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第76話

少し更新が止まってしまい、もうしわけありません!

私事で予約更新に任せたままにしてしまっており久しぶりに戻ってくると感想が増えていてテンションが少し上がっています(笑

これからもがんばっていくので応援よろしくお願いします!

「少し話がしたい。」


 目を覚ますなり、ニア・フォルティナが口にしたのはそれだった。

 一体、俺にどんな用があるのだろうか?


「構いません。」

「少し、お前は席を外してくれ。」

「わかりましたよ。ですが、容態が悪化したらすぐに呼んでください。」

「あぁ、分かっている。」


 そうして退室する医者……

 正直、この人には嫌われていたと思うのだが……

 二人きりで話とは一体……


「まずは、先の件だ。本当にすまなかった。」

「いえ、因果応報と言うものでしょう。」

「それと、ここでの話は他言無用で頼む。」

「俺もその方が助かります。」


 ここで、俺たちは話などしていない。

 その方が、お互いにとって都合がいいのだ。

 もし、ポロッと下手な事を言ってしまうかもしれない。

 拷問は懲り懲りだ。

 それに、囚人とこんなところで話していたなど、ニア・フォルティナも知られたくはないだろう。


「まず、最初に言っておくが私はお前が嫌いだ。」

「まぁ、何となく察してましたが……」


 あんまり、面と向かって言われると少しショックだ。

 しかし、あの怒り様は一体……

 嫌いな相手の為にあれ程怒れるだろうか……


「いくつか聞きたい。貴様の正義はなんだ?」

「正義……ですか?」


 これまた難しい質問だ。

 自分にとって何が正しい事かということだろう。

 しかし、正義なんて主観でしかない……

 それを他人による、客観的な視点から見れば容易く、曖昧になる。

 時と場合によって、形を変えて現れる正義はとても曖昧な物だ。


「私の正義は“国”だ。それに忠誠を誓い、それに尽くす……国の為ならば他の事など全て瑣末な事だ。」

「……それはまさに、騎士の鑑ですね。確かにそれなら確かに俺は貴女の(せいぎ)に逆らった悪者ですね。そんな私に正義があると?」

「私は傲慢だが、愚かではない。貴様は何か、“信じている(せいぎ)”がある人間だ。正義など持たない獣どもとは違う。」


 正義がない人間は獣扱いか……

 彼女は中々に辛口な事を言う。

 しかし、俺はそうではないという……

 そういう考え方ができると言う事は、自己中心的で利己的な典型的な貴族ではない事の証左だろう。

 だが、大した事など無い。


「何故、貴女はそう思うのですか?」

「正義なき者は簡単に挫ける、正義なき者は理性も持たない。拷問を受けて尚、貴様の心は折れていない。そして、ここに来るまで、お前は脱走など一切考えていなかった。」

「少なくとも貴女は恩人。それを利用してまで脱走する気なんか起きないよ。大体、あんな状態では貴女からは逃げられないでしょうよ。」

「そうだ。正義ある者は誇り高く、そして、決して屈しない。」

「買いかぶりすぎです……」


 彼女にとって正義とは人を判断する為の大きな材料なのだろう。

 彼女の熱意がとても伝わってくる。

 その熱意はとても好ましいものだった。


「否定や謙遜は私への侮辱だ。」


 確かに……

 ここまで言っているのだから……

 否定は礼に非ずだろう。


「…………“大切な人たち”でしょうか……その人たちの為に戦う事が俺の心が示す正義です。」

「“仁”に尽くすか……その心は大いに好ましいものだ。大切にするといい。」

「はは、ありがとうございます。」


 また、凄い褒め方だな……

 自ら傲慢を名乗るだけはある。


「それと一つ言っておきたい事がある。今回の件は奴らとエドワード・ベルナンドの独断だ。本当ならあんな拷問の予定はなかった。我々の管理不足だ。貴様への行き過ぎた拷問は私の正義に反する。」


 どうやらひた隠しにしてやっていたみたいだな……

 だが、俺への拷問が正義に反する?

 彼女の正義とは“国”だ……

 一体、何故……


「お前への現時点での拷問は得れるものも少なく、国への不利益がある。」

「俺なんかを拷問した程度で、国への不利益なんて……」

「ヒイラギ・ミチだ……彼女の存在は大きい。彼女の持つ繋がりは大きく、彼女自身もに無視できない程の力がある。勇者は彼女がなるべきだった。あんな男など、より余程優秀だ。彼女にも正義があった……しかし、あのエドワード・ベルナンドなど、正義も持たない獣同然……奴の頭には自分中心の世界しかない。ヒイラギ・ミチの方がきっと役に立つ。」


 姉ちゃんが勇者?

 一体、どう言う事だ?


「姉ちゃんが勇者になるべきとは一体?」

「むっ? 知らないのか? 彼女は勇者候補だった。しかし、辞退したのだ。ここに縛られる訳にはいかないと言って……」

「初耳です。」

「まぁ、いい。その彼女が今日門まで来ていた。そして、ユウに何かあったら許さないと言っていた。つまり、貴様を私たちが虐待したとなれば彼女を敵に回す事になる。それは困るのだ。完全な味方である必要などない。しかし、今は隣がキナ臭い……今、ギルドやその他の不特定多数の組織を敵に回せば隣につけ込み易しと思われかねない。」

「姉ちゃんがそんな事を……」


 嗚呼、姉ちゃんの気持ちが嬉しくて仕方がない……

 死に絶えていた心が生き返ったかの様だ。

 そんなにも思ってくれているのだと思うと嬉しくて仕方がない。

 しかし、この人も戦争で頭を悩ませているのか……

 そんな時期に行動を起こして少し反省する。

 後悔はしていないが……


「そう言えば……一週間後に貴様と会わせるとの約束も交わした。」

「えっ……?」


 浮かんでいた心は一瞬にして沈み始める……

 まるで鈍器で頭を殴られたかのような衝撃が走る……

 姉ちゃんが来る……?

 俺は姉ちゃんと会わなければならないのか……?


「確か、その後にティア・シンフィールドの面会もあったな……」


 ティアも……?

 ダメだ……会いたくなどない……

 それは嫌だ……


「……面会謝絶は出来ますか?」

「断る。一度結んだ約束を違えるなどあるまじき行為だ。」


 俺はまだ演技を続けなければならない。

 ティアの憎悪をかき集めている存在にならなければいけないのだ。

 そして、姉ちゃんがこの心を知れば姉ちゃんがティアの復讐を妨げかねない……

 つまり、俺は彼女らが来ようと……この口で彼女らを貶め、侮辱し、嘲笑い……罵詈雑言の限りを尽くし、憎悪を買い、裏切らねばならない。


 俺にとってはあの拷問などで身体を永遠に痛めつけられる方がまだましだ……

 身体を痛めつけるだけならば、幾らでも耐えよう。

 しかし……それだけは……もう、耐えきれないッ……

 だが……やらねばならない……


「少し……休ませてもらえませんか?」

「ふむ、いいだろう。だが、医務室でという訳にはいかないぞ?」

「大丈夫、自分の立場くらい……分かってる。」


 俺は罪人の身だ。

 当然、牢屋に案内される……

 少し、身体が痛いが一々薬を盛られるよりは遥かにマシだ。


「今日は休め、明日から色々と聞かせてもらう。といっても、手荒い事はしないつもりだ。安心しろ。」

「はは、それは助かるよ。」


 そう言い残し、牢の鍵を掛けて去って行くニア・フォルティナ。

 お世辞にも快適とは言えないが、吊り下げられてるよりはマシだ。

 少し硬いがベットもあるし椅子もある。


「ついでに、囚人管理もばっちりだな……」


 足元には魔法陣があり、魔法(アーツ)を発動しようとすれば力を吸われる。

 簡単に脱獄は出来ないだろう。

 さぁ、こういう時は話相手もおらず、寝るくらいしかないが……

 俺には話相手がいる。

 だが、呼ぶ出すと……


(……ぐすっ…………私の……私の所為で、ごめんなさい……)


 聞こえてきたその声は本当に小さな声だった。

 もはや、ステラが泣いているのは火を見るより明らかだった。

 その嗚咽は、頭に響き続ける……


(う、うっ……私が……私が力になれないばかりに……)

(あんまり泣かないでくれ……何故、そんなに泣いているのか俺には分からない。)

(あんな……あんな惨い事をよくもッ!! それなのに、私はッ! ユウを助けられなかった……)


 怒りも混じったその声でようやく理解が及ぶ……

 ステラは、あの状況に何もできなかった無力感から自分を責めているのだろう。

 だが、それはお門違いと言うものだ。


(あれは、俺が望んだ道なんだ。だからステラは何も悪くない。)

(それでもッ! 私はユウがあんな目に遭う事を許容できない! だから、私はあの夜……ユウの身体を奪った……そして、どうにかしようとしたのに……結局何も変わらなかった。それどころかもっと酷くなったのかもしれない。私があんな事をしなければもしかしたら……)


 あぁ、あれはおかしいと思ったんだよ。

 突然、意識が落ちるんだから……

 ステラがやってたのか……


(じゃあ、お礼を言わないといけないみたいだ。)

(私はお礼を言われるような事はしてないッ! 私は……)

(俺はあの瞬間がとても苦痛だった。それを代わりにやってくれたんだろ?)


 なんとなくだが、俺の目標は達成できている気がする。

 それにもし、俺が嫌われていなかったとしようが……

 次の面会で嫌われればいいだけ……

 それはとても辛い事だが……必要があるのなら……実行できる。


(なんでなのッ!! なんで……なんであなたは私を罵らないのッ!? なんであなたは私を恨まないのッ!? ユウはおかしいよ!! あっ……わたし……)


 感情の爆発……

 一切繕われていない本音……

 最後の最後に正気に戻ったかのように失言だったと気づいたか俺の反応を恐れるような声を出すステラ……


(なんでって言われても……ステラが大切だから?)

(もしかしたら、こんなことになったのは私の……)

(もしかしての話なんて不毛だよ。もしかしての話をするのはお礼を言う時だけにしないとね?)


 “もしも”は言い出したらきりがない……

 だから、“もしかしたらの話”で謝るのはやめて欲しい。

 言うならば、それはお礼の時だけだ。


(やっぱり……ユウはおかしいよ……私を恨んでくれない……私に罰を与えてくれない。)

(悪いと思っているなら、これから先、ステラには馬車馬のように働いてもらうから、それで勘弁して。残念ながらステラに罰を与えれるほど心が強くないんだ。)

(ふふ……分かった。絶対に私がユウを幸せにして見せるんだから!)

(ははは! それは心強い。)


 まるで、プロポーズの言葉みたいだな……

 斯くも無邪気というのは恐ろしいものだ。

 しかし、彼女の声にもう悲しみや後悔の念は感じない。

 それならば、わざわざ水を差す事もない……

 彼女の無邪気な声を聞けた事を今はただ、喜ぶとしよう。


 こうすれば、来る一週間後の事を忘れる事が出来そうだったから……



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