第81話
お久しぶりです。
新しいPC購入に手間取っていましたw
薄暗い部屋……
窓などもなく、運ばれていた感覚からしてもここは地下室だろう。
内装はボロボロで虫や鼠がいるのも見える……
当然、気温は低く丁重に人をもてなす部屋でない事は確か。
こんな部屋で出来る事と言えば、後悔と鼠の観察くらいだ。
しかも、鼠の目に知性の光を感じるようになってしまった私はもうお仕舞いだろう。
「はぁ、失敗しちゃったわね。」
私は後悔する。
こうなったのも自分に落ち度がある。
私は仕事に失敗した……
その結果、手足を縛られ、魔法を封じる法具までつけられている。
奴らの様な野蛮な奴らに捕まった私に待っているのは……
女としての尊厳を徹底的に貶められ、辱められ、最後には殺されるか売り払われる……
そんなところだろう。
もし、そうなると言うならば……
私は、純潔を守ったまま自害する。
けれど、今すぐ自害しないあたり私には未練があるのだろう。
しかし、奴らにそんな目に遭わされるなど文字通り死んでも御免だ。
「情けないわね。この世界に踏み込んでから覚悟していたつもりなのに……」
覚悟はしていた。
しかし、私は遂に自分の居場所を手に入れる事が出来なかった事が……
この腐った世界に負けたようで悔しい……
「おい、そろそろあの女の処遇を決めようぜ。」
階段を下りてくる男たちの声と足音が聞こえる。
どうやら、私の処遇が決まるらしい……
所々聞こえる数人の下卑た笑い声を聞く限り、どう言う処遇になるかは決まったも同然だ。
「やっぱり、かなりの上物だな。」
「へっへへ……これから楽しみだぜ。」
「バカ! 最初にやるのは俺だぞ!」
やはり、男と言うのは度し難い程に愚かだ。
私の顔を見るなりすぐにこうだ。
もしも、手が動いたなら縊り殺してやるというのに……
私の手は、拘束具の所為で奴らの首元にすら届かない。
「あなた達みたいなどこにでもいるような賊に捕まってしまうなんて運の尽きね……」
「あぁ? 俺らをそこらの賊と一緒にするなよ?」
「領主だって俺らには怖くて手を出せないんだぞ?」
まるで、子どもがやる芝居に出てきそうな程に小物臭漂う台詞だ。
今の仕事の性質上、最後の悪足掻きとして聞けるだけ……
絞れるだけ情報を引き出してやる。
「嘘ね。ここは国境の領主よ? 力量差は明らか……あなた達みたいな雑魚には構ってられないと言って無視してるだけじゃないの?」
「はッ! 俺らの仲間の数は100もいるんだぞ? それに、後ろにはメディの貴族さまが支援してくれている。」
メディ王国が関わっている?
ここはロマリアとの国境だと言うのに……
まさか……コイツらで戦争を煽ろうと……
コイツらだけでは不十分だが、幾重にも策が重ねられている可能性はゼロじゃない……
「おい、それは口外するなとの命令だろう!」
「分かってる。だが、コイツはもうすぐ俺らの慰み者……そして、最後に待っているのは死だ。」
くっ……ここまでね……
大人しく人生の幕を自分で下ろす事にしましょう。
散々な人生だった。
思い残す事だらけだが、これから先の事態になるくらいなら……
そのまま人生を諦めようとした時……
―――ドオォォォォン!!―――
外から響く爆音……
誰もが予想外の出来事に驚く……
「おい! 今のはなんだ!?」
「しらねぇよ! 様子身に行くぞ!」
目の前に居た男たちはすぐさま消えていく……
階段を駆け上がって行く音が響いた。
ほぼ確実に敵襲だろう。
「最後の最後でつきが廻ってきたのかしら?」
そんな期待を抱くのも無理はないだろう。
私とて、うら若き乙女なのだ。
馬に跨り、颯爽と駆け付ける王子様に期待だってする。
しかし、私は知っている。
その王子様でさえ、何か思惑があって……
打算に打算を重ねた上での行動なのだ。
全く、嫌になる……
この世界に純粋な善意など存在しない。
そして希望も……
「ったく! 何だよコイツ!」
「驚かせやがって!! 敵襲かと思ったじゃねぇか!!」
階段から響く足音……
来たのは王子様ではなく、先ほどの男たちと外套を纏った男。
手足を拘束され、俯いている状態で無理やり引き摺られてきていた。
どうやら、無駄な期待を寄せてしまったようだ……
男はこうして無様にも捕まっている。
私の死はもう逃れる事は出来ない決定した未来のようだ。
「おら、お前もここにいろ!」
そう言って、つき飛ばされる外套を纏った男。
どこかで見た事のあるような気がする男なのだが……
どうにも、思い当たらない。
まぁ、いい……
どうせ、死ぬのだから瑣末な事だ。
「俺らも上に行くとしよう。どうやら女が一緒にいて今も逃げているらしい。」
「ぐへへ、それはいいじゃないか。女が増えるのは大歓迎だ!」
上へと歩いていく男たち……
ここに居るのは外套の男と私だけ……
もう一度、男の顔を見る。
「残念だったわね。なんでこんな所にいたの?」
気まぐれに話しかける。
最後の話相手としては残念そうな男だが……
まぁ、贅沢は言うまい。
気晴らしくらいにはなるだろう。
「この賊の根城の調査にきた。」
「あら、傭兵なの?」
「あぁ、そうだ。つい最近なったばかりだけど。」
新人の傭兵か……
しかし、何故この男からは恐怖もなにも感じない?
新人でこうなったら泣き叫んでもおかしくないと言うのに……
事実、私はそれを何度も目の当たりにしている。
「どちらにせよ可哀想ね。依頼は失敗よ。」
「あぁ、そうだろうな。だが、実はついさっき俺の仕事内容は変わった。」
「なにを言っているの? 囮でも任された?」
「違うよ。」
この男はどうかしているのだろうか?
もう、こうなったらお仕舞い……
死ぬしかないと言うのに……
「いいや、死ぬしかないわ。あなたも諦めなさい。」
「一つ教えてあげるよ。魔法って言うのは発動を止める事が出来る魔法陣があっても、基本的に、発動している状態の魔法は消せないんだ。」
「……何が言いたいのよ。」
「簡単だよ。俺の今の目標は……」
カタカタと人が階段を下りてくる足音が聞こえてくる。
しかし、声は聞こえない。
普通なら、下卑た笑い声や話し声が聞こえてくると言うのに……
そして、降りてきた男は無言でこちらへと歩いてくる。
「君の救出だ。」
近づいてきた男は鍵を持っていて私の拘束具を次々に解いていく……
救出に来た?
この外套の男が?
無様に捕まったこの男が?
「俺のも解いてくれよ?」
私の拘束具を外した男はその外套の男の声に頷いて肯定の意を返す。
決して喋る事のない男は明らかにあの賊の男どもと同じような服装をしていると言うのに……
一体、どう言うことだ?
協力者?いや、そんなバカな……
「ありがとうドッペル。」
喋らない男はその感謝の言葉に頷きを返すと、光となって消えていく……
人じゃない……?
もしかして、魔法?
「じゃあ、出るとしよう。立てる?」
「え、えぇ……大丈夫よ。」
助かる……の?
いや、だがこの上には無数に敵がいる……
私だけなら逃げる事が出来るが……
「じゃあ、こんな所からはさっさと出よう。」
「けど、どうするの? 上には奴らが……」
「いないよ。いや、今からいなくなる……といった方がいいかな?」
「ぎゃあぁぁぁぁ!!!」
「があぁぁぁぁ!!」
その言葉の後に、上の階から悲鳴が聞こえ始める。
ここはそれなりに大きな建物だと言うのに、建物が崩れる音まで聞こえる。
一体、なにが起こっていると言うの……
「行くとしよう。出口が塞がってないといいけど……」
「…………」
取り敢えず、今はついていくとしよう。
彼の実力、正体……
共に不明だ。
私一人でも逃げるのは出来るが、今はついていきたい気持ちだった。
別に礼がしたい訳ではない。
しかし、今の彼は“私の求めた理想”の王子様だった。
だが、私とてこの世に純粋な善意など存在しないと言うことくらいは理解しているつもりだ。
けれども、今この瞬間は彼こそ私の理想だった。
故に、せめて“理想の最期”を私は見届けたい。
「あぁ、失敗した……やっぱり崩れてた……」
「!? どうするの!? これじゃあ出られないじゃない!」
私の魔法は破壊力が無いため、この瓦礫をどうにかするのは不可能だ。
これでは、このまま生き埋めだ。
しかし、隣のこの男の声に焦りはない。
まるで、この程度はどうとでもなると言わんばかりに……
「大丈夫、少し下がって……」
私を庇う様にして後ろへ下がる男……
一体、何をするというのだろうか?
だが、その男の声はどこか安堵感を感じさせる。
言われるがまま、私は後ろへ下がる。
「オーケーだ! やってくれ!」
充分に私が後退したのを確認した男は瓦礫に向かって声を張り上げる。
もしかして、彼は団体でここを訪れたのだろうか?
だが、よくよく考えれば“この賊”を調査するのに一人の方がおかしいのだ。
それは少し面倒だな……
そんな事を考えていると、突如道を塞いでいた瓦礫が吹き飛ぶ……
「きゃッ!?」
そんな小さな悲鳴をあげた私だが、実際に私の身に降りかかった瓦礫はほぼゼロだ。
何故なら、完全に瓦礫を男が庇ってくれていたからだ。
嗚呼、まさに理想……
ここまで完全に私の理想を体現するとは……
その理想が崩れ去るのが酷く残念だ。
「大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。」
こちらを心配する声に答えながら状況の把握に努める。
まだ、砂埃が舞っているが月夜の淡い光が差し込んでいる事は理解できた。
それはすなわち、脱出が成功したと言う証拠だ。
砂埃が徐々に晴れてきてもっと詳細な周囲の状況を理解するために、観察を続ける。
そして、私は見つけてしまう。
「ッ!? グリフォン!?」
差し込む月光に妙な影を発見して目を凝らすとそこには鷲の翼と上半身を持ちながら、百獣の王の下半身を持っている獣……
グリフォンが堂々と立ちはだかっていた。
位置も状況も最悪……
私の手持ちの武装も小さな物が一つ……
私の魔法もやりあえるか微妙な所だ。
だが、私は異変に気づく……
グリフォンは子どもでも知っているような凶暴な魔物だ。
それにも関わらず、すぐ傍に居るこの男は一切反応を見せようとしない……
そして、このグリフォンは今も尚、私たちに敵対していない……
「あっ……ゴメン。言って無かった。コイツは俺の仲間だから安心してオッケーだ。」
「仲間ってあなた……」
誰がそんな言葉信じられるだろうか?
普通、無理だ。
だが、どうという事は無いと言う風に振る舞う男……
バカなのか……それとも大物なのか……
この男の場合は……後者の可能性が高そうだが……
「ゴメン、ちょっと無理があったか……すまない。帰ってもらえるか?」
「ガルゥゥ!」
帰ってもらえるか?って……
光になって消えたけど、まさか……
これも魔法……
「あなた、本当に傭兵になったばかり? 信じられないんだけど……」
「まぁ、本当は違う仕事してたんだけどね……まぁ、取り敢えず上がろう。」
促されるまま階段を上がる。
本来なら、屋内に出るはずだった。
しかし、そこに広がっていたのは……
「まるで廃墟じゃない……」
私はこの建物の外観を知っていた。
不格好ではあるものの建物としての役割は充分に果たされており、それなりの大きさを誇るはずのこの建物が……
今では、廃墟同然、いや建物跡といった方が正しいだろうか?
まるで、戦略級の魔法か何かが使われたのかと思ったくらいだ。
壁はほとんど崩れ、何階層かあるはずが、二階の面影どころか天井すら無くなり、お世辞にも建物とは言えなくなっていた。
「取り敢えず、他の子たちにも帰ってもらったから安心してくれ。」
「えっ……他にも居たの?」
「まぁ、多いに越した事は無いから。」
グリフォン以外にも使役していたの……?
圧倒的強さを感じる。
しかし、それも無知であれば意味を成さない。
そして、その手の魔法の弱点は使役者自身が狙われる事……
「で、あなたは何を求めるの? お金? 身体?」
「……は? 一体何を言ってるの?」
「惚けないで、あなたは一体何を代償にしろというの?」
理想の最期だ……
彼はこの囚われていた私を何故?
どんな打算があって危険を冒した?
それを見届けて私は……
「いらないよ。」
「別に隠さないでもいいわよ。正義のヒーローに憧れる性質でもないでしょ?」
隠さないでもいい……
もし、彼が何かを求めるならば私は彼を殺す。
もとより、この男を生かしておけば、私には百害あって一利なしなのだ。
彼が理想でないとはっきりすれば、後腐れなく殺せる。
「だから、いらないって……」
はぁ……
一体何を隠すのだ。
今すぐ、その胸の内を話せば後から言われるより、私の失望も薄くなるだろう。
そんな事を考え、今すぐにでも殺してやろうか?と言う思考が過ぎったその時だった。
「大体、正義のヒーローなら……指名手配されてるマカ・マナフのメンバーを助けはしないだろ?」
その言葉は、私の心臓を跳ねあがらせる。
この出会いが、私にとって大きな転換点である事を今はまだ知らない。




