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第64話

「やっぱり重いッ!」


 頭上で双剣を交差させ振り落とされるグレイブを受け止める。

 そのまま、横に逸らしてそのまま、エインヘリアルへと振るう。

 しかし、ダメージは薄い。

 やはり、致命打が欲しい。

 しかし、攻撃を捌くならばこの双剣が一番……

 攻めるべきか……


「はッ!」


 襲い来る一撃を片手の剣で逸らしつつもう片方の剣を鎧の壊れている部分へ突き出す。

 片手で逸らすという無茶の所為で腕にダメージが蓄積されていくが今は攻める。

 その甲斐があったのかその一撃に怯むエインヘリアル。

 しかし、せめてもの返しのつもりか、蹴りを放ってくる……

 その力は予想以上に大きい物だった。


「ぐッ……!!」


 思わずといった感じで刺した片方の剣を手放してのけぞったその瞬間。

 大上段にグレイブ構え、そのまま振り下ろされる。

 しかし、この一撃を待っていたのだ。


「来たなッ!」


 身体を瞬時に横に逸らし、もう片方の剣を両手で持ちエインヘリアルへ振るう。

 そして、重量を持った両手剣へと変貌を遂げ、鎧ごとエインヘリアルを切り裂く……



[クリア条件が満たされました。]



「ピンチで焦り、その上、相手に止めを刺せると油断したお前の負けだ。」


 身体に剣が刺さったのに満足のいく動きが出来る訳が無い。

 その状態で焦り、大上段からの一撃……

 我ながら、完璧なタイミングだったと思う。

 消えていくエインヘリアルの死体。

 身体から力が抜けて、憑依(エンブレイス)も解けていく……


(お疲れ様。御見事だったよ。)

(ありがとう、なんとか勝てたよ……本当にステラ、ありがとう。今回の勝利もステラあっての結果だよ。)

(そう? やっぱり私って凄いわね!)


 ステラが居ないと俺は弱いからな……

 この感謝の気持ちは忘れたくはない。

 なんたって、恐らく、一生付き合っていく事になるだろう相手だ。

 お互いが気持ちのいい関係が大切だ。


(うんうん、やっぱりユウはいいわね。悪魔の中の話ではね。様々な話があるの。人間は自分の事しか考えない……私たちが力を貸せばそれも悪化していっていつか道具みたいに扱われるって……)

(……それは、多分否定できないと思う。自分はそんな人になるつもりはないけど、悪魔(ステラたち)の力は人にとってかなり魅力的な物だと思う。人はみんな等しく何かの劣等感を抱いていると言うしね。だからってその行為を擁護するつもりはないけど。)

(時々いるのよ? 契約を無理やり切って逃げかえる悪魔も……けどね? その全てと“ユウ”は違う。私は今、誰よりもユウの気持ちを分かるんだ……だから私、ユウの事大好き。)


 嬉しい事を言ってくれる。

 これなら、いい関係を築いていけそうだ。

 どうやら、クリアとみなされたのか俺の身体も消え始める。

 そう言えば、ティアや姉ちゃんたちはもうクリアしたのだろうか?








「本当に慣れないな……少し気持ち悪い。」


 転送されて、英傑の饗宴(ヴァルハラ)に戻ると、疲労と酔いに似た不快感に襲われる。

 まぁ、そんな文句も言っても仕方がない。

 周囲に目を向けると、宙に浮く球体に戦っている光景が映る。

 善戦する人もいれば、苦戦している人いる。

 俺の戦いもこれに映し出されていたのだろう。


「ユウ……良かったです。」

「あぁ、ティアは終わってたの?」

「はい、一瞬で勝負をつけましから。」


 あぁ、なんだかティアの相手のエインヘリアルが可哀想になってきた。

 よほどの事がなければティアの魔法(アーツ)は近接最強といってもおかしくないポテンシャルを秘めている。


「ですが、他にも速攻で勝負をつける人が数人いました。」

「もう、人外魔境と呼んで差し支えないな。」

「人外とは心外です。」

「はは、ゴメンゴメン。」


 しかし、事実……

 アレをすんなり倒せてしまう人物が数人いるというのは脅威だな……

 しかし、これで本選出場は確定した訳だ。


「まぁ、ひとまずは喜ぼうよ。これで本選出場確定だ。」

「そうですね。それじゃあ帰るとしましょう。」

「ちょっと待ちなさいよ! 私たちもいるのよ!」


 そんな声が聞こえ振り向くと姉ちゃんがいた。

 その後ろで少し息切れしているシエルが見える。


「あっ、姉ちゃんも終わってたんだ?」

「悠が先に帰っちゃうと困るからね!」

「はぁ……早く倒してと言われてたから……」

「あはは……姉ちゃんがゴメン。」

「……構わない。それほど手こずらなかった。」


 クールで冷たい印象を周囲に与えるシエル。

 だが、なんだかんだ言ってシエルは義理に篤い。


「あなた、良い根性しているじゃない? 私と悠を引き裂こうだなんて」

「ユウの疲れを考えただけです。」

「……ならいいわ。疑って悪かったわね。」


 一体、2人は何を話しているんだ?

 まぁ、姉ちゃんが納得したような顔をしているから大丈夫だとはおもうけど……

 そう言えば……

 この中で一番遅かったのって俺だよね?

 やっぱり、俺って最弱なのかな?

 そんな事を考えながら、談笑しつつ屋敷へと帰る。








「おいユウ、少し付き合え。」

「ん? 突然どうして?」


 本を取りに向かう途中、ダグラスに呼びとめられる。

 しかし、ベットで寝てなくて大丈夫なのかこの男は……

 まぁ、なんだかんだ言っても結構、体頑丈だしな……


「男同士の付き合いと言うやつだ。察しろ。」

「あんたには察しろなんて言われたくない。大体、もう夜だぞ?」

「うだうだうるさいな。担いでいくぞ!」

「分かった。分かったから! どこに行くんだ?」

「酒場だ。」


 本当なら、この時点で断っていたかもしれない。

 だけど、どこか様子がおかしい。

 この男がこんな顔をするとはな……


「あぁ、分かった。少し待っててくれ。」

「外で待っているぞ。」


 そう言って外套を取りに部屋へ戻る。

 しかし、ダグラスが何か思い悩んでいるなんて……

 正直、頭の中は筋肉でできていて物事を考えるとは思わなかった。

 外套を羽織り、外へと繰り出す。


「ついてこい。一番のところへ案内してやる。」

「一番のところか……ダグラスはそういうのよく行くの?」

「行くぞ、他の兵達と親交を深めるだったり、繋がりを増やす事も出来る。それなりに有意義だぞ?」


 自分は体験した事も企画した事もない。

 だが、言われてみればそうかもしれない。

 命を預けるかもしれない仲間との親交を深めるというのは重要になってくるかもしれない。


「それじゃあ、これからの参考にさせてもらおうかな。その手の店は当然知らないし。」

「あまり広めるなよ? ここはあまり人が入らない。」

「ん? ここ?」

「あぁ、そうだ。」


 どうやら、俺の想像とは裏腹に静かな感じだ。

 もっと、賑やかな場所に連れてこられるのかと思ったが……

 しかも、ここはかなり表の通りから離れている。

 ダグラスがいたから警戒して出てこなかったものの、もし、俺が一人なら鴨が来たとばかりに襲われただろう。

 それほどにこちらの様子を窺う者がいた。

 ほとんどは素人と思われるが……


「あまりキョロキョロするな……見た目と相まって鴨にしか見えないぞ。」

「はぁ、了解。」

「じゃあ、入るぞ。」


 そのまま、店へ入ると照明が少なく暗い感じだった。

 所々に居るお客と思われし人も静かだ。

 正直、ここが一番というのはかなり意外だ。

 そのままカウンターに腰かけるダグラス。

 それに倣い俺も隣に腰掛ける。

 すると、店主と思しき男が近づいてくる。


「……久しぶりだなダグラス。隣のは英傑の饗宴(ヴァルハラ)に出ていたやつじゃないか。」

「あぁ、そうだ。俺にはいつものを頼む。コイツには少し軽いのを」

「酒はあまり飲まないのか?」

「あぁ、あまり飲まない。」

「冗談でもあまりキツイのはやめろよ? 今日は愚痴を聞かせるんだ。すぐに倒れられると困るんだよ。」


 あまり飲まないと言ったが……

 真っ赤な嘘だ。

 だが、ここは飲むと言っておいた方がいいかと思った。

 しかし、ダグラスの愚痴か……

 それなら、酔った方がいいかもしれないな。


「で、こんな所まで来てなんだよ? 話なら屋敷でも出来ただろう?」

「言っただろ。愚痴を聞かせる為だ。」

「まぁ、いい。ここまで来たんだから聞こうじゃないか。とことん付き合ってやる。」


 ダグラスの愚痴に少し興味がある。

 コイツは良くも悪くもよく考えない。

 だから、不満をため込む事なんてない男だと思っていた。


「まぁ、取り敢えずは最初に一つ……真剣な話をしておこう。」

「真剣な話ねぇ……」

「ユウ、お前は今の内に屋敷から去れ。」

「おいおい、それは穏やかじゃないぞ?」

「すまん、言い方が悪かった。今の内に出ていくことを勧める。」

「どっちも同じだ。」


 命令が勧告に変わっただけだ。

 そんな話をするというのであれば……

 俺だって穏やかではいられない。

 いざとなれば刃を交える事だって厭わない。


「ティアに傍に居ると言った。今更それを曲げるつもりはない。」

「どうしてもか?」

「余程の事が無い限り、俺はティアの傍を離れない。」

「じゃあ、俺が剣を抜くと言ってもか?」


 突如、ダグラスから放たれる殺気。

 もはや、既になんどか受けたこの殺気も相手が違えば感じ方も違う。

 だが……


「その程度の事。余程の事に含まれない。」


 お返しとばかりに殺気を返す。

 剣を向けられるのならば、剣を持って返事をしよう。

 そうしなければ、この男には通じない事もある。


 何故、古来より男と言うものは斯くも面倒なのか……

 しかし、斯く言う俺も男。

 返事の仕方はよくわかっている。

 次の瞬間にも憑依(エンブレイス)を発動して戦える臨戦態勢。

 座していても戦いにすぐに移れる。

 もし、血で血を洗う戦いになろうとも後悔はしない。


「言ってくれるな……」


 膨れ上がる殺気、

 一触即発の冷戦は終わりを迎えようとしていた。

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