第89話
「ねぇ、ユウって静かな日々を送りたいんだよね?」
「あぁ……」
何が原因でティア達に見つかるか分からない。
それに、あまり騒がしいのには慣れていないし、あの頃の賑やかな日々を思い出してしまう……
だから、俺は出来るだけ静かな平穏を求めた。
それは間違いない。
「分かってる。私もユウから感情を受け取っているからね……けど、ならなんで……」
「…………」
「こんな物騒なお客様に囲まれてるの!?」
「約束通り、来たよ。」
扉をノックする音がして扉を開いただけだった。
そしたら、5人の黒い外套を纏った集団がそこに居た……
そして、今に至る。
「明らかにルームサービスではなさそうだけど……ユウどうするの?」
「……ここじゃ邪魔だ。宿の人がコイツらを素通りさせていたとは思えない。一応はお世話になっている宿だ……迷惑はかけたくない。入ってくれ。」
「物分かりがいいね。それじゃあ、お邪魔します。」
「悪いね。お邪魔させてもらうよ。」
「ユウがいいなら構わないけれど……」
見たところ武器を所持している様子ではないが……
あくまでも表向きだろう。
外套の下にいくつ凶器が仕込まれている事か……
「あの時言ったよね。また来るって……忘れた訳じゃないよね。」
「忘れた訳じゃない……だが、まさかノックしてくるとは予想外だったけどな。」
「別に僕らは襲撃に来たわけじゃない。話し合いの為に窓から入る理由はないだろう?」
「で、話ってなんだよ……」
もしこれで下らない世間話だったら俺は今から仕事に向かう。
俺とて暇では無い……
仕事をパッパと終わらせてあの領主に会いに行こうと思っていたんだから。
「その前に、顔くらい見せてくれてもいいんじゃない? メリアは見せているのに」
「別に見たければ見ればいい。隠していないだろ?」
「そうじゃないよ……その隠匿の法具をはずしてって事。一体、いくつ着けてるの? さっきから看破しようとしているのに全然できない。」
「それなら、断る。あと数も教える気はない。」
出かけようとしていたからいつもと同じ外套の装いだ。
当然、隠匿の法具も着けていた。
顔バレは絶対に避けなければならない。
「そんなにも隠したがるなんて、そんなにも顔に自信がないのかい? それとも……見つかると“ヤバい人”なのかな?」
「好きに勘ぐればいい。教える気はないって言ったぞ。もう行っていいか? 領主に呼ばれているんだ。」
「いや、それは困る。ロメリア。」
「本題に入るね。つまるところメリアたちの用は一つ。あなたのスカウト。」
「ッ!?」
スカウト……?
あの悪名高きマカ・マナフのメンバーが? 俺を?
悪い冗談だ。
笑えない。
「その話受けると思ったか?」
「あぁ、受けると思ったよ。 そしてその反応も予想どおりだ。」
顔はまさしく、予想どおりといったしたり顔だ。
何もなければ好印象を受ける顔つきの青年だというのにおかげで悪印象しか湧きあがらない。
「なら、何故俺が受けると思った?」
「君は十中八九、公にできない後ろめたい事情があるだろう? だから僕らが匿ってあげようと言うわけだ。」
「そんなにも俺が怪しく見えるか?」
「ちょっと調べたが……怪しすぎるね。同類の匂いすらしてきた。」
同類か……
人伝に彼らマカ・マナフの話を聞く事はあれど彼らの悪行をこの目で見た事はない。
正直な所、俺の目から見て彼らは悪ではない。
シエルの件も監禁から助けてくれたのは確かだ……
シエルとロメリアの戦いも行き違いが起こした出来事だ。
どちらかと言えば俺に非があると言ってもおかしくはない。
「そして、お金が欲しいんじゃないかな? 何故かは知らないが腕利きの傭兵として稼いでいる割には節制が過ぎる……焦ってお金をかき集めているようにしか見えない。僕らの仕事は依頼人の払いがいいんだ。もし、僕らの仲間になればすぐに稼げるだろうね。」
「なんなら、メリアから謝礼もあげるよ?」
「それはいらない。」
ロメリアが声を挟んできたが一刀のもと切り捨てる。
自らで稼いだ金でなければ意味がないんだから。
しかし、給料も匿ってもらえる事も魅力的である事は事実だ。
「僕らが出せるメリットはこのくらい……」
「今ならメリアが専属で仕事を教えて……」
「それはいらない。」
「まだ言い切ってないのに……」
「一つ言っておくなら、引き延ばしは無し。領主に会いに行くみたいだし、今日行かなくても領主が腰を上げそうだ。」
つまり、今ここで決めろと言うことか……
もう一度シエルと会ったときに相談して考えたい所ではある。
口を挟まないあたり、ステラは俺に任せると言うだろう。
先ほどからステラはじっと彼らを見つめ見定めようとしている。
「何故、俺をスカウトしようと思った?」
「まず、君の力だね。君の魔法はここに居る全員が見ている。次に、心だね。囚われたロメリアをマカ・マナフと知りながら危険をおかして救助し、自らを監禁した相手を救う……とても興味深い。そして、最後が一番大きい。」
そう前置きして青年は続ける。
「ロメリアの推薦だよ。マカ・マナフのメンバーの顔を見た君に対して、僕らに迫られた選択は二つ。口を塞ぐか取り込むか……その会議で珍しくロメリアが君を庇うんだ。それはもう必死にね。」
「待って!! そこまで言わなくても! いくらリーダーだからって! メリアは余計な被害を出すぐらいならって思って……」
取り乱したように叫び始めるロメリア。
だが、どこ吹く風と言った様子で続ける青年。
「そして、推薦までしたんだ。仲間入りの条件は二つ。一芸に秀でた者……そしてメンバーの推薦だ。君はどちらも充分に満たしている。是非、仲間になって欲しい。」
「断れば?」
「どこかのストーカー集団が毎晩あなたの寝首を掻きにくるだけだよ。」
とんでもないストーカー集団だな……
俺もそれは嫌だ。
しかし、領主に協力を求めればある程度の身の保証はされるだろう。
「出来るだけ早く答えを出してくれ、口下手だから喋らないようにしている三人が可哀想だ。それに朝食もまだなんだ。ロメリアもお腹の声を聞かれたくはないだろうしね。」
「メリアをなんだと思ってるの!?」
領主のいる明るく照らされた日向に立つか……
陽の光の届かぬ影に身を置くか……
二つに一つ……
いや、一つしかないか……
答えは決まっている。
選択の余地はなかった。
「そちら側につくよ……」
「そうか、ようこそアンダーグラウンドへ、マカ・マナフは君を歓迎する。」
差し出される手を握る。
横でひそかにロメリアがガッツポーズを取っていた。
一体、彼女は何を狙っているのだろうか?
それがいまいち見えてこない。
「君が僕らにどう言うイメージを持っているかは知らないが、これから慣れていってくれると嬉しい。」
「よろしくな。俺はグラズだ。お前を攫って行こうとしてた奴だ。」
「あぁ、あの……」
そう言ってフードを取るグラズ。
あの時は見えなかったが、かなり濃い顔だな……
グラズのしっかりとした眼光には強い意思を感じる。
同時に身体もかなり強い事が分かる。
まぁ、俺を抱えたあたりでそういう相手だと言う事はなんとなく分かってたが……
「いやぁ、あのときは参ったぜ。一体どうやって魔法を使ったんだ? 確かにお前には魔法を使えば魔力を吸い取られて中断させられる法具が付いてあったはずだが」
「そうだな、けどそれの許容量を超えた魔力を使って壊せば関係ないだろ?」
「許容量を超える……? おい、エクリア。そんな事出来るのか? お前結構魔力あるだろ?」
「冗談でしょ? アレをつけられたら終わり。魔法は使えない。これが普通よ。けど、超越者達の宴メンバーなら、あるいはあんな事が出来る災厄さんなら出来るかもしれない……けど私は聞いた事がない。」
信じられないと言う顔をしながらもそう言う女性。
まさに魔女のような人で男の欲望を掻きたてるかのような胸が強い自己主張をしていた。
それはともかく、法具の許容量の突破が出来る者は確かにそうそう居ないだろう。
だが、俺はもう人間の枠から飛び出している。
いわゆる例外だ。
「まぁ、特別な事情があるんだ。そうそうみんなが出来たら俺も困る。」
「是非、その事情が聞きてぇがそれはダメなんだよな?」
「ああ、すまないが秘密が多いんだ。許してくれ。」
「別に構わねぇさ、あんたの強さの秘訣が知りたかっただけさ……おっと、自己紹介をするべきだったな。俺はガレアだ。少し口は悪りぃがそこは見逃してもらえると助かる。」
最初はどこのチンピラだ?
と思ったがこの茶髪の青年は別に性質の悪い輩ではなさそうだ。
これから共に仕事をする間柄としては別に問題児はいなさそうで良かった。
ロメリアは問題児の匂いがするが……
「早速、みんなでご飯でも食べに行くかい?」
「俺はこの格好がデフォルトだが、あんたらもその格好で行くのか?」
全員がこの外套姿だと訳ありの集団にしか見えない。
憲兵達を呼ばれてもおかしくないだろう。
だが、流石にそれはないようで……
「俺たちもこの格好では行かないさ」
そう言って全員が黒い外套を脱ぎ始める。
その下には街で歩いていてもなんら違和感がない私服だった。
問題があるとすれば、顔を隠していないと言うところだが、彼らはもとより顔が割れていないので素顔で生活できるのだろう。
「フードくらいは外すが俺はこの格好で行くぞ?」
「ずっとそれで生活しているんだろ? ならいいんじゃないか?」
「店はどこにするの? メリアはケンタウロスの角笛がいいんだけど」
なんだその店は……
今まで店の名前なんて気にした事が無かったが、そんな名前が普通なのだろうか?
どう考えても飲食店とは思えないんだが……
「私はそこで構わないよ。」
ステラ!?
ステラが普通に返すあたり、ステラは知っていたのか……?
異常だと思うのは俺だけか?
いや、気にするだけ無駄か……
大体、店の名前で料理の味は変わらない。
「そう言えば、君は……ステラさんだったね?」
「そうよ。彼の仕事のパートナーをしてる。」
「君はどうするの? マカ・マナフに入るの?」
「俺とステラは一心同体だ。もしステラが無理なら俺はマカ・マナフに入れない。入らないじゃなくてな。」
「私は構わないよ。心も一緒なんだから」
まぁ、本当に一心同体だったとは思いもしないだろう。
だが、ステラのこの言葉は嬉しい。
我が儘な自分を許してほしい。
「じゃあ、ステラ。君の特例を認めよう。」
「ねぇ、メリアちょっと踏み込んだ事を聞きたいのだけど……二人は恋人なの?」
「そうだよ。」
「違うから! ステラも見え透いた嘘を吐かない!」
悲鳴めいた声をあげてステラの謎の嘘を否定する。
メリアと言いステラと言い……
問題児の匂いがする……
けど、これならロメリアと友達友達になれるんじゃないか?
そう思うとこの環境もあながち悪いものでもないのかもしれない。
そんな期待を抱き、今日俺は宵闇に足を踏み入れた。




