第72話
「また面倒なのが……」
「見つけたぞカンザキユウ……父上を殺したのはお前だな?」
この男は……
そうだ……ユウが殺したオウエン・ベルナンドとやらの息子だったか……
それに、少々厄介そうな魔法をもっていたわね。
「そうだよ、ユウが殺した。」
「えっ……それはどういう事ですか?」
そうか……
オウエン・ベルナンドはこの女の復讐相手だったっけ?
「どうもしない。ユウがオウエン・ベルナンドとやらを殺したの。理由ならユウに聞けば? あなたが生きていればの話だけど」
「お前こそ自分の心配をしたらどうだ? 黄昏混沌!」
その男が魔法発動すると男の周囲の魔物たちが徐々に力を失っていき所々消えていく……
やはり、そうか……
周囲の魔法の無効化の類……
どうやら、一瞬にして消される事はなさそうだが……
「忌々しいわね。」
「父上の仇……ここで討取らせてもらう!!」
そのまま、こちらに向かい走り出してくる。
周囲にいる魔物たちはいとも簡単に倒されていく……
しかし、無効化範囲にもそれなりの限界があるのか、突破できたのはエドワード・ベルナンドのみ……
これならば、対処できない事もない。
「ここで死ね!!」
「少し舐めすぎじゃない?」
大きく飛び上がり斬りかかってくる。
しかし、それでは剣筋がお粗末だ。
容易く神葬霊剣で受け止める。
「バカめ! 黄昏混沌の中では……」
「バカはそっち。近づかれて分かったけど……この魔法って無効じゃなくて魔法の魔力を吸収だよね。」
「なッ!?」
この魔力が吸い取られる感覚……
それも尋常じゃないスピード……
しかし……
「それに以上に魔力を供給してあげれば……こうやって維持できる。」
「くッ……化け物め!」
今の私はユウの溢れんばかりの激情により、魔力は身体に溢れている。
そして、ユウの身体を通じてだが、意識を下ろす事が出来た。
まさに身体は抜群の状態……
ずっと魔力を吸わせ続ける訳にはいかないが……
「まさに……飛んで火に入る夏の虫だね。」
周囲の魔物たちもすぐには消えない。
そして……
私自身も神葬霊剣を使える。
エドワード・ベルナンドは後ろに飛び退き、体勢を整えようとするが……
「やって……」
「くッ……! 邪魔だ!!」
魔物たちがエドワード・ベルナンドに特攻を仕掛ける。
その特攻により息つく暇すら与えない。
だが、ここで簡単にやられてしまうようでは、超越者達の宴には入れない。
容易く彼らはその命を散らして行く……
「そっちばかりに気を取られて大丈夫?」
そのまま、魔物たちの対処に追われている所に私自ら突っ込んでいく。
完全なタイミングと思われた槍による突き……
しかし、その突きは魔物たちの迎撃を掻い潜ってきた剣がそれを阻む。
「油断しすぎだ! 足手まといは帰れ!」
「序列四位がでしゃばるな! あの程度の攻撃どうとでも出来た!!」
「随分と大口を叩くね……ッ!」
すぐに槍の穂先で剣を弾き、剣に変化した神葬霊剣で躍りかかる。
致命的な量の剣は流れ込んできていない。
それにこの距離ならフレンドリーファイアが怖いだろう。
問題はこの距離だと魔力の消耗が激しい事……
「ほら、どうしたの? 仇を討つんじゃないの?」
「くそッ!」
怒りの為か本当に剣筋が読みやすい。
魔力を吸収して自己強化しているとはいえ、この程度なら脅威ではない。
今の私もかなりの身体能力なのだから……
その形を変化させる神葬霊剣は着実に相手を追い詰めていく
「がッ!?」
そうやって目の前の敵につられ後ろから魔物による一撃が当たる。
まるで、新人の兵士が陥る視野狭窄である。
今の様子をそれなりの腕を持った武人に見せれば、超越者達の宴のいい恥さらしだと評される事間違いなしだろう。
「ほら、余所見は厳禁だよ?」
エドワード・ベルナンドは振り返りざまに魔物へ一撃をお見舞いする。
しかし、相手から目を逸らしてはいけない。
戦場での余所見は厳禁だ。
その無防備な背中へ剣の柄で殴りつける。
「ぐッ……!」
そして、体勢を崩す……
そこに刃を突き立ててればコイツは死ぬ……
そのまま、刺してしまおうとした瞬間……
「くッ……忌々しい鈍……」
「そう簡単に殺させるわけにはいかない。」
二三本の剣が上空から降り注いでくる。
後少しで殺せたと言うのに……
どうやら、あの男の周囲に集中して剣を使ったらしい。
おかげで攻撃の剣の量が減った、それに剣はエドワード・ベルナンドの動きも阻害する。
「おい! ベアトリーチェ! お前は誰の味方だ!」
「貴様の味方ではない! 私の剣はフラディアスの物だ!」
まぁいい……
今すぐ殺さねばならない相手でもなかった。
私にとって、殺さねばならぬ相手は一人
ティア・シンフィールド……
もう一人、咎人はいるが……
それは二番目だ。
「ねぇ、ティア・シンフィールド?」
「…………」
あまりの状況の急さに呆然としているのか目を見開いたまま、俯いている。
答えないか……
まぁ、返事など、しようと、しなくともどちらでも構わない。
「もし、ユウの事をおもうなら……」
「…………」
まだ、この女に……
ユウの事を思う心があると言うのならば……
私の願いは一つ……
「死んで……」
「……ッ!?」
ティア・シンフィールドは心を抉られて……
綺麗なアメジストのような輝きを持った目はもうない……
目は絶望という色に染まる。
そのまま、ティア・シンフィールドのもとへ駆ける……
「ゴガァァァァ!!」
しかし、そうはさせぬと獣が立ちはだかる。
だが、所詮は一体……
そして、魔法も分かっている。
「グリフィン……やって?」
「ガルゥゥゥゥ!!」
空に浮かび上がった魔法陣から現れるグリフィン。
そして、咆哮……
その破壊力を伴う咆哮は容赦なく獣の身へと降り注ぐ……
そのまま、突撃し肉弾戦に持ち込む。
「それの相手をよろしく。」
「ガアァァァ!!!」
道を阻む者はもういない……
そして、私は到達する。
ティア・シンフィールドは逃げも隠れもしない、ましてや剣を抜く事すらしない……
「さぁ、刃を受け入れなさい……」
ユウはこんな事は望んでいなかった。
ユウの目的はこの女の復讐の対象を自分にすることで生きる為の原動力を与えようと言うのだ。
いざとなれば、自分の命を捧げてまで悪役を演じようとしている。
だが、それでは……ユウが一切救われない……
死したとしても尚、ユウは恨まれ続け、侮辱されるのだ。
生きていようと、国への反逆者、命の恩人を裏切った者……
その肩書を受け入れつづけなければならないのだ。
そんな事が起こってはならない……
ユウは救われるべきだ。
周囲がどうなろうと構わない。
だが、ユウだけは救われなければならない。
そうなれば、答えは簡単だ。
全ての元凶の息の根を止めろ……
そして、剣を振りかざしそのまま振り下ろそうとしたその時……
「くッ!? 何故、邪魔をするの!!」
それを阻んだのは、ニア・フォルティナでもなければ、エドワード・ベルナンドでもない。
ましてや、ダグラスでもない。
黒く輝く翼を持った味方であるはずの烏のような生き物……
「飛鳥!」
(ユウはそんな事を望んでいない!)
飛鳥……
あなたはユウがこの先の道を歩む事を許容すると言うの?
この先……ユウが家畜のような、殺される為に生きる事を許容するの?
周囲に誰も味方がいない、地獄のような人生を送る事を許容するというの!
(それが、ユウの選ぶ道だと言うのなら……)
「役目を忘れた烏に用はないわ。」
渋々と言った様子の声が頭に響く……
それはユウの不幸を許容すると言う事……
それは楽園の者としての役目を忘れたという事だ。
(私と言う存在が生まれた時から、私に、私たちに課せられた役目を忘れた事はありません。私たちの役目はどんな所であろうとユウを幸せにする為に尽くすと言う事……それこそ、どんな未来が待っていようと……)
「…………」
嗚呼、そうなのかもしれない……
飛鳥の言っている事は正しい。
(あなたの役目も同じではないのですか?)
「……そうかもしれない。けれど…………私は、これを許容できない! 私は耐えてきた! ユウも笑顔を絶やす事はなく、不平不満を誰かにぶつける事は無かった。それがどれだけ……それを見ているのがどれだけ辛い事か!!!」
あまりにも痛々しすぎる!
どれだけユウが表面を繕おうと私には全て伝わってきた!!
ユウの感情の全てが私には分かる!
「けれど、私は力を少し貸す事しかできない!! 私にはユウの障害物を排除する為の機会と身体がなかった……ッ! こんな機会は滅多に訪れない! だから、私は今……ユウの為に尽くす!!」
(ッ!? 待って!!)
「強制送還」
静止を求める声も無視して言葉を紡ぐ……
もう邪魔するものは本当に消えた。
これが一番いい選択肢……
これで……
「これで……ユウが救われるッ!!」
振りかざした刃が振り下ろされる。
今度こそは、と振り下ろされた刃……
「……ッ!」
最後の死への恐怖から瞼を閉じるティア……
そして、次の瞬間に訪れる“死”を待った……
これで……止めを刺せる……
しかし……
「えっ……」
「くッ……!! なんで……ッ! ユウ!!」
訪れない“死”の瞬間を不思議に思ったのかティアは目を開く……
振り下ろされた刃はあと少しという所でカタカタと震えていた。
手が震えているのだ。
理由は簡単に理解できた。
身体が、ユウの意思がそれを拒んでいるのだ。
そして、意識を取り返そうとしているから……
身体の主導権はもう私にはない……
よろめくように後ろへ一歩二歩と後退する身体。
神葬霊剣も落とし、額を押さえる。
そして、過剰に使われた身体は悲鳴を上げ、恐ろしい程の負荷が襲いかかる。
「ぐッ……ぐあぁぁぁ!!」
そこで、再び意識が覚醒したにも関わらず……
その一瞬で、もう一度、深い闇へと意識が沈んでいった。




