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第80話

「もう、一ヶ月か……」

「そうだね。」


俺は今、マレリアと言う街に居た。

一か月前、あの脱獄をした日……

俺は、とにかく公都から離れようとして行き先も考えずに逃げた。

すると、ここに行きついた訳だ。

ここに来るまでにもいくつかの街に立ち寄ったが、少し買い物だけをして通り過ぎた。

しかし、ここより先は他国……


「ここで潜伏するしかないんだよな……」


なんとか、持っていた金をほとんど使っていくつか隠匿(ハイディング)の法具を購入したが……

おかげで生活費はギリギリだ。

今は、ステラもいるから野宿や断食などの我慢(・・)も出来ない。


「絶対、そんなのダメだよ!」

「分かってるって……俺がすればステラにも悪いしね……」


あの日以来、ステラは実体化した。

その方がステラの為だし、俺も嬉しい。

まぁ、少し生活費が掛かるが……

少し前に始めた仕事の収入はかなり良いものだ。

というのもその仕事とは“傭兵”だ。


「あれから毎日仕事受けてるよね?」

「そうしないと生活費以外にお金が使えないからね。」

「別に構わないけど……程々にしてよ? 体調崩すかもしれないんだから……」


実は収入の7割くらいは生活費以外に消えているのだ。

ステラには申し訳ないが、これだけは……

許してもらうしかない……


「それは割り切るけど……もう少し自分の為に使った方がいいと思うよ。ただでさえ、身体を張った仕事なんだし……」


確かにそれは正しい……

しかし、俺の場合はこの体一つあれば戦えるのだ。

それに隠匿(ハイディング)の法具や、今、身につけている顔も隠してしまうこの外套はかなり高い……

武器に関しては緊急用のナイフがいくつか……

だが、これで充分すぎるほどなのだ。

問題があるとすれば、見た目が凄い怪しいという事だ。


「それはわかるけど……って着いたね。」

「じゃあ、入りますか……」


訪れたのは酒場……

次の仕事を取りに来たのだ。

当然、中には……


「おう、災厄(ディザスター)にお嬢ちゃんじゃないか。今日も仕事か?」

「あぁ? 災厄(ディザスター)じゃねぇか。」


柄の悪い方々が勢ぞろいだ。

正直、場違いな感じがするのだが……

今の様子では、俺もかなり怪しい人物な為、馴染んでいる。


災厄(ディザスター)ってなんだよ。」

「昨日の夜決まったお前の二つ名だ。」


答えたのはまだ若い酒場の店主だ。

にしても、災厄って……

なんでそんな物騒な二つ名が……

大体、俺なんてここに来てそんなに経っていないのに……

それにあまり、目立ちたくはないのだが……


「やめてくれ、二つ名なんていらない。」

「はぁ……じゃあ、名無しか? 名前が無いとこっちが困るんだよ。大体、お前が付けてる隠匿(ハイディング)の法具の所為で、お前の事を覚えにくいんだよ。」


隠匿(ハイディング)の法具のおかげで俺自身を覚えるのは難しい。

しかし、隠匿(ハイディング)の法具をつけた奴だと言う覚え方は出来る。

もしくは、“隠匿(ハイディング)の法具をつけた俺”に新たな名前をつける事で存在を固定させるしかない。


「けど、その二つ名はどうなんだ……」

「お前の場合、人じゃなくて現象にした方が覚えやすいだろう。そして、お前の討伐以来の痕がヤバかったのと、突然現れたことからついた。どうだ?」

「はぁ、仕方ないか……」


仕方ないと言うのも、俺に原因があるからだ。

俺はこの酒場を使用するにあたって傭兵登録をしなければ無かったのだが……


「そうだ、我慢しろ。名前、住所、出身地、年齢、戦闘能力……とにかくありとあらゆる情報の公開をしてないんだからな。顔だって見れないし、隠匿(ハイディング)の法具まで付けてる……訳ありだってのは分かったがここまで隠す奴はいねぇよ。」

「その分は働いている。」

「分かってるよ。あんたのおかげでずっと溜まってた依頼が解決できた。それにあんたの強さを無くすのは惜しい、出来る限りこっちも協力はするつもりだ。」


まぁ、こちらも重要な収入源だ。

恥ずかしいくらいなら、我慢するしかない。


「ステラちゃんには悪いが、君の彼氏はうちの稼ぎ頭だからね。」

「あまり、いじめないでよ? 彼は繊細なんだから。」

「誰が彼氏だッ!」

「痛いッ!?」


ステラの頭にチョップを喰らわせる。

大体、悪魔に婚姻の概念はあるのだろうか?

まぁいいか……


「あんたも、そろそろステラを俺の彼女扱いするのはやめてくれ。」

「なんだよ。一日中一緒で、こんな所にまで来てる甲斐甲斐しい彼女になんの不満があるんだ!」

「「「そうだ! そうだ!」」」

「あんたらまで一緒になって……ステラは仕事仲間だよ。」


周囲の飲んだくれ集団まで絡んでくる。

どれだけ、ステラを俺の彼女にしたいんだよ……

何と言うか、世話を焼きたがると言うか、アットホームというか……


「なんて言ってるぞ彼女さん。」

「大丈夫だよ。今はまだ準備の時だから。」

「いいねぇ! 俺らはあんたの事、応援するぞ!」


はぁ……

何言ってんだか……

けど、ステラが馴染めてるようで良かった。

その辺りはこの人らにも感謝するしかない。


「で、何を受けるんだ? あんたが軒並み難しいのは受けてくれたおかげで皆感謝してる。少しは簡単なのを受けたらどうだ?」

「そうか……じゃあ一番、お勧めは何?」


特に今までの依頼を難しいとは感じていなかった為、あまり気は使わなくていいのだが……

まぁ、気持ちだけは受け取って受け取る意味でも聞いておこうか……


「そうだな……これなんてどうだ?」

「賊の調査?」


手渡された紙に書かれていたのは盗賊の根城の調査。

しかも、大体どこに根城があるのかは記されている。

そして、おおよその人数や練度、正確なアジトの位置に大きさを調べろと言う感じだ。


「その依頼は戦闘する必要がない割に報酬がうまい。まぁ、この依頼はここらの領主からで近々討伐隊を編成する為だと思うから優秀なやつを紹介してくれと言われたんだ。」

「ははは! そりゃ適任だな! 災厄(ディザスター)なら壊滅を任せたって明日には報告に来るぞ?」


責任重大だな……

だけど、内容を見る限り簡単だな……


「壊滅させる……のはいいのか?」

「壊滅させれるのか? 相手は知性も理性もあるんだぞ? 魔法(アーツ)や武器も使う。」

「出来るはずだよ。」

「ははは! 言っただろ? コイツはやれるって、コイツの依頼痕の調査をしたけど賊の根城の一つや二つ潰す程度訳ねぇよ。」


まぁ、物量で不意打ちが出来るのだから訳ない。

流石に、超越者達の宴(エクシード)レベルの強者が出てきたら話は別だが……

ある程度の強さなら対処可能だ。


「出来れば、調査にしてくれ。まぁ、理由があれば壊滅させても構わない。」

「了解だ。じゃあ、そろそろ行かせてもらう。」

「あ、少し待ってくれ。」

「ん? なんだ?」


なんだろうか?

出来るなら、さっさと行って正確な場所だけでも把握しておきたい。

それに、調査なら少し掛かるかもしれない。

その準備も済ませておきたい。


「前から来てたんだが、段々凄い事になってる“ヤマ”があるんだよ。」

「“ヤマ”? それがどうしたんだ?」

「実は、懸賞金なんだが……」


……ん?

やな予感がするぞ?


「カンザキ・ユウとやらを捕まえるとでるらしいだが……」

「「…………」」


それって俺じゃないか……

隣のステラもヤバいって顔になってきている。

こんな所にまで懸賞金の話が流れてきてるなんて相当躍起になってるな……

まぁ、この通り潜伏はバッチリだ。

バレる事は無いだろう。


「どうやら殺しはダメみたいでな……脱獄囚らしいから、普通は生死を問わずなんだが……どうやら国のお偉方はそのカンザキ・ユウとやらが相当欲しいらしい。」

「へぇ……」

「おい、それ……俺も聞いたぞ。けど、聖十字教会から出てたぞ? こっちも生きたままで……」


聖十字教会まで出してるのか……

二つの勢力が出してるとなると結構ヤバいな……

大体、この国で権力を振るうのは三つだ。

ギルド、国、教会だ。

その内二つが、俺こと、神崎悠の敵になった訳だ。

大事な事だから重ねて言おう、かなりヤバい……

俺とステラの顔は今、真っ青だろうな……

俺は顔隠して良かった……


「そうなんだよ……実は、カンザキ・ユウを捕縛して欲しいって依頼が今、三つ出てる。」

「えっ……」

「一つ目が国からだ。二つ目は教会。三つ目はギルドだ。そして四つ目がティア・シンフィールドって言う貴族による国の依頼とは別で出されている。」


これは……

大体読めたぞ……

国が追いかける理由は分からないが……

教会の理由は国の干渉なく俺を捕縛したい。

といった辺りだろう。

ティアが出した理由は復讐目的か何かだろう。

ギルドが出した理由は……


「ギルドが出してるって言うのも……どうやら、ギルドの筆頭傭兵の依頼らしい。」


やっぱり、姉ちゃんの差し金か……

あの仮面舞踏会(マスカレイド)でのギルド関係者の様子からしてかなりの融通をして貰えるだろう。


「今、カンザキ・ユウを捕縛できれば人生勝ち組になれる事間違いなし、懸賞金も絶賛高騰中だ。」

「俺はパスさせてもらう。ステラ行こう。」

「う、うん。そうだね。」

「そうか、残念だ。ギルドからも出来るだけ協力してくれと言われてるだが、仕方ない。」


あぁ、そうしてくれ。

当分は捕まる気はない。

だが、そろそろ何か対策を立てた方がいいかもしれない。

いつでも傭兵以外の収入でやっていけるように……

そのまま、扉を開けて酒場を後にする。


「凄いね……けど、多分大丈夫だと思うよ?」

「そう? 流石にヤバいと思ったんだけど……」

「うん、今のユウを見つけれるのならそれは神業とか奇跡の領域だよ? それこそ、ユウの今までの行動を見てない限りね。」

「それならいいんだけど……嫌な予感がするんだよな。」


一抹の不安を抱えながらも、調査の用意をする為の買い物に向かった。


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