第7話
まず俺は、自分の魔法をもっと使えるように練習しようと思う。
忠義はどうすれば証明できるかなんてことはわからない。
だから俺の有用性をアピールするしかない。
しかし俺の有用性というとこの魔法ぐらいしか思いつかない。
だから俺はこの魔法を磨く
「と言っても場所をどうするか」
ティアに言われている通りこの魔法はあまり見せない方がいいだろう。
となると誰の目にも留まらない場所で練習することになるが……
森の中…ぐらいしか思いつかない…
どうしたものか……多分すぐ近くなら魔物が来る確率は低くなるだろう。
しかしゼロではない。
まぁ言い出すときりがないのは分かっている。
しかし1歩踏み出す勇気が足りない。
俺は村を見てきたいと言い屋敷を出た。
周辺調査といえば聞こえはいいが実際のところはほとんど息抜きだった。
村に行くと鍛治屋を見つけた。一軒だけ煙突から煙がでていて気になって見るとゴレアス鍛治屋という看板が立て掛けてあった。
様々な武器や防具が置かれていた。
両手剣 片手剣 槍 短槍etc…
フルアーマーからタワーシールドまで
見ていくとふと思った…
「やっぱり銃はないんだな…にしてもボウガンどころか弓も無いな」
店主の趣味かと思っていたら独り言に答える声があった。
「そんなもん今時使う奴なんておるわけないじゃろ!」
声の主は店の中からでてきた。声の主はなんというか
小さかった…
恐らくこの人は小人族なんだろう
声はおっさんなのに物凄く小さかったしかもハンマーを担いでいる。
すごいインパクトだ…
「そうなんですか?」
「当然だろうがバカ野郎!弓も銃も致命傷足りえねぇんだからな毒を塗るか何十発何十本も撃ち込めば一人は殺せるかもしんねぇがな」
どうやらこの世界は銃や弓が効かないレベルまで魔力で強化されているらしい
こっちの人間はまったくもって恐ろしい
「にしても変なこと聞いてくるな?小僧」
小僧と言われても声が明らかにお爺ちゃんレベルの年寄りなのでかあまりショックは受けなかった。
「ちょっと世間知らずなだけですよ。」
「ん?そうなのか…まぁ確かに貴族の坊っちゃんみたいなヒョロヒョロの体つきではあるがな」
ここで1つ言っておくと俺は太っているわけでもなければ筋肉がついていない訳でもない中性的な体格なだけである。
決してそこまでヒョロヒョロではない!はず…
「残念ながら貴族じゃないんですけどね」
「違ぇねぇ貴族様なら護衛や過度な装飾品を纏っているからな」
「ここのティアという名前の領主はどうなんですか?」
周りの視点からのティアはどんな風に映っているのだろうか?
そんな疑問がでた。出来ることなら他の貴族と同じと思われていないことを知らぬまに願っていた。
「ティア様か?あぁあれは別だホントに周りのことを気遣っていて何時も頭を悩ましていやがる。私腹を肥やすようなことに使うための頭は残ってねぇよ」
どうやらティアはそれなりに慕われているようだ。少しホッとした。まぁ評価がアレだが…
「にしてもよく見たらオメェ見ねぇ顔だなぁ?」
「最近来たもので」
すると声のトーンを少し下げて
「そうか…オメェも何か訳ありか?」
「……!」
心臓が跳ね上がるのを感じた。
何故気付いた?
また勘か?もう勘弁してくれ。この世界の住人はものすごく勘がいいとかなのだろうか、もしそうなら俺はこの世界で絶対にポーカーはしない
だが確信めいた物を言葉から感じる。
「どうしてそう思ったんですか?」
俺は努めて平静を装った。
しかしそれは無意味だった。
「なに聞いて欲しくねぇなら聞かねぇよ。だがな?ここに来る奴は大抵何かあった奴だけなんだよ。何故かは知らねぇがな…」
そんなことをいう小人族はどこか遠い目をしていた。
「貴方もそうなんですか?」
「まぁな人様に聞かせるような話じゃねぇよ」
どうやらこの人も同じ訳ありのようだ
根拠がないのに説得力があったのはその為のようだ
「俺はユウって名前です。貴方は?」
「ゴレアスだ」
まぁ予想は出来たけどね
無愛想な人に見えてそうでもない…そんな印象を受ける
「で何しに来たんだ?」
「ちょっと通り掛かったんで見てただけです。もう少し見ててもいいですか?」
「好きにしやがれ」
武器や防具を買うような金はないがいずれよく見ることになるだろうなんたって魔物がでるのだから
今の内にどれ程のものか観察しておきたい
まぁ素人の俺が見ても仕方ないかも知れないが
「武器とか防具で困ったらまた来るといい」
「ありがとうございました!」
ゴレアスさんのもとをあとにすると今度は服を揃えている店を見つけた。
しかし何故、この村には服屋や鍛冶屋があるのだろうか儲かるはずがないのに
不思議に思いながらも服屋を訪れた。
服屋ではまず元の世界のような一般的な洋服は一切無かった。
来たときの感覚がまず違うのだ。
他にはターバンやローブ、ドレスに執事服などが置いてあった。
しかし中には無駄に高性能なものがあって暑さを全く感じないだとか勝手にキズを修復する服だとか…
この世界は技術力の代わりに魔法がその役目を担っていた。
しかし庶民的なものは殆どなく高価なものばかりだった。
ちなみにだが今はこの世界の服を着ている。
ティアからもらったのでありがたく着させてもらっている。
すると店の奥から女性が出てきた
「見慣れない顔ね?どこから来たの?」
「ちょっと遠い所から来ました。」
すると女性は納得した顔をした。
「そう……貴方もなのね。」
そこから先は聞こうとしない。やはりこの村には暗黙の了解のようなものがあるのだろう。
訳ありのような人には詮索はしない…
悲しげな目をしている女性からはどこか期待の色が含まれていたが俺の言葉のあとにその色は褪せていった。
「も、と言うことは貴方も…」
「まぁね大したことじゃないわよ」
しかしその目には哀しみや後悔の色があった。
きっと強がっているのだろう…そうとしか思えない
しかしこれから先は今の俺が踏み込んでいい領域ではない…
「辛気くさくなっちゃったわね。それよりもその服は確かティアに売ったはずなんだけど…」
「あぁティアに貰ったんですよ。」
「なるほどね。それなら納得……ってするわけないでしょ!」
「えっ?」
何かおかしな事を言っただろうか?
「えっ?じゃないわよ!あれでも領主よ?しかも今まで浮いた話も無かったあのティアが男用の服を買っていったから不思議に思ったら彼氏のだったの!?」
「そんな訳ないじゃ無いですか」
何をバカなことを言っているのだろうかこの人は?
今まで一度もモテたことも無い俺が彼氏なんかなワケないのに
「なんでよ?そうとしか思えないでしょ」
「ティアに仕えるためにちょっとした試験を控えてるってだけですよ!」
「そうなの?まぁ頑張ってね。」
「まぁ、って」
「多分大丈夫でしょあの激甘のティアのことだし」
激甘って散々な言われようだな…あんなにクールな見た目なのに皆に本質がバレている…
「そう言えばティアに言われた品をそろそろ持っていかないとね。」
「ん?どんな物を頼まれたんですか?」
「ちょっと特別な代物をね。その代物がマネキンと一緒に入っているせいで持って行きにくくてね。少し待っててもらってるの」
「へぇ~それは大変そうですね」
「もし貴方が試験に受かったら最初の仕事はこれの運搬になるかもね」
そういって物凄くいい笑顔をうかべる
「……なんで凄くいい笑顔なの?」
「なんというか貴方をこき使えると思うと、こう背中にゾクゾク来るものがあると言うか…」
「うぅ…酷い……」
「あぁゴメンゴメン……だけどなんだろうゾクゾクが止まらない」
なんだろうか段々この人が怖くなってきた…
「もう帰りますね?」
「ん?もう少しいても……」
「じゃあさよなら!」
本能的な物がここにいてはダメだと警笛を鳴らしている…
間髪いれず別れを告げてその場を去った。
どうやらこの村には訳ありばかりが集まると言うのは一人が勝手に言っているわけではなさそうだ
でもだからティアはそこまで追求しなかったのか…
普通ならもっと俺の事について聞いていただろう。
だけどしなかった。したくなかった。
ティアはきっととても優しい性格なのだろう…
それなら俺はそのティアの信頼を裏切りたくない。きっと忠義か有用性を示せという課題はきっと俺の事を信じてくれているからこそ止めなかったのだろう。
なら俺はそれに応えたい!
差し当たっての問題は練習場所だが…
森の中にしよう。魔物だってこっちも出してやればいいだけの話だ。
俺は魔物が巣くう森に向かい歩きだした。
村から出て森の中に入った俺は運の良いことに丁度練習にうってつけのスペースを見つけた。
昨日から俺は気になっていることがあった…それは元の世界そしてこっちの世界においても架空の存在である存在を創りだすことができるのかということだ。
まぁ物は試しだ……右手を突きだし目を閉じて思い描く……
「失楽園」
すると紋章が淡い輝きを放ちだし熱を帯びる
そして表れたのは三つの足を持った烏だった。
八咫烏────
日本神話おいて導きの神として信仰され、また太陽の化身ともされた存在だ。
しかしこの八咫烏は神としてや太陽の化身ではない
俺が創りだした俺の想像の中にいるオリジナルの八咫烏なのだ。
もしも神や太陽の化身なんて創りだしたら俺はどうなるのだろう…きっと身体にはとてつもない負荷が掛かって魔力が枯渇することだろう。
しかし俺の想像の八咫烏に出来る事と言えば偵察と道案内程度のものだろう。
しかしそれだけでいいのだ、無駄に負荷が掛かってしまうことを考えればこっちの方がいい
黒い輝きを放つその翼は大きく、ひと度翼を広げればその姿はどこか神々しくもあった…
「凄い綺麗な翼だな…まさに想像が現実になったって感じだ…」
翼を畳みこちらをじっと見つめてくる八咫烏
そう言えば名前はあるのだろうか?もしかして八咫烏が名前になるのか?
しかしそれだと少し味気がない
「名前はあるのか?」
傍目から見れば烏に話しかける頭のおかしな人に見えるかも知れないがこれで伝わるのだからバカに出来ない。
八咫烏はゆっくりと頭を横に振った
どうやら名前は無いようだ…
「俺がつけてもいいのか?」
八咫烏はなんだか嬉しそうに頭を縦に振る
どうやらつけてもいいようだ。
ん~とは言えどうしたものか…
「飛鳥…でどうだ?」
嬉しそうに首を縦に振るのを見る限り気に入ってもらえたようだ。
飛鳥は名前もしっかりとつけたので神として出て来ることはないだろう。飛鳥という神は存在しないしそんな知識もないだから
おかげで俺に掛かる負荷は少なくて済むし魔力を大量に使うこともないだろう。飛鳥は出してもそれほど負荷を感じることはない。ほんの少しダルく感じる程度だ。
取り敢えずこれから周りの偵察をする訳だが、今からやることの間は隙ができてしまう。
だからその間自分を守ってくれる護衛が必要だ。
じゃあアレを出してみようかな
岩でできた体を持つ兵士を強く思い描く…
「失楽園」
すると紋章が淡く輝きを放ち熱を帯びる
目の前に現れたのはゴーレムと呼ばれる巨人だった。まぁ巨人と言えど俺の身体二つ分位の大きさで決して10メートルとか言うほど大きい訳ではない
まぁしかしこのゴーレムがいる限りゴブリンごときでは軽く薙ぎ払えるだろう
しかしやはり八咫烏や狐たちとは違いしっかりと負荷の存在を感じる。
魔力も他よりも消費されている幸運な事にまだ自然に回復する量以上の魔力を常に消費されている訳ではないので創りだす際に使う魔力に気をつければ岩のゴーレムはかなり役にたつだろう
取り敢えず俺はその場で座り集中する。
初めてやることなので集中してやりたい……
もし魔物が来たらゴーレムに守ってもらうという考えだ
今からやろうとしているのは感覚の共有だ
と言っても「失楽園」のような魔法ではない。
厳密には「失楽園」の一部の能力なのだ
それに共有出来るのは視界と思考以外は共有出来ないし思考は相手から送られるものだけだ。
しかしこの視界の共有はかなり役に立つだろう
なので今から取り敢えず訓練として八咫烏の視界を共有して周りを偵察する
しかしこれがなかなか難しい…
なので本で見たやり方を試すことにする。
そのやり方はキーワードをつけるというものだった。しかしどんなキーワードにしたものか…
ここは単純に
「共有化」
すると視界が突如変わる
俺は取り敢えず高くまで飛んでくれと思考を共有というよりテレパシーで伝える
しかし、流石は八咫烏をモデルにしただけはある基礎的な能力はそれなりに高いようだ物凄く速いしかし風を感じ無いので不思議な感じだがここは馴れるしかないか…
飛鳥の視界を共有することでこの辺り一帯の森が見える。村の周辺にも飛んで貰うと村の様子もまるわかりだった。
すると森の中で歩く集団を見かけた。
恐らくこの村の猟師たちだろう…
確かにこの森では魔物も出るが野生の生物はもっといる…
狩りをするのは、当然だろう。また会うことがあれば狩りを教えてもらうとしよう。
魔物と勘違いされ飛鳥が攻撃されれば目も当てられない。
取り敢えず近くの街を探してみることにした。
村から一応道があったのでそれに沿って飛鳥には飛んでもらうことにした。
しばらくして街を見つけたがそれほど大きい街ではなかった。
歩いて行くなら4,5時間程かかるだろう距離だったが馬車が壁で囲まれた街から出るのが見えたので恐らく馬車が街から村に来るだろうその時にでも相乗りさせてもらおう
出入りを繰り返す馬車を見る限りこっちの村にも来るだろう
まぁ来なければ歩くだけだが…
街の様子だが
見える限りの人々はとても活気に満ちあふれていた。
家族を養うため商いに精をだす者たち…
いざという時、身を守る為に武を磨く者たち…
家族の食事の為の食材をそろえている者たち…
一人一人が今この時間を生きていた。
未来ばかりを見て今を疎かにしている訳ではなく、過去を見てばかりで悔んでいる訳でもなく
今を生きていた。
元の世界では見る事のない世界だった。
あの暗くモノクロの世界から自分は今明るく色鮮やかな世界に来たのだと実感した。
この瞬間初めて俺はここは異世界なんだと実感が湧いた。