの差は埋まって行った。
「グリーン、2:01.4!クロス、2:02.5!」
だがクロスの努力も虚しくグリーンに敗北した…とは言えクロスは殺人ペースを上回るペースでカブラヤオーと同じタイムを出したのだ。三歳ならともかく当歳でだ…いかにグリーンが化け物であるかスタッフ一同も納得し、クロスにも期待をかけた。
作者はナリタブライアン・アンチではありません。