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第78話

紫の光は徐々に収束を迎える。

兵士たちはあまりの眩さに目を閉ざしていたが、収束に気づき恐る恐る目を開く……

そして、彼らの目に飛び込んだのは一人の男……

その男の目は、先ほどまで、底の無い深淵の様に黒かったと言うのにも関わらず、緑に染まっていた。

その目は、未だ吹き荒れる紫の魔力の残光と相まって、男の怪物性を高めていた……


「…………」


絶句、他の兵士たちも声を出す事すら叶わなかった。

その姿形が人の物であるにも関わらず……

目の前のソレ(・・)が人ならざる、超越的存在であると理解した故だ……


「ペンダントはどこだ?」


その声は無機質……

まるで、感情の一切が丸ごと抜け落ちてしまったかのように……

怒りを感じない……嘆きも感じない……

だと言うのにも関わらず、俺たちの膝は震えだす。


「……ん?」


目の前のソレが歩みを始めようとしたその時……

足元が輝き、魔法陣が浮かびだす。

そして、俺たちは思いだす。

牢獄には魔力が一点に集中すると発動するという、強力な魔力吸収の魔法陣があると言う事を……

しかし、目の前のそれはそんな一抹の希望さえ容易く打ち砕く……


「ん……」

「なッ!?」


煩わしげに片足で魔法陣を踏みつける……

本当ならば、魔力で構築された魔法陣に干渉するには魔法(アーツ)などの密度の高い魔力を以てしても難しい、至難の技だ。

それ故に、その行為はただ足踏みをしただけに終わる……

はずだった……


しかし、ガラスの割れるような音と少しの風圧と共に魔法陣は砕け散る。

答えは簡単……


それは、魔法陣を容易く打ち砕ける程の高密度の魔力を纏っていると言う事……

それならば、魔法陣の影響を受けなかったのも納得がいく……

多すぎる魔力に、魔法陣は吸い取りきれなかったのだ……


「バカな……」


それの非常識はまだ起きる……

淡い光となって微かに見える程の魔力があれば強力な魔法(アーツ)が使えるだろうと思っていた。

そんな魔法(アーツ)があれば、この程度の牢は脱出できるだろうと……

しかし、ソレは超然的な態度を崩さず、自然体のままで牢を開けようとした。

当然、扉が開く事は無かった……無かったのだが……

そのまま、まるで金属ではないかの様に簡単に(ひしゃ)げていく……

あっと言う間に人が通れるほどの大きさの出入り口の完成だ。


「ば、バケモノ……」


ソレは前まで歩いてくる……

震えた足は動かず、頭の中ではどう頑張っても逃げる事は不可能だと根拠もなく悟っていた。

その化け物は俺の首元を片手で掴み、持ち上げ、口を開く……


「ペンダントはどこだ?」

「がっ……かはッ……」


ペンダントが何かは知らない。

しかし、ここで答えなければ俺はこの化け物の気分で殺されかねない……

全力で頭を回転させる。

答えは簡単に出た……

相手は脱獄しようと言う相手で先ほどまで捕まっていて、持ち物は没収されている。

つまり、押収品の事だろう。


「……すぐ、そこの待機、室の金庫だ……がッ……」


まるで、いや事実、興味を失って俺を投げ捨てる。

そして、そのまま待機室へ向かい歩き出す化け物……

運良く怪物の手を逃れる事が出来た事で一同が安心し、次々と尻餅をつく……

誰一人として、アレに剣先を向け、逆らおうという心を持った者は居なかった。








「ここか……」


言われるがまま、俺は金庫を見つける。

嘘を言っていた様子はないし、彼らはへたり込んでいる。

躊躇い無く金庫を開ける。

鍵を開けたのではない……扉の部分を引っぺがして開けたのだ。


「見つけた……」


果たして、自分がこのペンダントをつける資格が残っているかは分からない……

しかし、俺にとって……このペンダントは掛け替えのない思い出でだ。

もし、彼女に恨まれ、憎しみを募らされていたとしても、この繋がりを失いたくない……

傷つけないように、そっと手に取り、身につける……


「ゴメン、ティア……」


ペンダントに手を添え、そう謝る……

その謝罪は届かない、そして、届いてはいけない……

だが、一人ここで呟くくらいは……


「こっちだなッ!!」


そんな怒声と無数の足音……

その一つ一つはとても重い……

金属が擦れ合う音も聞こえる点からしても、これはかなりの重武装の騎士達の登場と思われる……

金庫の中にあった俺の金を回収し、彼らに備える。


「貴様ッ!! そこを動くな!! 大人しく投降しろ!!」


予測は当たっていた……

だが、その種類は数多く頭数も当然多い……

ただでさえ、室内だと言うにも関わらず、異常な人数……

もはや、鼠の這う間もない状態……

ぎっしりと、前衛には大きな盾を持った騎士たちが隙間なく詰まっている。

そして、所々からは槍の穂先がこちらを向き出てきている……

普通ならば、この状態になった時点で脱獄は失敗なのだ。

そう、普通ならば……


「ニア・フォルティナが来られたら少し面倒だが……この程度……」

「何を言っている! 早く両手をあげて膝をつけろ!」

「道を開けろ。」


一々、全員倒していてはニア・フォルティナ……もしくは、それに準ずるものが現れる可能性がある……

だが、それは望むところではない……

本調子でもなければ、ティアと会う危険もある……

ならば、この中を……


「開ける訳がないだろう。頭でも狂ったか!」

「なら……押し通るッ!」

「なッ!?」


その数と自分の力を過信した事を悔いろ……

きっと、彼らはそれなりにエリートなのだろう。

きっと、かなりの人数が居るのだろう……

しかし、この世界はそんなものを容易く個の力が凌駕するのだ。

それをしかと目に焼き付けろ!


「はぁッ!!」

「がはッ!?」


一足跳びに盾との距離を詰めて拳を叩きこむッ!

その盾を持っていた男は、仲間を道連れにしながら烈風と共に後方へ吹き飛ぶ……

すると、その跡が綺麗に道になる。


神葬霊剣(バチカル)……」


その名を呼ぶだけで顕現する……

憑依は必要ない……ただ、今の俺に従えばいい……

神葬霊剣(バチカル)を携えて歩く……

すると、彼らは俺を中心に円となって囲む……


「尻尾を巻いて逃げればいいものを……」

「舐めるなッ!!」


その声を皮切りに何人かが斬りかかってくる……

さながら、時代劇の殺陣だ。

しかし、時代劇とは違い、斬られた者はその場で倒れるのではない……


「ぐはッ!!」

「がッ!?」


吹き飛ばされる……

殺陣というよりも、舞かもしれない……

しかし、それはティアのような美しい綺麗な舞ではない……

技よりも純粋な力が振るわれるのだ。

体術も混ぜ、武器は変化し続ける……

蹴られた者、斬られた者、突かれた者、殴られた者……

全て、平等に一撃で死に、身体を宙に舞わせる……


「くそッ!! なんでだ!」

「こんなの人の所業じゃない……まるで、悪魔……!」


嗚呼……これではきりがない……

超越者達の宴(エクシード)レベルの相手が出ない内に終わらせねば……

少々、強引だが……致し方ない。

俺は少しの間隙に天井に向かって大剣を投擲……

少し、徒手空拳になってしまうが……この程度の相手なら余裕だ。

それに、もう終わりだ。


「お、おい……あれってヤバいんじゃ……」


気づいたか……

しかし、時既に遅し……

天井に投擲した大剣は突き刺さり、天井に罅をいれる……

あとは天井が崩れ始めれば……


「おい! 崩壊するぞッ!!」

「なんだよそれ……そんなの、人間に出来る事かよ……」

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


崩れ落ち出す天井……

これで一網打尽だ……

本来なら巻き込まれて俺も死ぬだろう。

だが、そんな間抜けは犯さない。


失楽園(パラダイスロスト)


呼び出したゴーレムに瓦礫から守ってもらうだけでいい。

彼らの身体はかなりの強固さを誇る。

轟音を立てて崩れ落ちる天井の瓦礫を物ともしない……

頼もしい限りだ。

轟音が止むのを確認した俺は瓦礫の山から這い出る。

悪魔となった今、負荷や多少の瓦礫は歩みを止めさせる理由たりえない……

あまり目立ちすぎないようにゴーレムには帰ってもらい、出口を捜索する。


「出口は……」


こんな所に来た事は一切ない……

しかも、先ほどの場所は瓦礫だらけだ。

案内標識もなければ人もいない……出口を見つけるのは難しいかと思われた時、窓を見つける。

仕方ないと窓から脱出しようと決断した時……


「むッ? 貴様……」


ニア・フォルティナ!?

運が悪いと言うしかない……

悪魔になった今、身体は結構無茶が聞くようになった……

高さは分からないが……

行くしかない……!


「おい! 待て!」


制止する声を振り切り、外に飛び出すッ!

それなりの高さはあったが、この程度ならいける!

なんとか、庭らしき場所に降り立つ……

そして、すかさず門らしき場所に向かって疾走する……


「くッ! 多少の怪我は覚悟して貰うぞ! 創武破軍(ベネトナシュブレード)!」


何かを彼女が叫んでいるのが聞こえる……

内容までは聞き取れなかったが……飛んでくる剣で粗方見当がつく……

だが、あまり剣の量は多くない……これなら撒けるか……?

時折、振り返りざまに剣を一閃し、迎撃する。


「そこのお前ッ! 止まれ!」


門が見えてきた……

ここを越えれば後は何とでもなる。

十人ほどの騎士が集まっているのが見える……

しかし、その程度は敵ではないッ!!


「はぁッ!!」


大剣を勢いと精一杯の力を込めて横薙ぎの一閃……

その一閃は破壊力を伴うかの如き風圧とともに放たれる。

起きた事は単純だ。

彼らの血飛沫と身体が宙を舞う……ただ、それだけ……


もう、ニア・フォルティナもこちらを見えなくなった所為か、剣の追撃は止んだ。

あと残っているやらねばならない事は簡単だ。

ただ、この街と彼彼女らに見つからないように姿を消すだけだ……

未来永劫、今までの出会いと思い出を忘れる事はないだろう。


願わくば、彼彼女らの人生が輝かしいものである事を……

流れる星々にそう願い、俺の逃避行が始まった。


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