第82話
賊の根城に着いて、内部を鼠などで調べていると見つけた女の子を助けた。
結果として、根城は壊滅したが
依頼は調査だ。
依頼失敗としかいいようがない……
しかも、助けた相手は……
「……マカ・マナフ? 何の事?」
マカ・マナフ……
そう呼ばれている集団がいる。
彼らは、相手を問わない。
例え、どの国の者が依頼しようともどの国も者が対象でも引き受ける。
いわゆる何でも屋……
彼らに殺された貴族は数知れずだ。
しかし、依頼内容が気に入らなかった場合、殺されると言う特徴まである。
それによって、彼らを捉える事はおろか、接触すら出来なかった。
「あんたの事を助けようとしていたのか、そこら辺に居た奴らの話を盗み聞いた。」
その瞬間、彼女は動き出す……
と言っても大きく動いた訳じゃない。
彼女が少し腕を動かすと、彼女の服の袖からナイフのような物が滑り降りてくる。
そして、それを一直線にこちらの喉元に当たる寸前の距離まで伸ばしてくる。
見事な手際だとしかいいようがない。
確実に、慣れた手合いの動きだ。
「マカ・マナフだとバレた以上、そのまま帰す訳にはいかない。ここで死んでもらうわ。」
「嘘はいけないんじゃない? 殺すなら話すら無視して刺せば良かった、それにマカ・マナフである事を誤魔化そうとしなくても良かった。」
彼女は嘘をついている。
他ならぬ、自分自身に……
理由をつけなければ殺せないのだ。
つまり、心の中では殺したくないと思っているという事だ。
「それに……手が震えてる。」
「……ッ!?」
微かにだが、彼女のナイフの先が震えているのが分かる。
それを指摘された今、震えは大きくなり誰が見ても震えているのが分かるほどに震えだす。
しかし、彼女は虚勢を張るのをやめない。
「……ふん、見間違いじゃない?」
「分かった。ならそれでも構わない。じゃあ、なんですぐに殺さなかった?」
「……聞きたい事があったからよ。」
少し間をあけてそう言う彼女……
虚勢である事は確かだ。
しかし、彼女が何と答えるのかが気になった。
「で、何が聞きたいの?」
「あなたが私を助けた理由よ。私をマカ・マナフと知ったにも関わらず、何故助けたのかを知りたい。」
確かに……
それを不思議に思うのは道理かもしれない。
先ほども似たような事を言っていた……
「どんな腹積もりがあって助けたの? 金銭? 身体?」
「うーん、どっちでもないんだけどな……金が欲しければこの依頼を順調にこなせば良かったし、君が魅力的であるのは確かなんだけど、お礼に身体を要求する程ではないんだよね。」
「なら……何故……」
彼女のマカ・マナフは恨みを買う事こそあれど、好意を寄せられるなんてそう無いだろう。
ましてや、無条件で助けられるなんてあり得ないことだろう。
しかし、俺は本当に何も要求するつもりはない。
「変な意味じゃないけど、運命を感じたから、かな? もちろん、恋とかそういうのじゃなくて」
「意味が分からない……」
それもそうだろう。
敢えて、意味が分からないように言っているのだから……
だが、嘘は言っていない。
理解できる日が来るかどうかは分からないが……
俺はナイフを握る震える手にそっと手は掛け、刃を下げさせる。
彼女に抵抗する気配は微塵もない……
「じゃあ、バイバイ。そろそろ帰らせてもらうよ。」
「待って! 今回は見逃すけど、もしこの事を他言するようなら……」
「言わないよ。それとも、君の求める居場所は牢屋なのか?」
「……えっ?」
「失楽園……それじゃあ、壮健で!」
少しサービスし過ぎたかもしれないな……
けど、震える彼女をさらに不安にさせるなんて酷な話だ。
このくらいのサービスは問題ないだろう。
俺は茫然とする彼女を放って、呼び出した狼に跨りその場を去る。
「一体……誰なの? 何故それを?」
ユウが去った後、その声だけが空しく残った。
そして、彼女の胸の中に新たな感情が芽生える。
これが、ユウとマカ・マナフの初の邂逅……
「よくも、あんな危険な事出来たね? あんまり危険な事はしてほしくないんだけど?」
「ゴメン、ステラ。けど、あれが一番安全だったんだって……」
「ユウじゃなくて、あの女が……ね? ユウは自分の身の安全も考えてよ……もしかしたら捕まるんじゃなくてその場で殺されていたかもしれないじゃない。」
確かに、そうかもしれないが、この方法が一番彼女を安全に助けれる方法だった。
俺の場所がバレない立ちまわりが、この魔法を使う上で一番大事というのもある。
救出対象の一番近くまで行けて奴らの死角に潜り込めるなんて思い付く中で一番完璧な作戦だった。
「だ~か~ら~自分のリスク計算もしてよ! ユウの気持ちは分かるけど、自分を犠牲にすれば何でも解決できるって言うその考え……私は嫌いだし、否定するから。」
どうやら、機嫌を損ねてしまったらしい……
だが、これから先もステラには悪いが……
俺は躊躇い無くこの方法を取るだろう。
「分かってる。簡単にそれをことができない事くらいは……だから、覚悟してよ? 変えるまで言い続けるから……」
はぁ……
本当に、ステラには頭が上がらない。
本来ならもっと怒られたり、呆れられてもおかしくない。
しかしそれで尚、ステラは俺の事を考えてくれる。
「ゴメン、ステラ……」
「まぁいいよ。それより、宿まで帰ってきてるけど報告にはいかなくていいの?」
「どうせ、失敗だしね。明日の朝にでも何か依頼を受けるついでに報告しよう。」
この時間帯だと、酔っ払いがうるさいからな……
しかも、絡まれると面倒だ。
今、行っても良い事なんてない。
「にしてもびっくりだったよね。まさか、仮面舞踏会であった相手と再会するなんて……」
「だよな……」
実は、あの助けた彼女は仮面舞踏会で出会った相手だった。
確かに彼女はマレリアを勧めていたが、このマレリアを訪れたのは偶然だ。
彼女は、こっちが隠匿の法具をいくつもつけていたからか、全然気づく様子は無かったが……
俺は、鼠に建物を捜索させていた時にあの時の人だと気付いた。
助けた理由はそれに尽きる。
「一度話しただけで情が湧くなんて……本当にお人好しだよね。」
「まぁ、袖触れ合うのも多少の縁というし……」
古来より、“袖触れ合うのも多少の縁”や“一期一会”など……
人とのつながりは大切にしようと教えられてきている。
孟子だって、“天の時は地の利に如かず地の利は人の和に如かず”との言葉を残している。
「そう言う人が詐欺に引っ掛かるんだよね~」
「俺はそんな風に騙された事は……」
「あなたのお姉ちゃん。」
「ありました。すいません。」
お金をとるなんて事こそされた事はないが……
いいように騙されて、着替えを覗かされた?
なんて事は何度かあった。
ちなみに、動機は一切明らかになっていない。
「それにしても彼女がまさかマカ・マナフの一員とは……」
「まぁ、そう言う事もあるんじゃない?」
「それだけ? もっと複雑な気持ちにならないの?」
「そう言われても……」
俺にはマカ・マナフについて、善悪を決めつける事は出来ない。
だが、今の時点でマカ・マナフは俺の正義には反していない。
故に、大してマカ・マナフに思う所はない。
そして、彼女がそこに属しているからと言って何か思う事もない。
まぁ、客観的に見れば殺人をしている以上は悪なのだろうが……
「どうしても、彼女を悪と呼べない……」
「普通の人と違う価値観を持っている事はおかしい事じゃない。けど、ユウは少し優しすぎる……」
「多分、俺にとっての贖罪のつもりなんだと思う。自分でもハッキリとは分からないんだけどね。」
醜いな……
自分を保つための偽善……
吐き気がする……殺したいほど憎いのに殺せない矛盾。
少し刃を心臓に突き立てるだけで殺せると言うのに……
殺したい相手は自分だと言うのに……
「ねぇ、ユウ……私を恨んでも構わない。けど、お願い……私の大好きなユウを嫌いにならないで……好きになってあげて……」
「そんな日がこればいいね……」
俺は嘘を吐く……
だが、ステラは気づいているだろう。
俺がその未来を望んでいないと言う事を……
夜は更けていく……
草木も眠る刻に私は未だ眠りにはついていなかった。
私の寝床はユウの隣の部屋だ。
しかし、今の私のすぐ隣にはユウの悲痛な寝顔がそこにはあった。
「あの日から、ずっとこう……」
「う、うぅ…………」
あの日より、ユウは毎晩うなされていた。
気丈に振る舞う彼の顔は偽りの仮面だ。
それも、これも、私の所為だろう。
あの日から、ユウは自分の存在そのものがコンプレックスになってしまった。
それも相まって、今のユウにとって自分の命程軽い物はない。
もし、私がティア・シンフィールドとヒイラギ・ミチを殺すと言わなければ、ユウは嬉々として煉獄に身を投げ出す事だろう。
ユウはそれほどまでに追い込まれていると言うのに、彼は自ら以外で誰かを心の底から恨む事はないのだ。
異常だ。
異常だが、それすらも……
私は堪らなく愛おしい!
「ぐッ……」
ユウは心臓のある胸の部分を鷲掴みにして、苦しげな声を出す。
しかし、ユウが深い夢の世界から帰ってくる事はない。
「大丈夫……私がいるから……」
ベットに腰かけ、ユウの頬を優しく撫でる。
少しでも彼の睡眠が健やかになればと思い撫でる。
決して、彼が苦しむ姿が好きな訳ではない。
それどころか、その姿はとても見ていて心苦しい。
だが、願いは空しくユウの額に浮かぶ汗は増えるばかり……
「嗚呼、愛しいユウ……例え、幾星霜の時を掛けようともユウを幸せにして見せるから……待っていてね。」
月に狂わされた悪魔の乙女は狂気染みた願いを星に誓う。
余談にはなるが、ユウの防犯意識は高い。
ステラが部屋を出た後、ユウはしっかりと戸締りをした上で幾つかの罠も仕掛けていた。
それこそ、その罠の存在を知っていたとしても入るのが困難な程に…………
一体、彼女はどうやってユウの部屋に居るのだろうか?
それを知る者は居ない。




