表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/92

第83話

「昨日は眠れた?」

「あぁ、よく眠れたよ。」


嘘だった。

毎晩、同じ悪夢にうなされていた。

悪夢というのも、次々と目の前で人が死んで行くのだ。

その中にはダグラス、サラさん、劇団の人たち……

そして、シエルや姉ちゃん、ティアにステラまで居た。

だが、全てが死んで行くのだ……

目の前だと言うのに、俺は手を伸ばすどころか声を出す事すら許されないのだ……

皆が死んだ辺りで、俺の目は覚めた。


「そう言えば、その内あの子たち(・・・・・)の所にもいかないといけないな。」

「毎週行ってるね。まぁ、構わないんだけど……」


毎週どころか、毎日行きたいのだけれども俺には仕事がある。

あの子たちの所に行く回数を増やしたとしても仕事の回数を減らせば本末転倒というものだ。

稼ぐ理由はあの子たちの為でもあるのだから……


「今日の報告はどうするつもりなの?」

「どうするも何も、“正直に壊滅させてしまいました。”って言うしかないでしょ?」

「本当にそれでもいいの?」

「嘘を吐く訳にもいかないし……」


嘘を吐いてバレた場合が怖い。

だが、別に調査が壊滅に変わっただけだ……

怒られはしないだろう。


「うーん、そうじゃないんだけど……ま、いっか……」

「ん? いいの? 何の事か分からないけど……」


そろそろ、近付いてきたな……

いつも通りの人通りの多さと、堂々と建っている酒場。

朝故に、酒場の中には依頼を受けにきた者か飲んだくれくらいしかいないだろう。


「じゃあ、入るか……」


扉を開く……

中に居たのは暇そうな店主と外套を纏った見慣れない客だけだ。

店の端の方のカウンター席でちまちまと何かを飲んでいる。

俺と同じ様にフードを深く被っている為に顔も髪型も見えない……

精々、少し小柄な体格という事だけしか分からない。


「おう、災厄(ディザスター)とステラちゃんか、えらく早いじゃないかどうした依頼がうまくいってないのか?」


まず、反応したのは店主だった。

そして、彼が災厄(ディザスター)と言ったその時……

端に居た外套の人物が少し反応したのを俺の目は見逃さなかった。


「あぁ、少し間違っているが……大まかにはそうだな。」

「お前が手こずるなんてな……まぁ、どうしたんだ?」

「壊滅させた……」


店主の顔が凍りつく……

嗚呼、これは機嫌を損なってしまったかもしれない。

だが、失敗した以上は罰を甘んじて受けるべきだろう。


「すまない……」

「か、壊滅だと……お前、昨日の夕方に依頼を受けたばかりだぞ……? どうやって……」


やっと出てきた店主の声は震えている。

だが、あの程度の奴らなら合成獣(キメラ)やオーガレベルの集中攻撃をすれば簡単に倒せる。

ついでに、グリフォンにも頑張ってもらえれたから容易く潰せた。


「……いつも通りです。」

「言えないか……」


この魔法(アーツ)はよくあるものじゃない。

それなりに希少なものだと言うのは聞いた。

もし、この魔法(アーツ)の情報が広がれば見つかってしまう可能性がある。

故に、チームは組まないし戦闘を公開する事もない。


「本当に規格外だな……一応、調査を出させるが……お前が嘘を吐いているとは思えない。」

「信じてもらえて何よりだよ。」

「けど、なんで潰したんだ? 依頼内容は調査だったし、俺は出来るだけ調査にしてくれと頼んだぞ?」


その言葉にまたあの外套の客が反応する。

あんな外套を纏った相手を俺は見た事がない。

しかも、こちらの会話に時々反応している。

ちなみにだが、ステラは気にせずデザートとドリンクを頼んで、一人楽しんでいた。

この様子を見ると、ステラはあの客がこちらをちょくちょく様子を窺ってくるのに気付いていないようだ。

俺も確信を持てない。

もしかすると、俺の考え過ぎなのかもしれない。

今のところ、直接の害はない。

俺の正体に気づいている可能性もあるが、今は無視しよう。


「殺意が湧いたからだ。」

「なんだよそれ……」


流石にマカ・マナフのメンバーを助けたとバレれば困る。

ここは控えさせてもらおう。

まぁ、ここで彼女の情報を売れば多額の金が俺の手元に来るだろうが……


「特に理由はないよ。」

「なんか無いのか? 誰かが捕まっていたとか、残虐な行いをしていたとか……」

「大して調査をしていないから知らない。」

「…………」


チラチラとこちらを気にする外套……

どうやら、あの外套はこの話に興味があるみたいだ。

全く、何が目的なんだ?

まぁいい、いくらでも聞かせてやる。

この話は聞かれたところで構わない。

嘘ばかりなのだから……


「はぁ……領主様になんて報告すればいいんだ……信じてもらうには骨が折れそうだ。」


申し訳ないが……

ここは頑張ってもらうしかない。

俺が領主に弁明する訳にはいかないからな……


「報酬についてだが……取り敢えず、領主に一度相談しなければならない。少し待ってもらえるか?」

「分かっている。これに関してはこちらが全面的に悪いからな。」

「はぁ……全く、特に理由なく大規模な盗賊団を壊滅させるくせに……やけに物分かりがいいよな。」

「客観的にものを考える事が出来るだけだ。物分かりがいいとは言えないだろう。」

「似たようなもんだ。」


では、そろそろお暇させてもらうとしよう。

この外套は何か嫌な予感がする。

というか、何か今日は嫌な予感がするんだが……

杞憂であれば良いのだが……


「じゃあ、帰らせてもらう。」


その時だった。

扉を開く音が耳に入る。

そこには三人の場違いな人物がいた。

一人は騎士の鎧を身につけていた。

恐らく、コイツは騎士だろう。

騎士以外がこの鎧をつけるのは禁じられていたはずだ。

市販もされていなかったはずだしな……


二人目はいつも事務をしていそうな女性だ。

手には手帳とペンを持っている。

恐らく、この女性は秘書というやつだろう。


三人目……

これは一目で分かった。

これは領主に違いない。

服装がしっかりとしている。

それこそ、眼鏡から靴に至るまでだ……

若々しいが、瞳の奥の知性の輝きが彼を一角の者だと言う何よりの証左だろう。

見に纏うものに掛かった金額を目測で測れば貴族である事は簡単に判断できる……

この辺りにはもとより貴族はほとんどいない。

それこそ領主くらいだろう。


(ヤバい……バレたらどうしよう……)

(大丈夫だと思うよ。今のユウの顔を見れたとしても、あの人達の脳内では手配書と照合する事が出来ないから……)


小声でステラと言葉を交わす。

出来る事なら、この場から一刻も早く立ち去りたいところだが……

もし、この場を今立ち去れば逆に目立つかもしれない。

だが、もう一つ驚いたのが外套の反応だ。

一瞬、領主の登場にあの外套も驚いていた。


「ディエゴ、居るか?」

「居るぞ。領主様がこんなしがない酒場に何の用だ?」

「ウェスター家当主、ベリル・ウェスター様に向かって失礼よ。」


やはり、領主か……

というか、よくあんな気軽に話し掛けれるな店主さんよ……

案の定、隣の女性に咎められる。

しかしそれに、騎士の男が声を出す。


「許してやって欲しい。彼は不器用なんだ。」

「分かっているさ。ディエゴ、用と言うのもだが今日来たのは、例の依頼の事だ。」

「それなら、使いを出せばいいだろう。そんな、大仰な護衛(・・・・・)を連れてこられれば戦いに来たと思われてもおかしくないだろう。 ここにあんたの敵はいない。」


脱獄してきた指名手配犯なら居ますが……

もっと言うなら、怪しい外套も居る。

斯く言う俺も外套だがな……

しかし、確かに大仰(・・)だ。


まず、森人種(エルフ)の秘書だ。

ただでさえ、森人種は大量の魔力と強力な魔法(アーツ)を持っていると言うのに……

あの様子だと、いくつかの武器を忍ばせている。

かなりの猛者と見受ける。


そして、騎士の方は人ではない。

だが、種族が分からない。

恐らく、表面的に人間と見分ける事が難しい吸血種(ヴァンパイア)竜人種(ドラゴニアン)だな……

どちらも、強力な種族だ。

しかも、あの足運び……

もはや、戦闘時の足運びが日常化しているとしか思えない。

やはり、こちらもかなりの猛者だろう。


「猛者が集まることで有名なこの酒場に来るのだから、それなりの備えをしなければ、逆に失礼だろう。君たちを私は侮っていない証拠だと思ってくれ。それに、今のディエゴの顔は……もし私が敵対しようと切り抜けられるという顔だ。今回は私の負けかな?」

「なッ!?」

「ふむ……」

「買い被り過ぎだ。」


ディエゴ、これを切り抜けられるのか……?

秘書の森人種(エルフ)は驚き、騎士の男は店内を見まわし何かを考えている。

俺はなんとか逃げれるだろうが……戦いたくはないな……

負けるつもりはないが、俺の()()()()()()が潰される可能性がある。

それは困る。


「まぁ、どちらにせよ。本当に敵対するつもりはないよ。で、本題なんだが……例の依頼を受けた人物がいるみたいじゃないか?」

「…………」


あの依頼……恐らく俺がやった依頼の事だろう。

そっとこちらを見るディエゴ……

今、この場で俺を紹介しても構わないのかと言う意味だろう。

俺は静かに、手で駄目だという意思を伝える。

当然、後ろの領主様一向には見えないように……


「少し待ってくれないか?」

「ん? どうした?」

「注文がまだ出せていないんだ。申し訳ないがこっちも商売だ。」

「流石に失礼……」

「別に構わない。領主が商売の邪魔をしたとあっては商人たちがここを去るかもしれない。」


森人種(エルフ)がディエゴを咎めようとするが、領主がそれを止めさせる。

今のは流石に、失礼だと思うが……

しかし、注文とは?

俺は注文なんてしてないし、隣のステラが頼んだものは既に出ている。

当然、あの外套ではないだろう。

領主様方はステラ側の二つ隣のカウンター席に座る。

何やら……

「店に来た以上は何かを頼むのは筋だろう。」「しかし……」

などの小声が聞こえてくる。

どうやら、領主としてはかなり変わった人物のようだ。

まぁ、人物というよりも耳からして、秘書と同じ森人種(エルフ)だと思われるが……


「ほら注文の品だ。」

「……ありがとう。」


頼んでいない注文の品……

その飲み物のついでに畳まれた紙を渡される。

その紙をめくると……

「聞かれたら、嘘は言えない。」

とだけ書かれていた。


「少し遅くなってすまない。」

「ああ、構わないよ。仕方ない。」


相手は領主だ。

聞かれてしまえば嘘を言う訳にはいかない。

仕方ないのだ。

故に我慢するしかない。

普通なら、俺の事なんて気にしないだろうが……


(あれ、かなりのキレ者だね……)

(こっち警戒してるよね……)


騎士の男がこちらを見ているのだ。

そして、外套も警戒しているのだろう。

多分、あの領主の指示だな……

ああいうタイプは下手に剣や銃を持たせるよりもペンを持たせる方が厄介なんだよ……


(仄かに魔力の反応まである。何か魔法陣を仕組まれてるね。それにあの森人種(エルフ)臨戦態勢だよ。しかも、外に何人か潜ませてる……)

(ははは……どうやら、俺たちは既に水面下の戦いに巻き込まれているらしい。)


まさに、冷戦だ……

しかも、いつ戦いが始まってもおかしくないホットスポットと来た。

挙句の果てに勢力は三つもある……

表面上で、一番大きな戦力を持っているのはこの領主だろう。

そして、第二勢力こと俺とステラ……

一番謎なのは、例の外套だ。

敵か味方かさえも分からない。

しかし、味方である可能性は限りなく薄いだろう。

そして、全員持つ戦力を把握出来ていないこの状況。


(ステラ……気を抜かないように……)

(分かった……)


出来るだけ戦いたくは無いが……

その時はやむを得ずだ……

一触即発……こんな雰囲気は何度体験しても心臓に悪い……

ただ、依頼を報告しに来ただけなのに割に合わないと思いながら先ほど紙とともに渡された飲み物に口をつける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ