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第79話

「何故なの、悠……私は一体どこで間違えたの?」


分からない……

私は一体、何故悠に拒絶されたのか……

あの日以来、一度として悠は私を強く拒絶する事は無かった。

そして、拒絶された私は惨めにも屋敷に帰ってきていた。

もはや、ここに居る理由は無いと言うのに、悠が帰ってくるのじゃないかと叶うはずの無い淡い希望を抱きながら……


「……悠の為ならお姉ちゃん、何だってするんだよ……?」


それなのに、願いは届かない……

なんだってするというのに、私はどこで、いつ、何を間違えた?

そうだ……アイツ等が悪いのだ……

アイツ等が悠を捕まえ、精神的に追い込んだのだ……

そうに違いない……


「助けないと……そしたら、いつも通りの悠に戻ってくれる……」


思い立ったらすぐに行動と、ベットから身体を起こした時……

扉を叩く音が響いた後、部屋に入ってきたのはシエルだった。

しかし、今日は舞台なんてないはず……


「……悠に追い払われたと聞いた。」

「きっと、少し牢で精神的に追い詰められていただけよ。だから、今から助けに行って……」

「……それは、無理……」


無理……?

そんなはずはない。

私は悠の為なら何だってするのだから……

例え、相手が国であろうと……


「……昨晩、悠は脱獄した。現在は指名手配中、生きて連れ帰った者には懸賞金まで掛けている。」

「えっ……」


確かに、あれから一日過ぎている……

だけど……悠が脱獄なんて……

基本、脱獄は時間を掛けた入念な計画か協力者の存在が必要だ。

時間も協力者も悠にはないはず……

どうやって……

それに、ここに帰っていないと言う事は……


「もう、悠には……会え、ないの?」


熱い何かが頬を伝う感覚……

もう、止まらない……

一度涙を堰止めていたダムは、跡形もなく決壊した。

シエルは、初めて見る痛々しい程に弱々しい未知の姿にどうする事も出来ず立ち竦むしかなかった。








「私は……」


あれほどに手ひどくあしらわれたと言うのにも関わらず、私の心は……

ユウを求めてやまない。

ユウの拒絶を一切受け付ける気がしないのだ。


「どうかしているのでしょうか……」


ユウとの思い出を頭に浮かべると身体が熱くなる。

ユウに拒絶された時の事を思い出すと、心がどうしようもなく絞め付けられてしまう。

まるで病気だ。

けれど、今まで見た医学書や、古今東西の病を記した本にもこんな病気は記されていなった。


「すいません。」


突然、響くノックと声……

声からして、ゲイルの所の兵士だろう。

一体、何のようだろうか?


「入って構いません。」

「失礼します。カンザキ・ユウの件ですが……」

「ユウがどうかしたのですか!?」


先ほどまで、ずっと頭を支配していた相手の名前が出て思わず、身体を乗り出し取り乱す。

兵士は少し驚いた様子だったが……

彼らには、ユウに関して様々な事を調べてもらっているのだ……

しかし、ほとんど探しつくしたと言っていた。

それでも見つからなかったのに、一体どんな報告が……


「実は、昨晩……カンザキ・ユウが脱獄しました。」

「脱獄……? 一体、どうやって……」

「恐らく、協力者は居ないと思われます。脱獄の一部始終を兵士が見ていたのですが……力づくで魔法陣と牢を破壊した……と証言しています。実際、牢はボロボロで魔法陣も木端微塵だったと……」


一体……それは本当にユウ?

あの牢の魔法陣がある限り、ユウは悪いがそれほど強くはない。

もし、あの魔法陣を破ったとしてもユウの魔法(アーツ)はそこまで強力な自己強化系ではない……

力ずくなんて言い方はされないだろう……


「それよりも、ユウは今どこに……」

「それが……何一つ分かっていません。足跡は完全に消え、目撃情報もほとんどない状態です。この街を出たのか、他の街へ向かったのかもわかりません。今では、懸賞金まで掛かっています。不思議な事に生きたままでないと懸賞金は出ないようです。」

「一体……何故?」


基本、脱獄者にまでなれば、生死を問わず懸賞金が掛かる……

それを、生きたまま捕縛しろと言うなんて、異例だ……

私としては、その方がいい……

しかし、こういう事の裏には総じて何かがある。


「まぁ、今は好都合と取るべきでしょう……出せる総力を挙げてユウを探し出してください。」

「分かりました。」


そのまま兵士は退室していく

今、ユウは国家権力によって拘束されてはいない。

自由に接触するならば……今しかない……

そして、今の内にユウを知らねばならない……

どうやら、ミチも部屋に籠っているようだが、ここは話を聞かないといけない……

ユウの過去を……

腰をあげ、ミチの部屋へと向かう。








「何の用?」

「ユウの過去について話を聞きたくて来ました。」


部屋に入ると、シエルと言う団員と共にミチは居た。

目元の涙の痕からして、ミチも手ひどくあしらわれたのだろう。

だが、弱味をみせんとするその姿は、彼女の強さを表していた。


「なんであなたに教えないといけないの?」

「知りたいからです。」

「いやよ。ユウの過去はそう軽々しく触れていいものじゃないのよ。」


軽々しく触れていいものじゃない?

一体、どういう事でしょうか?

何か、重大な過去があるのでしょうか……

それならば、踏み込まない訳にはいかない。

もう一度会って話すには、ユウの理解者でなければならない……


「もし、あなたが協力してくれないのならば……私もあなたに協力しません。私は総力を挙げてユウを捜索しますが、その情報の一切をあなたに流す事もせず、秘密裏に行動します。それでも良ければ……」

「くっ……」

「私もユウの事を知りたいのです。あなたもユウをいち早く見つけたいでしょう。あなた達の美しき姉弟仲を裂かれる所を見たくはないです。ですが、ギブアンドテイクは大切だと思います。」

「……ミチ、私も聞きたい。」

「シエルも!?」


何故か、シエル団員も味方してくれた……

まだ、少し渋っているようだが……

これだけ言えばミチも折れるだろう。


「ぐぅ……ゴメンなさい悠……私はダメなお姉ちゃんよ……けど、悠に会いたくて仕方がないの……許して……」


そう言ってここには居ないユウに謝るミチ……

少し、その過剰な姉弟愛を利用したことに罪悪感が湧くが、いたしかたないのだ。

これもユウに会う為……


「ユウが義理の弟なのは、孤児院って言う所に預けられていたからなの……」

「「えっ?」」


孤児、院……?

ユウは生みの親の顔を知らない?

戦争?賊の襲撃?事故?

孤児自体は残念ながら珍しい事じゃない。

だが一体、どんな理由で……


「生まれつきって訳ではなく、元はユウもしっかり実の親と生活を送っていたわ。」


生まれつきではないと言う事は何かの不幸な出来事で死んで孤児になった可能性が高い。

となると、私と同じで戦争で親を亡くしたのかも……

そう思っていた……


「母親と父親と悠の三人家族……よくある家庭ね。」


しかし、私の考えは外れる。

孤児になった理由は

戦争ではない……

事故でもない……


「けどね。悠は悉く運が悪かった。親が子を選べないように子も親を選べない。」


一体、なんの話をしているのですか?

それでは、まるで……


「悠は親に恵まれなかった。悪徳宗教に嵌った母に、賭け事(ギャンブル)に入り浸る父親、挙句の果てには麻薬にも手を染めていたわ。2人によって借金は膨らむばかり……」

「「っ!?」」


絶句……

まるで絵に描いたような最悪の環境……

ミチの拳は強く握られ、その様子はミチの中にある強い怒りを簡単に想像させた。


「それだけに留まらなかったわ。悠は酷い虐待を受けていたわ。大人でも耐えられない程の……まるで拷問のような虐待をッ!! 煙草の火を押しつけられて火傷をしたり、殴り蹴りの暴行、食事をまともに摂る事の方が少なかったのよ……ッ! まだ子どもの悠に!!」


ミチの怒りに染まった声はやがて涙が混じったものへと変わっていった……

私には到底、信じられなかった……

親と言うのは、無条件の愛を注いでくれる存在だった。

それが、そんな……惨い事を……

普通、そんな事はプロの殺し屋でも躊躇う……

それを、親が?到底信じられない……


「病気や怪我も多いのに……治療行為を受けた事も皆無よ……あの子、自分で調べて自分で治そうとしたのよッ!! けど、悠の親は本どころか教科書も買い与えなかったのよ……ッ!! しかも、学校では後ろ指を指され、図書館で一人勉強していたわッ!!」


一人で勉強?

普通は、学のある人物から学ばないと無理なんじゃ……

大体、学校はそれを学ぶ場所……

何故、そんな所で図書館で一人……


「教科書が無いから、授業にもついて行けない……親の風評で悠も同じと思われ、教師も敵……悠は生まれついて“孤独”だったのよ……」

「……許せない。」


隣のシエルからそんな声が漏れる……

私も同じ気持ちだった……悠のどこに落ち度があったのだろうか?

いや、それ以前の問題だ。

子どもに何か落ち度があったとして、何故子どもが一番酷い目に会わねばならない?

何故、親はのうのうとしていられる?

何故、ユウを虐げれる?

湧きあがる殺意を抑えつつ、話に耳を傾ける。


「それからしばらくして、それまで悠が耐えて、学校生活を数年送った頃……大火災が起きたわ。幸か不幸か、その火災はとても規模も大きく、その辺り一体の地域の人が全員死んだわ。たった一人、悠と言う例外を除いてね。」


心境はさながら、ほら見ろと言った感じだ。

悠へ酷い事をするからだ。

そうなって当然、同情や憐憫の気持ちは一切ない。

しかし、地域のほとんどが死ぬなんて……


「異常だった。その火災で親は死んだけど、親が残した借金は全て残り、周囲はこう言い出した。『アイツが火災を起こした。だからアイツは生きてる。アイツは殺人鬼だ!』とね……もちろん根拠なんて無い身勝手な言いがかり、なのにバカな奴らはそれを吹聴して回ったッ!! そして、おろかな奴らはそれを信じたッ!!」


馬鹿げている……

まるで、運命が悠を嫌っているかのよう……

何故、そんな目に悠は遭わなければいけない?


「それからは最悪よ。あり得ない額の借金に悩み。毎日、悠は集団にタコ殴りにされる事もあれば、陰湿ないじめを受ける事もあった。しかも、悠は虐待も、火災も、いじめも……本気で全部自分の所為だと思ったのよ。悠にとって、自分は間違っているのが当然。殴られるのも、虐められるのも、全部自分が悪いとね……」


そんな……

それじゃあ、理不尽すぎる……

悠が報われなさすぎる……

それに、私はパレードの日に……


(御両親には相談したのですか? ダメじゃないですか悠。悠の御両親であればきっと共に悩み……時には、叱りながらも愛情を注ぎ……きっと、最後には共に解決して笑いあえたはずですよ。)


なんて、言ってしまった……

あの時に悠の様子がおかしかったのはアレが理由だったのかもしれない……

だとしたら、私はなんて事を……

解決どころか、元凶……

しかも、一切愛情なんて注がれていない……

それがどうしたら笑顔になんて……


「結果、ユウは……人を信じない、救いを求めない、欲が限りなく薄い、生への執着までも薄い……異常な存在になった。あの屑共の所為でねッ!!」


ドンッと大きな音が響く。

ミチが壁を殴った音だった。

彼女の堪え切れぬ怒りはその程度で収まるものではないだろう。

隣のシエルも血が流れ出しそうなほど拳を握り締めている。


私は、両親に愛されて育った……だから、それが当然と思って話していた……

そして、私はその復讐に……

一体、ユウはどんな気持ちだったのだろうか……

この話を聞いた今、あの私は無神経だったと言うしかない。


謝らないと……

助けないと……

私が悠を幸せにしないと……


こうして更に歯車は異音を立てて狂い始める。

当の本人が自分の気持ちを知るのは今では無い。


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