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青き馬、喋る

〜武田厩舎〜

ボルトはいつものように諏訪を乗せて、マジソンに併せて調教していた。

『あのおっさんに限らず、競馬やってる奴らは何考えているのかサッパリわからん。』

それはボルトの本音だった。何しろあれから武田に問い詰めた所、自分はOP戦ではなくGⅡ、京王杯2歳Sに出馬するという話しがあったからだ。新馬戦をレコード勝利した為抽選で落ちるなどということはないだろうがそれでも不安だった。

『それだけお前が期待されているってことだ。』

普通はOP戦で勝ち上がり、GⅠの朝日杯FS、あるいはポープフルSを目指すだろう。しかしマジソンの言うようにボルトのような期待馬には一つでも多くの重賞を勝ってもらいたいのだ。

『そりゃそうだがリセットやアブソルートが出るレースに出ない連中は他の重賞に向かうだろうに。』


それはどの馬でも言えることだ。トロピカルターボとゴールデンウィークは天皇賞秋を出走後、リセットとの対戦を避けるためかJCに出走せずそれぞれ香港カップと香港ヴァーズに出馬する意向を示している。一方スプリンターズSを勝ったロレアルゴー、NHKマイルCと安田記念を勝ったトーマの二頭はマイルCS出走後、それぞれ香港スプリント、香港マイルへと出走すると発表していた。


『マオウは逆に米国に挑戦しに行ったじゃねえか。』

そしてボルトを差し置いて2歳馬ナンバーワンと言われているマオウも米国のGⅠレース、BCジュヴェナイルに出馬する予定だ。

『でもアメリカ競馬はダートだろ?あいつに適正なんてあるのか?』

米国の競馬は芝ではなくダートが中心だ。日本でダートと言えば地方競馬が中心であり、もはやその影すらもなくなっている。かつてはオグリキャップ、ライデンリーダー、コスモバルク等の英雄達がいたがリーマンショック等の影響で地方競馬が衰退し、競馬場自体も減っている。つまりダートの地方競馬は芝の中央競馬の二軍という枠組みになってしまっているのだ。もっとわかりやすく説明すると日本において芝>ダートという状態だ。

『わかっていねえな。日本のダートと向こうのダートは違う。向こうのダートは高速で走れる(ダート)で出来ているが日本は走る際にパワーが必要な(サンド)だ。むしろ向こうの土はこっちの砂よりも芝に近い。』

マジソンが解説し、ボルトは理解したが納得は出来なかった。確かにマジソンの言うとおり土ならばマオウには何の影響を持たないだろう。

『そりゃそうだが両親が芝馬だしな…』

しかし両親がともに芝でかなりの成績を残している。期待も大きい分、ここは安全に欧州の方へ行くべきだとボルトは思っていた。

『第一、サンデーサイレンスはケンタッキーダービーを勝っているんだ。産駒は日本のダートはダメだったがもしかしたらアメリカじゃ成功していたかもしれないぞ。』

それは一理あった。サンデーサイレンスは元々米国で走った馬である。日本芝に適性があったのは米国の土の競馬場と同じく高速で走れるから…という理由も否定できない。もちろんそれだけでなくサンデーサイレンスの気性から生まれる勝負根性、身体の柔らかさから生まれる瞬発力、そしてどの繁殖牝馬にも適応する万能さ。これらがあったからこそサンデーサイレンスは種牡馬として大成功したとも言える。もっとも輸出…もとい、日本国外で調教を受けた競走馬で活躍出来たのは国内に比べて少ないのは明らかである。

しかしそれでもダートに近い馬場のドバイワールドカップ(AW(オールウェザー))でSS系の皐月賞馬ヴィクトワールピサが勝っており適正は全くないとは言えない。

『まあ何にしても来週全てわかる。マオウがダートに適性があるかも、秋天の勝者も…』

その後、二頭は武田が止めるまで走り続けた。


〜翌週〜


東京競馬場にてミドルテンポ、マジソンティーケイと武田厩舎の期待馬が二頭いた。ミドルは500万下のくるみ賞、そしてマジソンは言わずともわかるがGⅠ、天皇賞秋だ。それぞれ時間帯が違うが同じ日曜日に開催される。

『つまらねえな…』

ボルトはそう呟いた。これまでマジソンあるいはミドルが近くにいたのだ。その二頭がいなくなったことにボルトは戸惑い、唸っていた。

『うるせーっ!!』

『ギャーギャー騒ぐんじゃねえよ!』

ボルトの馬房の近くを通りかかった二頭が声を上げ抗議する。外国産馬のカーソンユートピア産駒の馬で中長距離の重賞を勝っている。

「ジョートダコラ!オモテデロ!」

キレたボルトがついに日本語で喋るとその馬達は竦んでしまった。

『…なんでもないです。』

「ダッタラ、クチダシスルナ!」

ボルトが人間の言葉で怒鳴るとその二頭はその場から立ち去り、周りは完全に静かになった。

「クニへカエッテイギリスノマズメシデモクッテロ!」

ボルトの声だけがそこに響き、不機嫌なままボルトはTVの電源を入れた。


【先頭はミドルテンポ、ミドルテンポが先頭。】

丁度くるみ賞のレースが映され、直線に入った。

【ミドルテンポ強い強い!更に引き離して圧勝!大物現る!】

ミドルが順調に勝ち、ボルトはそれを黙って見ていた。

【父は皐月賞馬カノープス。三冠馬、ミスターシービーの後継種牡馬シービーグリーン産駒の馬の中でもスピード、瞬発力勝負が得意でミドルテンポはその部分を良く受け継いだ…と考えられますね。】

ミスターシービーは名種牡馬ナスルーラのサイアーラインであり、同じナスルーラの直系には米国三冠馬セクレタリアト、史上初の無敗の米国三冠馬シアトルスルー、そして欧州三冠(欧州三大レースともいうがここでは三冠と表記する)を制したミルリーフがいる。

そんなミスターシービーの血統だが父はトウショウボーイ、母はシービークイン。どちらも逃げ先行を得意とした馬だった。しかしシービー自身は追い込み馬であり、騎手が追い込みをすることをミスターシービーすると比喩するくらいの代名詞だった。

何故逃げ馬の両親から追い込み馬の代名詞とも言えるシービーが生まれたのだろうか?


まずその前に追い込み馬の適性について考えよう。

追い込み馬は最後の直線で一気に加速して先頭に立つ。これが一番わかりやすい追い込み馬だ。その為には他馬を圧倒する瞬発力が必要であるが逆にスタミナはあまり必要とされていない。スタミナが必要とされていないのは前半を抑え後半(特に最後)でスパートをかけるからであり、スタミナ不足のスピード馬が距離を持たせる為にこれを使う。


…そう、シービーの両親達はスピードで勝負する馬だ。両親共に追い込み馬としての資質はあったのだ。事実、父トウショウボーイの牝系の子孫であるスイープトウショウは追い込み馬であり、ミスターシービーもその素質を開花させた。


そんなシービーの産駒で大物といえば有馬記念(92)、天皇賞秋(93)、JC(93)のGⅠを3勝し後継種牡馬となったシービーグリーン。そしてシンキングアルザオの母ジャパンサハラが秋華賞(96)を勝ったが他にGⅠ勝利をする馬はいなかった。しかもその二頭はアイヴィグリーンを母に持つ兄妹であり、アイヴィグリーンの繁殖馬としての力がなければ今頃ミスターシービーの血は絶えていただろう…


三冠馬の内、今も血が絶えずに走っているのはミスターシービー(孫カノープス産駒)、シンボリルドルフ(孫ファイナルキング産駒)、ディープインパクト(自身の産駒)、オルフェーヴル(自身の産駒)のみである。

シンザンはいくらかGⅠ馬を輩出したものの孫のマイシンザンでその血が絶えた。

セントライトは晩年交配相手がアラブ系や中間種(ばんえい競馬に使われるペルシュロンなどの重種とサラブレッドなどの軽種の馬の間の種のこと)になり質が低下し、肝心の後継種牡馬も優れた産駒は出せなかった。

そしてアイグリーンスキーの最大のライバルであるナリタブライアンは後継種牡馬を出す前に死亡し、三冠馬の中で唯一後継種牡馬すらも出せなかった。


そしてそのミスターシービーが三冠馬の中で唯一成し遂げた偉業、秋の天皇賞が行われようとしていた。

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