第9話
心地よい朝を迎えた私は日々の日課とも言える朝の鍛錬に向かった。
最後の仕上げを終えさっきこちらに来たユウを見ると彼は惚けた顔をしてこちらを見ていた
どうしたのか?と聞くと
「あまりにも綺麗で見惚れていた」
なんて言うではないか
当然、貴族の間でもそのような言葉はよく使われていた…
しかしユウの言葉は違った。
思わず本音が…といったようなものだった。
「世辞や下心のない綺麗」だなんてそれこそ父や母ぐらいにしか言われた事はない
だからなのかたまらなく嬉しくて顔が熱くなってしまい声は思ったように出なくなる
時間は私の心を静めるばかりか時間が経つにつれより心をかき乱す
その様子を見かねたユウが本気でこちらの体調を気に掛け出すものだから罪悪感や嬉しいやらで心がよりかき乱される。
これ以上ユウの目の前にいるとどうにかなってしまう…
ユウの言葉に乗じてその場から逃げだした。
その後の食事はとても静かなものになってしまった。
なんというか気まずい気持ちの俯く私に
こちらを気遣う彼に
なにやらこの状況に少し戸惑っているメイド
本当に申し訳ない…
しかしなんとか落ち着きを取り戻した私が食事を終え自分の仕事部屋へいこうとすると
丁度、同じく食事を終えたユウが本がどこにあるのか聞いてきたので理性をかき集め冷静に書斎の場所を教えると書斎に向かって歩いていった。
しかし本を読もうとするとは…
貴族でも本を読む事は少ないし平民でも本なんて高い趣向品には手を出さないため本の人気は低い
まぁ私の母は例外でかなりの読書家で用がないなら一日中でも書斎ですごせる人だった。
私もその血が流れているのか母ほどではないにしても本を読む
それもあってこの家にはかなりの量の本がある
果たして彼のお望みの本が見つかるのだろうか?
そんなことを思いながら私は自分の仕事部屋へと歩を進めた。
今日はダグラス達が帰ってくるという訳で仕事部屋で待っているのだ
ダグラスはいざ戦闘となれば頼りになるが自分の上司が話していようと平気で居眠りする男だ
しかも寝る前の外見をしながら寝るというのだからわかりにくく、たちが悪い。
他にもゲイルはユウの事に対して恐らく…いや絶対に反発してくるだろう…
あぁ考えるだけで頭が痛い…
しかし彼等の協力は必須だ。
するとダグラスが部屋に入ってきた
「よう!お嬢!元気してたかい?」
「何度いったら分かるんですか?お嬢と呼ばないで下さい!」
「ほう?どうやら元気になったみたいだな…なにがそこまでお嬢を元気にしたのか…」
「…今日呼んだのはユウを育ててほしいからです。」
「そのユウとやらのおかげって訳か…」
「最初にユウと逢ったのは………」
ずっと話していたらドアをノックする音が聞こえた。
恐らくさっきサラにユウを呼んでくれと頼んでいたのでユウが来たのだろう
「ユウか?入ってくれ」
そしてユウがはいってきた瞬間……
突然、ダグラスが動き出す
するとあっという間に剣を突き付けて脅していた…
これはまたダグラスが寝ていて感じたことのない気配を感じ取ったので暗殺者と読み敵対したのだろう
ユウは必死に現状を理解し危機を脱しようとあわてている様はどこか癒やされるものがあった。
しかしダグラスの事だ。何をしでかすか分かったものではない。
すばやく剣を抜き刃をダグラスの首にあて剣を下せと命令した。
武力を行使せねばダグラスは言う事を聞かないのだ
そこから彼がユウだと言い聞かせていると…
「こんなヒョロヒョロで女々しい顔した子供がか?」
確かにユウは剣を振り回せなさそうな程、力がなさそうだがこれからそこは鍛えればいい
顔だって確かに強そうな顔はしていないが、これはこれで好きな人は多いはずだ。
そしてユウの方を見ると部屋の隅で小さくなっていた。そして小さい声で
「そりゃ姉ちゃんにも俺は男なのに可愛いとか言っわれたり女装させようとしたりよく子供に間違えられたりするけど…」
これはあれですか触れてはいけない部分というやつですか…
本人からすれば顔はコンプレックスなのでしょう…
だけど落ち込んでいるユウもいいですね…
「悪かったな坊主、だがまだまだ子供だろ?」
あぁそれ以上は…年齢というのは変わりようのないじじ…
「16だけど…」
えっ?16?ほぼ同い年じゃないですか!?
衝撃の事実に思わず事実確認をしてしまう…
「どうせ俺は童顔ですよ…」
その後、必死に慰めた…
どんどんマイナス方面に思考が行くのを止め褒めちぎってなんとか話しができるほどに立ち直ってくれた
これでやっと本題に戻れる…そう思った瞬間…
ドタドタと何者かが廊下を走る音が聞こえて自分の甘さにきずいた。
一難去ってまた一難とばかりにゲイルがドアを荒々しく開け
「私は反対です!」
あぁゲイルがまだ残っていた……
彼も説得しなければならないのだった…
しかもものの見事にコンプレックスというユウの地雷を踏みぬきユウは落ち込み
ダグラスは私に賛成してくれているみたいだがゲイルに圧倒されている
あぁどうすれば…
その時だった…
「……なにをしているんですか?ダグラスさんゲイルさん……」
この声はサラ…
サラは兵たちには厳しいのだ、いつもはそんな気配すらさせないが私が困っている時にはこうやって助けてくれる。
そんな事が多々ありダグラス達は既にサラに頭が上がらないのだ。
そのサラのおかげでゲイルも落ち着き話しが進むが今度はダグラスが課題を出したのだ。
曖昧な課題だからこそユウがどうするのかで決めようとしているのだろう。
そしてここで手を抜いたらそれこそ失格にするのだろう
ふとユウを見ると救いを求めるような目で見てくるのが見えた。
助けてあげたくなるがここでユウがどう頑張るのか気になった。
罪悪感に苛まれながらも無理だと告げると
「そんな…」
と絶望したかのような顔でつぶやく
彼は何をしてくれるのだろうか?
そう思いながら解散してもらった。
仕事を終えそろそろ日も暮れる頃、サラが部屋に訪れた
「失礼します。ユウさんがここにきていないかと思ったのですが…」
「屋敷内には居ないのですか?」
「それが村を見てくると言ったきり戻ってきていないんです。」
「何人か村に聞き込みに行かせましょう」
「わかりました」
そういうとサラは部屋をでてすぐ人手を集めに向かっていった。
心配する事じゃない彼がどこかに行くわけがない。
彼はいてくれると言ってくれた…
きっとどこかで時間を忘れ子供のように遊んでいるだけなんだ…
そうでも思いこませなければ怖くて今すぐ外に飛び出し探したくなる…
あの日もそうだった…
父と母は私が寝ている隙に出ていってしまった。
きっと父と母は最後に私に会い娘の悲しむ顔を見れば戦場に立つ決意が鈍ってしまうから…
起きた私が気づいた頃には既に子供の私には追い付く事ができない距離が開いていた。
しかし私は子供だった私はそれを認めようとしなかった。
泣いて暴れる私を数人で抑えようと数人の大人が集まる程の騒ぎになった。
私軍の縮小の際にも仲のいい兵たちが私に何も言わず出て行った。
あの時は立ち直れず一ヶ月ほど部屋で塞ぎ込んでいた。
しかしいつか彼らも取り返す。
それでなんとか立ち直れた。
ときどき思う私はこの仕事に向いてないのではと…
別れに非情になれない…
今も体の震えが止まらない…
もしかして何か危険な状態に陥っているのでは?
もしかしたら厄介な事に巻き込まれたのでは?
もしかしたら…
既に…死んでいるのでは?
嫌な思考が頭を離れない
なんとか部屋からは出ずに待っていたらドアをノックされたのに気づいた。
「ユウさんが帰ってきましたよ?」
「本当ですか!」
私は今まで感情を表にしないようにしてきたというのにあまりの嬉しさに声があがってしまう。
せめてもの救いはドア越しに喋っていたのでこの喜んでいる顔を見られていないということくらい。
「食事にするのできてくださいね」
食卓に着くとユウが来た。夢や幻じゃない…良かった…
しかし遅かったのは事実だ。
何故なのかその答えは聞く前にユウの口から出てきた。
「ティア、今日魔物と遭遇したんだ。」
今気づいた、ユウが頬を怪我している事に
他の場所は大丈夫なの?
毒の類は?
しかしゴブリンの斧に掠っただけで他に怪我はないと聞いて思わず良かったと言ってしまう程に安心してしまった。
しかしそれだけでは話は終わらなかった。
ユウは魔物が攻めてくるのではないかと思っているようだ。
話を聞いている限りではユウが行っていた通りおかしいがサラが行っていることも尤もだ。
一応、調査をした方がいいかもしれない
そういえばどうして魔物のでるかもしれない場所に踏み込んで行ったのだろうか?
どうやらサラは特訓していたのではと思っていたようだが…
もしかしてダグラスの課題の為に特訓しに行ってたんじゃ…
気になった私はどんな調子なのか聞いてみた。
しかしはっきりとした答えは出なかった。
だけど私はあなたを信じ応援しています。
この気持ちは伝わったのだろうか?
そして次の日、ユウが来てこう言った。
「ティア、あの課題についてなんだけど…」
「俺がティアたちが守るこの屋敷を期限の日に落とすってことでどうかな?」
私は耳を疑った…屋敷を落とす?
しかも日付まで指定?当然彼に協力してくれる集団などいるはずもない
つまり一人で?
「ユウ…あなたは本気でそれをいっているの?」
「まぁね、だけど俺にはどうやったら落としたことになるのかわからないんだ」
あぁだから簡単だと思ってこんな提案を…
じゃあ難しさを教えてあげな…
「だから、ティアが決めてくれ」
「…?」
「俺の勝利条件を」
分からない…
なんでこんな不利な条件を?
子供だって分かる事実だ。
自分の勝利条件が相手に決められる事は圧倒的アドバンテージを相手に取られるという事
まさか私が簡単な条件にするだろうと思っているのでは?
「当然だけど屋敷を落としたと同等のものかどうかダグラス達にも確かめてもらうよ?」
確かにこれで滅茶苦茶な勝利条件にされる確率は減った。
しかしさっきの簡単な条件を狙ったという考えに至ってはまず無理になった。
「あっ、そうだ今回は本気だから魔法を使うつもりなんだけどいい?」
「それはかまいませんが…いいのですか?この条件でも私がダグラス達と口裏を合わせ無理な条件を押しつければ…」
「うん、確かにそうだね。」
「なら何故?」
「あのさ、今回の事って俺の事を信じてくれているからダグラス達を止めなかったんでしょう?なら俺も信じないとさ罰が当たるってもんだよ。」
そう冗談めかした口調で言いながら笑うユウ
「!?」
私を信じてくれる…
ユウは分かってくれる…
そう思うと顔が熱くなる…
「どうしたの?」
「…私にはあなたが今何をしようとしているのか全く分からない。こんなのはあの神父以来です。」
「それはあまりうれしくないな…」
「だけど…」
「だけど?」
「あの神父とは違ってあなたの笑顔は…とても温かい感じがする…」
私はそう言って父と母の死去以来、一番の笑顔を浮かべた。