第84話
「さぁ、そろそろ聞いても良いかな?」
「あぁ、構わない。あの盗賊団の根城調査だな?」
「そうだ。あの盗賊団はキナ臭い……早めに潰さねばならない。この国の者かと言うのも怪しい。」
この国の者じゃない?
どうやら、あの盗賊団は領主に目をつけられていたらしい。
だが、もう居ない。
俺が壊滅させたからな……
「確かに、ある男に任せたよ。」
「ほほう……その言い方だと単独かな?」
「待って、この依頼はかなり重要なもの。もし、あの規模の盗賊団を下手な調査の者が刺激してしまえばどうなるか分からない。この街を襲う可能性もあるのですよ?」
「確かに、だから私は調査を頼んだ。そして、調査の報告をもとに入念な作戦を立てるつもりだ。」
確かに、この領主ならば……
石橋を叩いて渡るかの如き慎重さで事に当たるだろう。
全てギルドに任せるような無責任はしないだろう。
俺が壊滅させちゃったんだけどな……
「じゃあ、もしもだ。……あんたらよりも早くあの盗賊団を確実に潰す事が出来るなら……大丈夫か?」
「ほぅ……?」
「なッ!? 舐めているのか? そんな事が出来ると……」
確かにそうだろう。
それが意味する事は領主より優れていると言う事だ。
ここら一体で一番の戦力を保持しているはずの相手に言う事じゃないだろう。
しかし、出来るどころか……もう壊滅している。
「出来るなら構わない。しかし、失敗したならそれなりの違約金を貰うが……」
「出来ると言うのはおかしいな……出来ただ。」
「「なッ!?」」
「ふ、ははは!!」
あぁ……言っちゃった……
しかも、確実に安全と分かってから……
今のやり方ははっきり言って褒められた行為ではない。
領主は笑い出し、護衛の2人は驚きに目を見開く。
「騙したな……!」
「俺は一度も嘘は吐いていない。」
「減らず口を……! 今すぐ氷漬けにしてやろうか!」
「まぁ、待って……短慮はいけないよ。」
こればかりは彼女が完全に正しい。
しかし、領主の男はそれを宥める……
もし、数秒でも遅ければ彼女は魔法を使っていたかもしれない。
「まず、だ。それは本当かい?」
「今朝、報告を受けた。調査するつもりだったが、壊滅させてしまったと……」
「今朝? 昨日依頼が受けられたと聞いたが?」
「あぁ、間違っていない。昨日の夕方、アイツが依頼を受けた。」
「夕方……にわかには信じられない話だ。」
「その者が嘘の報告をした可能性だってあります。」
あはは……
一切、嘘は含まれていないんだよな……
と言うか、あの秘書の人……かなり過激な人だな……
女は怖いって言う姉ちゃんの言葉が今理解できた気がする。
「依頼を受けた奴は優秀で信頼出来る奴だ。それに調査も近々行う予定だ。」
「あまり、悪く言うんじゃないよ。もし、そんな人物が居るのであれば……あまり敵対したくは無い。」
「出過ぎた口を……すいませんでした。」
反省などの色は全く見えない謝罪……
まぁ、別にその程度で怒る程、短気ではない。
大体、俺としてもあんた達と敵対したくは無いのだから……
「それに、その人物に興味が湧いてきた。」
「…………」
「どうしたディエゴ? なにやら、ばつの悪そうな顔だが……」
「じきに意味が分かるさ……」
すっごいばつの悪そうな顔だ……
まぁ、それもそうだろう。
彼は領主に嘘を吐く気はない。
だが、知らない事を吐く事は出来ない……
つまりだ。
「まぁいい。その者の名前は?」
「……分からない。」
「は? 一体どういう事だディエゴ?」
「まさか、惚けるつもりですか?」
知ってて当然の事を知らない……
分からないなんて言えば、隠し事をしているとしか思えないだろう。
そうなれば、あの顔も納得だろう。
「待て待て、別に隠したい訳じゃない。一応の呼び名はつけたんだ。」
「呼び名をつけた?」
「あぁ、アイツの事は災厄と呼ぶことにした。」
「何故、本当の名前を知らない?」
「言わないんだよ……登録もアイツだけは名前無しの特例を認めた。」
怪訝な顔をする領主。
護衛の2人も疑いの眼差しを向けている。
そして、何故かあの外套まで少し反応を見せた。
「力を見せつけられたからな……」
「まぁいい。その者の登録書を見せてくれ……取り敢えずはそこからだ。」
「…………」
「なんだその顔は?」
「いや、何でもない……」
そう言うとディエゴは奥へ向かい。
そして、戻ってくるとディエゴの手には紙があった。
恐らくアレが俺の登録書だろう。
だが……
「おいおい、ディエゴ……これはなんだ? 何かの冗談か?」
「どうされたので……なッ!? お前、ふざけているのか!」
ほぼ白紙……
もはや、登録したとは言えないような中身のはずだ。
そんなものを出されたら、相手がふざけているとしか思えないのも事実だろう。
しかし、ディエゴは本気だ。
「本気だよ……災厄はありとあらゆる情報の提示を拒んだ。」
「やはり、信じがたい……だが、ディエゴがこんな嘘を吐くとも思えない……」
「俺も災厄には手を焼いている。しかし、優秀だ。物分かりも良く、厄介な依頼をほとんどこなしてくれたおかげで、仕事が捗っている。」
「厄介な依頼とは?」
「割に合わない仕事に、難易度が高い仕事だ……それを一人でこなしてきた。」
何だろうかこの雰囲気は……
一気に場が凍りつく……
流石に、あの領主様も言葉を失っている。
「はぁ……かなり優秀みたいだな……だが、そんな人物はこの辺りにはいないはずだ。二カ月間隔で私たちはそう言う傭兵たちの調査も行っている。しかし、そんな優秀な傭兵は知らない。」
「来たのはつい最近だよ。」
優秀なんて褒めてもらえるのは嬉しいが、こちらとしては身元を突き止められないか……
それが気がかりで素直に喜べない。
だが、何故ステラは満足げに頷いているのだろう?
というか、そろそろ帰ってもらわないと、誰か俺を知っている人が来て俺が災厄だとバレるかもしれない。
あまり、領主みたいな国と直接の関わりを持った存在とは接したくないんだ。
そんな事を考えた時……扉を開く音が響く……
「おーい! 依頼終わらして来たぞ! って災厄じゃねぇか! もう昨日の依頼は終わったのか?」
クソッ……
このタイミングで常連の四人組が依頼を終わらして帰ってくるなんて……
そうそうに立ちさろう。
すぐに席を立ち、代金をカウンターに置いてステラと逃げるように出口へ向かうが……
「ちょっと待て! そこの者!」
秘書の森人種と騎士の男が立ちあがり、こちらを制止する。
俺も、無視する訳にはいかない。
だが、明らかに友好的な声じゃない。
剣呑さが滲む声だ。
「ディエゴ……人が悪いじゃないか?」
「…………」
領主様はディエゴに笑みを向けてそう言う。
まるで、隠されていた宝物を見つけた子どものような笑顔だ。
それとは対照的にディエゴの顔は今日一番のばつの悪い顔だ。
「ん? どうしたんだ?」
「いいからお前らはどいてろ。」
「お、おう」
ディエゴがそう言うと男たちは静かに少し離れた席につく。
嗚呼、失敗した……
さっさと逃げていればよかったな……
そっちならこうならなかった可能性も高かったのに……
「そこの御二人さん……少し話を聞きたいのだが、いいかい?」
「……何でしょうか?」
「まず、二人の名前を聞きたい。名前はコミュニケーションを取る為に必要だからね。」
意外にも、あの外套が反応した……
こうなった以上……外套も何かアクションを起こすかもしれない。
まぁ、起こさない可能性もあるが……
「私の名前はステラだよ。」
「そうか……良い名前だ。となると君が災厄かな?」
「そうなるんでしょうね。」
「そうか、君の実力……物凄く興味がある。是非……」
その言葉は途中で遮られる。
何を言おうとしていたのかは知らないが、俺の目は……
外套が何かを手に持っていたのを捉えた。
「危ないです! 下がってください!」
「外のが動いた……」
ステラの小さな声ですぐに警戒する。
あちらも護衛の2人が反応したようだ。
次の瞬間、幾つかの窓が高い音を立てて割れ、何かが飛んでくる。
「煙幕ッ!?」
「ステラ、逃げるぞ! 失楽園!」
その言葉とともにそれなりに大きな狼が二匹現れる。
俺も鍛錬を積み重ねていると、複数を一度に呼び出す事が出来るようになった。
問題は、この魔法を見られる事だが……
煙幕もあるし、今使わなければどうしろと言うんだ。
幸い、一瞬で煙で室内が覆われる。
「おいおい、何だよ!」
「くそッ! 俺の店で好き勝手するんじゃねぇ!」
「我等の後ろに……」
「頼んだよ。僕は戦えないからね。」
中は混乱の真っただ中だ。
こちらの様子を気に掛ける者も居ないだろう。
しかし、あの外套の姿も声も聞こえない。
だが、今はそれを気にしている場合じゃない。
確か、こっちに勝手口があったはずだ。
「ステラ! ついてきて!」
「分かった!」
勝手口をぶち破り、外へと脱出に成功。
すぐにここから離れないと……
そう思い、森の方向へと走らせる。
振り返り、酒場を見ると、こちらを眺める外套が居た気がした。
「それにしてもあの外套……まさかあんなド派手な事するとはな……流石にあそこまですると普通はギルドが怖いものだが……」
「あの外套の仕業だったの?」
「あぁ、アイツの差し金と見て間違いないだろう。何かを使って外の奴らに合図を出したんだろう。何かを握っているのを見た。」
「けど、何の目的があったんだろうね? あのタイミングも意味が分からないし……」
確かにそれはある。
アイツの目的が分からなかった。
俺の話に反応していた割に、俺への被害はほとんどない。
それどころか、まるであの場から俺を逃がすのが目的なのではと思うくらいにあっさり離脱出来た。
「あの場で何か不都合でもあるのか?」
いまいち、アイツの目的が掴めない。
一番危惧しなければならないのは、これがアイツの掌の内かもしれない可能性だ。
可能性はかなり高い。
そして、何が起こるか分からない。
下手をすれば、これが俺の命を狙う狡猾な罠の可能性もある……
何せ、嫌な予感は未だ消えていないのだから……




