第85話
「ふう……ここまでくればひとまず安心かな?」
「多分、つけられてはいないと思うよ。」
現在地は森の中……
しかも、かなり奥の方まで来ている。
ここまで追ってくることはないだろう。
それに、ここなら魔法全開で迎撃出来る。
「一応、まだ警戒はしておこうか……失楽園」
呼び出すのは小動物たちと飛鳥だ。
やはり、彼らほど見張りに適した子たちはいない。
特に、飛鳥には頭が上がらない。
「今回もよろしく飛鳥。」
(構いません。ユウの手となり足となり、目となる事は私たちの本望ですから。)
「…………」
……飛鳥とステラの間には気まずい雰囲気が漂う。
一応、これは前にも起こったのだ。
この前に、魔物討伐の依頼を受けた時に斥候として飛鳥を呼んだのだ。
その時も同じことになった。
「飛鳥、俺は別に気にしてないよ。」
(ユウ、あなたはそう言うという事は分かっていました。しかし、許せないのです。同じ仲間として、彼女の行為が……理由が分かるだけに尚更……)
「……私は……」
(だから、もしまた同じ事があれば……胸に手を当て、思い出して下さい。仲間がいる事を……)
そういい残すと飛鳥は飛び立っていく……
確かに飛鳥の言う通りだ。
もし、何か思いつめるような事があれば相談してほしい。
ステラの幸せは俺にとっての幸せでもあるのだから……
「ユウ……分かった。頼りにさせてもらうね?」
「あぁ、そうしてくれ。」
多分、飛鳥は本気でステラを嫌ってはいないだろう。
となれば、後は俺が割り込む必要はないだろう。
「そう言えば、今日は野宿になるかもしれないけど戻る?」
ステラは俺の中に戻る事が出来る。
もし、ステラが野宿を嫌だと言うなら戻ってくれても構わない。
一応、ステラも悪魔と言えど女の子だ。
男の俺と寝るのは嫌だろう。
と思っての発言だったのだが……
「えっ、野宿!?」
「いや、別に嫌なら……」
「ちょっと待って!」
「……お、おう。」
何だろうか……
何故、こんなにもテンションが高いのだろうか?
しかも、何かを小さい声でぶつぶつと呟いている。
「ここは誰も居ない森の中……野宿という事は一緒に寝れる……いつもみたいにヒソヒソ隠れて部屋に侵入する必要はない……そして、あわよくばこ今日の夜に忘れられない思い出を……」
小さな声でよく聞こえなかった。
しかし、一つ言えるのは悪寒が走ったという事。
「うん、やろう野宿! レッツ野宿!」
「なんでだろう。悪寒が走ったんだけど……」
「大丈夫だよ。私を信じて? ね?」
何故だろう。
さっきまでは、ステラの事を気遣っていたのにも関わらず。
ステラがOKをだした今、やめた方がいいんじゃないかという考えが過ぎったのだ。
けど、信じてと言われればな……
「それとも、私の事は信じられない?」
信じられない訳がない。
そうだ、信じないと……
ステラは大切な仲間なのだから……
「そうだな。じゃあ、野宿の準備をしようか。」
「ふふふ……」
何か薄暗い笑みを見た気がするが気にしない。
この世には便利な法具があって、簡単野宿セットなるものがある。
持ち運びもポケットなどに軽く潜ませれる程に簡単だ。
「まずは、場所探しと食糧調達だな。」
「場所は私とユウと小動物たちで探すとして、食糧調達する子たちは別で呼びださないとね。」
うーん……
どんな奴らが適任だろうか?
猟犬とかクマを呼ぶ?
けど、魔物もいるしな……
「失楽園」
「ハウンドに、オーガ?」
「君たちには食糧調達を任せた!」
「え? 大丈夫なの?」
「「があぁぁぁ!」」
「大丈夫だってさ」
彼らエリートに任せれば、今日は間違いなく御馳走にありつけるだろう。
心配な点があるとすれば、彼らには野生の勘もなければ、狩りの経験すらないということくらいだ。
一体、どこがエリートなんだという疑問には一切答えるつもりはない。
「任せたぞ~」
「大丈夫かな……」
「じゃあ、俺らは適当な野宿の場所を見繕うとしようか。」
あまり森を歩くのは嫌だったのだが……
最近は慣れてきてしまっている。
ガルムに追いかけまわされたり、公都から脱出するときに夜を徹して走ったり、依頼で魔物を討伐するときに何度も入ったりと……
ここまで来ると流石に慣れる。
「そろそろ、あの街も捨てた方がいいかな……」
「突然どうしたの?」
歩いていると唐突に頭に浮かんだ考え……
と言うのも、俺の手配の話がギルドにも来ていたという事を思い出したからだ。
それだけではない。
マカ・マナフの女の子を助けてしまった事にもある。
もし、このままこの街に居れば、暗殺や敵対される可能性はかなり高い。
「あぁ、そう言う事……」
俺の考えを読み取ったのか、納得したような声を出すステラ。
手配の話も、俺の外見や声などでバレる可能性はかなり低いだろう。
しかし、俺の魔法は隠してくれない。
飛鳥やグリフォン達を呼び出す失楽園はかなり希少な魔法らしい……
故に、あまり人前で使うと姉ちゃんやティアに嗅ぎつけられてもおかしくない。
憑依も、癖のある武器ばかりでしか使えない。
故に、これも姉ちゃんやティアに嗅ぎつけられる可能性がある。
「もう一つ、使ってもバレない。姉ちゃんやティアの前で使った事のないやつもある事にはあるけど……」
「それって、あの神魔創造の時に派生して生まれたやつの事だよね。」
そう、あの時に失楽園が派生して生まれたものがあるのだが……
あれはかなり強力な代わりに……反動が大きいのだ。
ステラもあまり使わないで欲しいと言っているし、使うと受けれる仕事の数が減ってしまう。
だから使えない。
「けど、この街から去ったところでこの国全体で指名手配されてると思うし、行く宛がないよ?」
「そうなんだよな……」
もうこの国で指名手配されていない場所なんてないだろう。
いっそ、盗賊の真似ごとでもしてしまえば街に住む必要もないかと思ったが……
自分には無理だろうし、結局指名手配されてしまう。
「国境なんだし、あっちにいくのは?」
「ロマリア帝国? それはないかな……あそこは普人主義国で戦争起こそうとしてるでしょ?」
「ユウも人間でしょ?」
「一応、半分悪魔だよ。」
「そうだった……けど、半分悪魔だったところで差別は受けないと思うよ。まずバレないだろうし」
確かに、迫害はされないだろう。
しかし、利用はされるだろう。
今までこの世界で暮らして普通の人間だけの真っ当な国がフラディアスに戦争をふっかけれるはずがない。
何か裏がある。
「バレないとしてもあっちにいけば、戦争に巻き込まれるのは確実だろうね。」
「じゃあ、反対側にあるメディ王国は?」
「あそこはどうも宗教色が濃いらしい……」
「もう隣国は絶望的だね……」
嗚呼、八方ふさがりだ。
かと言って今のままあの街に滞在しても、マカ・マナフのようなプロの暗殺者達に狙われれば流石に辛い……
「あっ……ここ、良さそうじゃない?」
「あぁ、そうだな。じゃあ、さっそくあれを取りだして……」
ステラの言葉で周囲を見ると、確かに少し開けていて野宿には適していそうだ。
取り敢えず、今は野宿の準備をする事だけを考えようと気持ちを切り替え、野宿の為の法具を取りだそうとする。
しかし、その瞬間の事だった。
「ん? なに!? きゃッ!?」
俺とステラの間に黒い何かが突然現れる。
それは生き物ではない……大鎌だ。
大鎌の先の部分の柄がステラの腹部を殴りつけるように振るわれる。
完全な奇襲、俺もステラも反応出来ずステラの華奢な身体は宙を舞い、軽々と吹き飛ばされる。
しかし、理解できない。
柄ではなく、刃のある側の方で斬りつけられれば確実にステラは死んでいた。
まぁ、今のステラの姿は本体ではないので死なないが……
今はそれよりも、このまま振るわれるであろう凶刃から身を守るため、神葬霊剣を呼び出さなければ……
そう思った直後……
刃が来るのではなく、大鎌の石突きの部分が俺の脚をすくうように払われる。
「なッ!?」
俺が予測していた行動と全く違う行動……
防ぐ手立てなど考えていなかった俺は無様に地面に転がる。
こんな状況になれば、俺の死はほぼ確定……
次の瞬間訪れるであろう、肉を裂く刃の感覚は来なかった。
代わりに感じたのは後頭部を強打された痛み……
「がッ!?」
意識が段々と落ちていく……
幾度となく、意識がブラックアウトした身としては否応なく理解できる。
俺は捕まったのだと……
最後に感じたのは持ちあげられる感覚……
しかし、その腕の感覚は筋骨隆々なもののではなく、まるで女の子のようだった。
俺の意識は徐々に浮上してくる。
しかし、目を開ける前に一度起こった事を整理しよう。
目を開けた途端にまた拷問は流石に辛い……
まず、問題はステラだが……
恐らく、大丈夫ではないかと思える。
あのタイミングで殺さなかったと言う事は死んではいないだろうし、いつでもステラは俺の中に逃げる事が出来る。
問題はこの一連の犯人だ。
もし、あれまでの話を全て聞かれていたとすればかなりヤバい。
何せ、悪魔やユウなど聞かれてはいけない単語がわんさか出ていた。
しかも、この犯人はかなりの手練れだ……
俺とステラでは直前まで一切関知する事が出来なかったどころか、小動物や飛鳥の目を掻い潜ってきている。
あの奇襲の手際も素人の動きじゃない……
かなり手慣れている。
そして何よりもヤバいのが……
――――心当たりがあると言う事だ――――
最後に感じた腕の感触……
ステラを吹き飛ばし、俺に足払いをしてきたあの大鎌……
下手をすれば、飛鳥や小動物……俺たちの知覚にも引っかからない奇襲……
こんな条件が揃っている人物に俺は心当たりがある。
そして、それがもし当たっているとすればかなり危ない……
確かめる方法は簡単だ。
目を開けてやればいい。
丁度、一人分の気配を感じる……
恐らく、この一連の犯人だろう。
俺はこの心当たりが勘違いでありますようにと目を恐る恐る開く……
しかし、その期待は粉々に打ち砕かれる。
目を開いた先に居たのは……
「……おはよう。裏切り者……それよりもユウと言うべき?」
椅子に座っている白銀に輝く狼のような耳をした獣人……
背にある大鎌が彼女が犯人だった事を証明する紛れもない証拠になっている。
そう、彼女の名前は……
「シエル……」




