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第75話

「がッ!? ……かはッ……ケホッ……」

「起きたか。」


 また起こされる……

 一体、いつ俺は意識を失っていたのだろうか?

 それすらもあやふや……

 そろそろ、意識を失っている時と失っていない時の判別すらつかなくなってくるかもしれない。


「今日は少し聞きたい事がある。」

「いつも同じじゃないか……くッ!!」

「お前は聞かれた事にだけ答えていればいい。余計な事を言う度に鞭の数が増えるぞ?」

「善処させてもらうよ。」


 弱った所を見せるな……

 嘘の基本はポーカーフェイスだ。

 軽口も叩ければ上等だ。

 何を聞かれるかは分からないが気を抜いてはいけない。


「お前の魔法(アーツ)は何だ?」


 魔法(アーツ)は何か?

 そんな事をわざわざ聞く理由が分からない。

 しかし、質問の意味をこの男が丁寧に教える可能性は限りなく薄い。


「簡単に言うと魔物を呼び出す事が出来る魔法(アーツ)だ。」

「なっ……!? もう少し詳しく説明しろ。」


 一体、何をそこまで探ろうとしている?

 俺の魔法(アーツ)なんて今は使えないようにされている。

 何故か、魔法(アーツ)を使おうとすると力が抜けて顕現しないのだ。

 ならば、俺の魔法(アーツ)なんて使えないのだから、どうでもいいはずなのに……


「詳しくったって、どこを?」

「なんでもいい。どのくらい呼べる? どの程度の時間? 言う事は聞くのか?」


 さて、俺は今、どのくらいの仲間を呼べるのだろうか?

 なんだかんだで、最近は検証していなかった。

 それに、時間も時と場合によるから、答えようもない。


「言う事は聞いてくれる。他の二つは魔力による。」

「……まぁ、いい。次の質問だ。その紫の紋章は何だ?」


 この紋章の色か……

 それで、魔法(アーツ)に興味を持ったのか?


「知らない……がッ!?」

「何か心当たりがあるだろう!」


 鞭が容赦なく身体を襲う。

 ……何故、この男は焦っている?

 もしや……


「全然ない。」

「もういい。話したくなるようにしてやれ。」

「がッ!? くッ!」


 また始まった鞭地獄。

 だが、これだけは分かる。

 この男は非常に焦っている。


「ふっ……」


 何で悩んでいるかは知らないが……

 何もかも思うように行くと思うなよ?

 そう思うと笑みがこぼれてしまう。


「さぁ、吐け! その紋章の色の理由を!」

「知らない……ぐッ!」


 だが、俺の予想があっていれば少し面倒なことになるかもしれない。

 出来れば、この予想が当たっていない事を祈るが……

 その祈りは届かなかった。

 前と同じ拷問セットを味わいながらかなりの時間が過ぎた頃……


「客だ。」


 そう言って、兵士の様な男が誰かを連れてくる。

 客人……そして、魔法(アーツ)と紋章関係と言えば……

 聖教会……


「聖教会から派遣されてきました。」

「お前ら、全員出ろ。2人きりにしろとのお達しだ。」


 そのまま、鞭男と電撃男は部屋を出ていく……

 残るのは俺と聖教会から来たと言う男のみ……

 耳の形状からして、恐らくエルフ……


「何の用ですか? 教会のお偉いさん……」

「分かっているんじゃないかな? その魔法(アーツ)、その紫の紋章……それらに興味があるのだよ。私たちは……」


 やはり、予測は大当たり……

 分かっていて聞いたが……やはり、そうなるか……

 だが、神話を楽しむことこそあれど、神を信仰する気にはなれない。


「勧誘ならお断りだ。」

「ここから出してあげるとしてもかい?」

「あぁ……そんな条件でそっちへ行っても扱いはほとんど変わらないだろう?」

「そんな事はないさ」


 どうだか……

 手段を問わないと聞いた。

 俺の予測が正しければ……


「あんた、ここに来たのは強引な手に出るつもりなんだろ? 大体、例え、あんたに付けば死刑が取り消されるとしてもいかないよ。早く強引な手段とやらに出るといい。」

「……そうかい。残念だよ。私たちが譲歩できるのは死刑の取り消しまでだからね。」

「神に仕える者の割に狭量な事だ。」

「なんとでも言うといい。」


 そう言うと男は、片手で分厚い本を持ちながら、何かを呟きだす。

 そして、人差し指を俺の額へと当てる……

 そう来るか……

 まさか、そんな事が本当にできるのかと疑う。

 この様子はまるで人を洗脳するみたいじゃないか……

 そう思うと人差し指の先が淡い光を放ちだす……


「うがぁぁぁぁぁぁ!!」


 何かが脳内に入り込もうとする不快感……

 そして、その何かは着実に侵攻を開始しようとしている……

 激痛……

 脳内を勝手に弄るかのような感覚は不快感を越え、激痛へと変わる。


「あああぁぁぁぁぁ!!」


 ある程度のラインにまで来るとその進行はピタリと止まる。

 嗚呼、俺の身体を無理やり操ろうとしている……

 だが、そうはいかない……

 俺の身体を乗っ取られると言う事は……


 ―――私の場所を奪うと言う事―――


 頭を過ぎった俺ならざる思考……

 その思考が過ぎった瞬間……


「くッ!! 何故効かない!?」

「ああぁぁぁ!!」

「ぐあッ!?」


 一瞬の出来事だったが、突如、無尽蔵に紫の魔力が俺を中心に爆発する……

 それと同時に脳内への侵攻は消え、男は壁まで吹き飛ばされる。

 すると、扉を荒々しく開けて兵士たちが入ってくる。


「なんだッ!」

「何が起こった!」


 慌てる兵士達……

 しかし、騒動はそれだけに終わらない……

 あの拷問役の男たちは鞭で俺を打ち始める。


「何をした!!」

「ぐあッ!?」

「何があった!!」


 凛と響くその声……

 確か、この声は俺がこんな所へ来る前に聞いたあの声だ。


「ニア・フォルティナ様!?」

「報告しろ! 何があった? 教会の者が今日は…………」


 その言葉の途中で言葉が途切れる。

 彼女の目はこちらを見て止まる……


「貴様ら……ここで何をしていた?」

「私たちはこの者の拷問を……」


 拷問役の男へ丁度投げかけられた言葉。

 それに答えようとしたが……

 その言葉が最後まで紡がれる事は無かった。

 何故なら、その拷問役の男はいとも容易く壁へ吹き飛ばされたからであった……


「貴様ら……どうしてくれる……」


 とても低い声が紡がれる。

 彼女は額を抑えながら、そう呟く……

 彼女はこの拷問が行われている事を知らなかった。

 それどころか、この事を知っているのは数人だけ……


「あとで話を聞く、そして、来るべき時がこれば貴様らは非公式に殺される。親族郎党皆殺しだろう。フラディアスはこれに一切関与しない。」

「一体、どういうことですか!?」


 慌てた様子で声をあげる吹き飛ばされていない拷問役の男。

 状況が飲み込めないのだろう。

 俺だって飲み込めない。


「この事を知っていた物は全員だ。貴様らは重要人物を勝手に拷問した挙句、私に嘘を吐かせ、フラディアスにギルドや、様々な者が敵に回るかもしれない原因を作った……私は彼女の報復を黙認し、要請があれば協力するつもりだ。」

「彼女? 私たちはあのエドワード・ベルナンド様に……」

「金を握らされたか? だが、背後が誰であれ関係などない。もとより、あの様な役立たずが超越者達の宴(エクシード)にいる事が気に入らなかった。丁度良い機会だ。あの者も殺されてしまえばいい。勇者の選定は間違っていたのだ。それに勇者なら殺されはしないだろう。本物の勇者ならの話だが……」


 あのベルナンド家の報復だったか……

 やはり、俺がやっていて良かった。

 ティアがこんな目に会わなくて……本当に良かった。


「全員、顔は覚えた。あとで会議室へ来い。鎖が邪魔だぞ!」


 その一喝が響くと兵士達が俺の鎖をすぐに解きに集まる。

 少し手間が掛かっていたが特段時間も掛けず拘束は解かれる。

 しかし、身体はボロボロ……

 まともに歩く事すらままならない。


「肩を貸そう。掴まれ。」

「ありがとうございます……」


 なんとか肩を貸してもらいついて行ける。

 どう言う訳か、彼女は彼ら程、敵対的ではない様子だ。

 少し甘えさせてもらうとしよう。


「まずは傷の手当てだ。少し掛かるが我慢してくれ。」

「……はい。」


 周囲の様子がまだ牢獄のようなのだが、あの拷問部屋に比べればマシだ。

 歩くだけで、息をするだけで身体中が痛む。

 しかし、あの拷問に比べればまだ我慢できる。

 少し歩くと、医務室のような部屋に入った。


「どうしま……っとこれは!? すぐにここに! 魔法(アーツ)で治します!!」


 医者のような男はベットに俺を横たわらせる。

 すると、魔法陣を手に浮かばせ、それをこちらへかざす。

 その魔法陣が光を放つと、身体中の傷の治癒が始まった。

 特別気持ちよくなったりする訳ではない。

 それどころか少し痛い……

 しかし、徐々に傷がふさがっていくのが分かる。


「これは一体……」

「勝手な拷問が行われていた。」

「……凄まじいですね。これほどとは……本当なら死んでいてもおかしくない……なのに……」


 死んでいてもおかしくない、か……

 俺も疑問だよ……なんで俺まだ生きてるんだろう……

 ここまで、身体を鍛えた覚えはないんだが……


「これは……脳へのダメージ、大量の裂傷、一部体内とほぼ全身が火傷、複数の薬物反応に、内臓もかなりやられてる……食事も碌にとっていない!? これは“死んでいてもおかしくない”なんて領域じゃない……なんで“死んでいない?”普通の人間ならば、確実に死んでいます……」


 驚く声が少し頭へ響く……

 どうやら、かなり好き勝手にやってくれたみたいだなあいつ等は……

 まぁ、それより生きてる自分の身体とこの治癒の魔法(アーツ)の方が興味をそそられる。

 どれだけの怪我なのかはあとで詳しく聞こう。

 疑問はいろいろ尽きないが、今は束の間の休息を味わうとしよう。

 そして、俺は意識を落とす。

 久しぶりの落ち着いた睡眠だった所為か、泥のように……

 そして、深く眠る事が出来た。


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