表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/92

第74話

「……!? くはッ!? ケホッ……ケホッ……」


 奥深くまで沈んでいた意識が冷たい水を全身に掛けられた事で無理やり引き戻される。

 身体に自由はなく、手も足も縛られている。

 しかも、シエルの時の様なロープではなく、鎖で壁に張りつけだ。


「起きたか……」


 ……起きぬけだと言うのに、俺の頭は大体の状況を悟った。

 俺は捕まったのだろう。

 というのも、あの場で記憶が途切れていれば捕まったと容易に想像がつく。

 この部屋も“それ専用”の部屋だと一目で分かる。

 服は脱がされ、水で濡らされた身体の体温は徐々に奪われていく。

 しかも、何故か分からないが、身体中が既に痛むのだ。

 まるで、魔法(アーツ)の滅茶苦茶な負荷を喰らった後のようだ。


「今から聞く質問に答えろ。」


 男は喋る……

 あぁ、これから拷問が始まるのだろうか?

 一体、それはどのようなものなのだろうか?

 心こそ踊らないものの、少し興味はある。


「オウエン・ベルナンド侯爵を殺したのは貴様だな?」

「あぁそうだ。」

「ふん、やけに素直に認めるのだな。」


 つまらなさそうにする男。

 だが、否定する理由もない。

 むしろ、そう思ってもらえないと困るのだ。


「何故、殺した?」

「あの男が憎かった。友が死んだのは奴の所為だ。大体、こんな事聞く必要なんて……がはッ!?」

「それはお前が決める事じゃない。」


 男は俺の鳩尾へと拳による一撃を放った。

 当然、俺は避ける術など持たない。

 しかも、この男……獣人……

 一撃の重さが半端ではない。物凄い痛い……その痛みは消えず鈍い痛みがまだ続いている。

 だが、耐えれない程ではない。

 本当の動機を言う訳にはいかない。


「もう一度聞く。何故、殺した?」

「だから、俺の友が……がはッ!?」

「俺は嘘が嫌いだ。」


 今度は腹部へと二発……

 とても痛いが、この程度では俺は折れない。

 まだ、余裕すら感じる。


「はは、その程度か? 大体、嘘と本当の事も見抜けないようじゃ、その仕事向いてないんじゃない?」

「あまり、調子に乗るなよ?」

「ぐ……ッ!」


 顔面への一撃……

 後ろの壁に頭がもろにぶつかり、割れそうなほど痛い。

 痛い……だが、所詮はその程度。

 徹底的に悪人を演じろ。

 こちらの心意を悟らせるな……


「まぁいい。今はこの質問は置いておこう。次の質問だ。」


 どうせ、弱ってから聞き出すつもりだろう。

 まぁいい。

 俺の心を折れるならものなら、折ってみるがいい。

 あんたたちには無理だろうがな……


「出身国はどこだ?」

「日本だ。」

「ニホン? どこだそれは?」

「遠くにある。あんた達が行けないぐらいな?」


 異世界なのだから行ける訳がない。

 そう言う意味を込めて余裕の笑みで返す。


「ふん、ならばどうやってここに来た?」

「知らない……グボッ!?」

「ふざけた事を……冗談は嫌いだ。」


 今度は膝蹴りだ。

 後ろは壁なため、後ろに逃げた力が再び戻り挟み撃ちで衝撃が襲ってくる。

 それに、足は腕の数倍の力があると聞いた。

 もはや、腹部への打撃の所為で吐き気がする。


「嘘も嫌い、冗談も嫌い……親に好き嫌いをするなと教わらなかったのか?」

「減らず口を叩いていられるのも今の内だ。精々、今は強がっているといい。」


 あぁ、存分に強がらせてもらうとしよう。

 この程度のお遊びじゃあ心が折れる事は無いのだから。


「次だ。お前はいつ、何の為にこの国へ来た?」

「4,5年前に復讐の為だ……くッ!?」


 顔を強引に掴み壁に叩きつけてくる男。

 頭が壁にぶつかる鈍い打撃音が響く。

 そして、男はより一層低い声で喋る。


「もう、止めようじゃないか。核心に迫ろう。お前はどこの国の間者だ?」

「全く持って言っている意味が分からないな。……がッ!?」


 再び叩きつけられる。

 ガンガンと響く頭……

 これは当分、痛みそうだ……


「お前についての情報が一切見当たらない。まるで、つい最近もっと湧いたかのようだ。」

「貧しい家庭だからな……がッ!?」


 またもや、ガンッと叩きつけられる。

 異世界なんだから本当の事を言っても仕方ないと思っていったのにこれだ。


「貧しい家庭だと? どれほど、貧しい者でもお前よりは足がつく。」

「なら、あんた達の調査不足だな……がッ!?」

「メディ王国か? それとも、ロマリア帝国か?」

「はははっ!」


 愉快極まりない。

 思わず吹き出してしまうほどに……

 彼らはごっこ遊びでもしているのだろうか?

 とても滑稽だ。


「何を笑っている。」

「勘違いしているようだから言っておくが、俺は間者じゃない。あんたらにも、このフラディアスにも興味なんてない。復讐を果たした今となっては、心底どうでもいい。」

「はッ! 口ではなんとでも言える。これからが楽しみだ。」


 そう言うと男は後ろの小窓がついた扉をノックする。

 すると、何かを扉の向こうに呟く。

 その声は小さく、何を言っているかは聞こえなかった。


「じゃあな、もう会うこともないだろう。お前の方針が変わったことで俺も担当を外れる。精々、耐える事だな。」


 そう言うと扉が開き男はどこかへ行く。

 別にこの男がどこへ行こうと知った事ではない。

 今は、あの言葉からして、状況が改善されるとは思えないことだけが気がかりだ。

 その後、入れ替わるように入ってきた男は何か液体が入った小瓶を持っている。


「飲め。」


 命令の後、無理やり喉に流し込まれる。

 既に消耗しきった身体では大した抵抗も出来なかった。

 そして、しばらくして何を飲まされたか理解する。


「睡眠薬か……」


 強烈な眠気……

 自分が盛った物を飲まされるとはな……

 皮肉だなと思いながら、そのまま、俺の意識は深い眠りに落ちる。








「……くはッ……ケホッ……ケホッ……」


 またもや冷水……

 意識は急浮上する。

 身体を包み込む冷気は容赦なく体力を奪っていく……


「起きたな。」


 今度は三人……

 その内、2人は手に鞭を持っている。

 実物を見たのなんて初めてだ。

 そして、2人が鞭を持っている理由は単純明快だ。


「ここからが、本番と言う訳か……」

「あぁ、そうだ。楽しい楽しい、拷問の時間だ。」


 笑ってやがる。

 こんなのを飼っているとはこの国もヤバいんじゃないか?

 裏にはもっとヤバいのがいそうだが……


「あんた、良い性格してるよ。」

「はは、面白い事を言う奴だ。張り切り過ぎて殺しちまうかもしれねぇが許せよ?」

「面白い冗談だ。」

「冗談じゃねぇよ。時々、殺しちまう。しっかり耐えろよ?」


 それは、あまり聞きたくなかった。

 拷問で殺されたとあっては、ティアの復讐相手がいなくなってしまう。

 俺は何としても、ティアに嫌われてたまま、殺される為に生きなければならない。


「あぁ、そうだな。俺も張り切って行かないと……」

「取り敢えず、最後のチャンスだ。洗いざらい吐け。」

「もう全て吐いた後だ。」

「ははは! そうでなくちゃな!」


 思えばさっきと部屋が違う。

 移動の為に眠らされた訳か……

 俺は部屋の真中で鎖で縛りあげられていた。


「がはッ!?」


 背に回った男は鞭を思い切り振るう。

 パシン!と音を鳴らして身体が打たれる。

 少し鞭を甘く見ていた……

 口から出るのは吐瀉物ではない。

 血だ……


「……これは予想外だ。」

「今からやめてくれって言ったって止めねぇぞ?」

「誰がそんな事言った?」


 そう言って余裕の笑みを浮かべてやる。

 だが、口から血が流れてる所為で恰好はつかないが……


「はッ! 生意気言う!!」

「がッ! がはッ!!」


 鞭は何度も打ちつけられ、肉が裂かれていく……

 もはや、身体中血まみれだ。

 もとより、いくつかの傷はあったがその数は増えていく……

 鞭を打たれる度に鮮血が舞い、血生臭い臭いが漂う。


「かはッ……」

「あと何回吐血すればあんたは事実を吐くんだ?」

「隠してる事なんてない。俺が吐けるのは血か唾くらいだ。」


 鞭は確かに痛い……

 声をあげて呻く事しかできないが、縛られていなければのたうちまわっている事だろう。

 確かに辛い……

 本当なら、泣き叫んでいたかもしれない。

 だが、それ以上の恐怖があるのだ。

 この程度の鞭打ち(・・・・・・)なんぞ比べ物にならない程の恐怖が……


「コイツはもっとお望みらしい。」

「ぐあッ!? かはッ!」


 鞭打ちは正面と背からの交互に休みなく行われる。

 しかし、俺に出来るのは声をあげて耐える事だけだ。

 しかも、声をあげれば瞬く間に体力が削られていく……

 そして、段々と……意識が……


「眠るなよ?」

「ぶはッ!? ……はぁ……はぁ……」


 冷水を掛け、無理やり眠らない様にしてくれる。

 なんと優しいサービスだろうか……

 掛けられた水は傷口に沁みる。

 そして、そこをまた打たれる。


「まったく、これを考えた奴の顔が見てみたい。」

「ふっ、見てどうする?」

「一発殴ってやる。」


 身体の傷と疲労が永遠と蓄積される。

 これを考えた奴は絶対に地獄に落ちる。

 我ながら、何故耐えれているのかすら疑問に感じる。

 死んでいてもおかしくないと思うが……


「そろそろ、痛みもマヒしてきた頃だろう。」


 そう言うと傍に寄ってくる男。

 ただでさえ、永遠と続くこの鞭打ち地獄でも参っていると言うのにまだ何かをするつもりらしい。

 男は俺の肩へと手を置く。

 すると……


「がああぁぁぁぁ!!!」

「どうだ辛いか?」


 焼ける……ッ!!

 電流が流れ身体を焼き尽くさんと身体中を巡る。

 比喩でなく、身体へと電気が流れている。

 身体の所々に青く光る稲妻が走るのが証拠だ。


「……はぁ……中々に良い趣味してるよ。あんた……」

「褒め言葉として受け取らせてもらおう。」


 少し焦げ臭いにおいが漂う。

 しかし、水をまいていたのに関わらず、電流が流れたのは俺の身体だけの様子。

 つまりは、魔法(アーツ)……


「宝の持ち腐れだな。」

「お前に言われたくないな。俺はこの仕事が気に入ってる。」


 正真正銘の屑だな……

 しかし、俺は一体、いつからこの状況で、どのくらいの時間が経っているのだろうか?

 分からない。

 恐らく、これは睡眠薬の他にも混ぜられていたな……

 意識が何度も朦朧とするおかげで時間感覚も完全に狂っている。

 当然、日の光などここには入らない。

 時間感覚がないおかげでこの拷問が永遠に続くのではと言う考えが湧く。

 そしてまた、鞭打ちは始まる……

 きっと、意識が薄くなれば水を掛けられ、痛みがマヒすれば電撃だ。


 しかし、これで彼女らが救われると言うのなら……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ