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第63話

「さぁ~~行くぞ! 今日は予選後半だッ!! そして、この予選後半を突破した者達には仮面舞踏会(マスカレイド)への出席のチャンスがあるぞ!!」

「三日前に行われた発表の時は湧きあがりましたね。いまから出場させてくれないかという人が多数いて運営の方はてんてこ舞いでしたよ。この場を通してもう一度言わせてもらうと、貴族の方であろうと途中参加はお断りさせていただきます。この英傑の饗宴(ヴァルハラ)の性質上、そう言う行為はまず出来ないのであしからず。」


 無茶を言う人もいたものだ。

 しかし、それほどの希望者がいる中、俺はティアについて行けるのだから幸運だよな……

 まぁ、悪くは思わないでくれ。


「ユウ、こちらで衣装は用意しました。ミチや劇団員の方々からも絶賛のものとなっているので安心してください。」

「うーん、ゴメンね。自分じゃどうすればいいか分からなくて……」

「いえ、衣装選びに立ち会っていた者達はとても喜んでいたそうですから大丈夫でしょう。」


 何故だ?衣装選びのどこに楽しみがあるんだ?

 正直、衣服など身だしなみには頓着しない為……

 その手の知識など感性はほとんどない。

 それ故だろうか、衣装選びに抱く楽しみが理解できない。


「まぁ、期待しておくよ。」

「はい、期待してください。」


 しかし、俺が一番気になっているのは今日の戦いだ。

 形式も不明、相手も不明……

 状況にあった計画を事前に立てる事は不可能。

 それ故に即時に、何か策を立てなければならない。


「みんなも気になっていると思う今回の対戦相手は……ッ! ずばり、エインヘリアルだッ!!」

「エインヘリアル? なにそれ?」

「魔物の名前です。とはいえ、英魂……と呼ばれる事もあるのですが……」


 英魂なんて呼ばれ方してるのに魔物なのかよ……

 しかし、魔物が相手とは意表を突かれた……

 だが、大丈夫なのだろうか?

 こんな内容なら全員が予選を通過する可能性もあるのに……

 まぁ、物の考える事なんて分かるはずもないか……


「しかし、普通のエインヘリアルとは一味も二味も違うのが英傑の饗宴(ヴァルハラ)! もし、普通のエインヘリアルと英傑の饗宴(ヴァルハラ)のエインヘリアルを戦わせれば、英傑の饗宴(ヴァルハラ)のエインヘリアルが圧倒的勝利を収める事は間違いないです。」

「簡単だと思って挑めば痛い目に遭うので充分に留意してほしいですね。」


 そんな事を前で言っているのにも関わらず……

 周囲からは、「舐めているのか!」「今回は余裕だな」と言った呟きが漏れている。

 エインヘリアル……

 それが一体、どのような強さなのかは分からないが……

 もしかすると、英傑の饗宴(ヴァルハラ)の中では強くなる……

 もしくは、本領を発揮する可能性がある。


「エインヘリアルって強いの?」

「中の上と言ったあたりでしょうか?」


 ティアは油断もせず、怯えもしていない。

 まさに、万全の状態だった。

 あの話以降も特に変わった素振りは見せていない。

 どうやら、あの話を引きずる気はないようだ。


「中の上を相手に喜ぶという事はそれなりの人たちばかりが残っているんだね。」

「どうでしょうか? 自分を過剰評価する者は多いですから。」

「予選は完全な篩い落としって訳だね。エインヘリアルより強くなければ本選への出場資格は無いと……」


 どう言う形式で戦うことになるのだろうか?

 他にも何か特殊なルールがあると、確かに気を引き締めねばならないが……


「今回のルールは至ってシンプルだッ! エインヘリアルを一人で倒してもらう! ペアのどちらかが、失敗すれば、その時点でそのペアは失格!」


 …………そう来るのか……

 一人一人の個人の実力を測るのか……

 正直、2人ならば余裕だろうと思っていただけに衝撃が大きい。


「ゴメン。一気に不安になってきた。」

「大丈夫ですよ。ユウは強いです。」


 こんな事言われたら……

 頑張るしかないじゃないか……

 あぁ、俺が負ければティアも一緒に倒れるんだ……

 責任重大だ。

 気合を入れろ、覚悟を決めろ!


「それでは、前半と同じく英傑の饗宴(ヴァルハラ)飛ばされます。行きますよ! 転送開始!」

「健闘を祈ります。」

「うん、ティアも頑張って」


 その声を最後に喧騒や光が消える。

 全ての感覚器官が何も捉える事が来ない……

 そんな気持ちの悪い状態は一瞬。

 次の瞬間には、見た事のない空間が広がっていた。


「何だこれは……」


 見渡す限り平らな地面が地平線の彼方まで伸びていた。

 そして、そこから大きな空が広がっている。

 異常だ。

 何一つ、建造物が……

 人工物がないのだ。

 遮蔽物さえも存在しない……


「逃げ隠れする事を許さないって訳か……ってあれは?」


 逃げ隠れさせないという意思を感じたその時……

 空から、何かが降りてくるのだ。

 大きく羽を生やし、西洋風の全身鎧を見に纏い、手にはグレイブを持っている。

 その全てが純白に染まっている。

 その姿はまるで……


(天使ッ……!!)


 まるで俺の声を代弁するかのようなタイミングで声をだしたステラ。

 その声には焦燥が混じっていた。


(エインヘリアルッ!? なんでこんなに力を持った個体が……って! ここは英傑の饗宴(ヴァルハラ)ね!)

(どうしたの?)

(数は……なんだ一体か……良かった~)


 ダメだ。

 話が通じないよ。

 一体何をそんなに焦っているのだ?

 相手は天使のようだけど魔物だって言ってたし……


(顕現したら、人は神が相手でも魔物と言うと思うよ? 人でその見分けがつくものはそうそう居ないでしょうね。)

(ってことは……これは本物の天使? ステラの早とちりじゃなくて?)

(ちょっと、それは酷くない? エインヘリアルは本物の天使が顕現したものだよ。)


 これが天使?

 だが、悪魔の天敵、神の使いと呼ぶにはいささか無理があると思う。

 そこまで、無茶苦茶な力を持っているとは思えない。

 確かに強敵であるのは確かだ。

 しかし、絶対に勝てないかと言われれば別だ。


(悪魔も天使も本体はそれほど強くはないよ。問題は、それが何かに宿った場合。私がエインヘリアルに驚いたのは、通常と違う“段違いの力”と“複数体いる”と思ったからだよ。一般的なエインヘリアルは堕ちた奴らなの……ここまでの力を持っているとなると二つが考えられるの。)


 通常とはやはり、段違いなのか……

 どこから見ても“中の上”とは思えないのだ。

 確かに、これが複数現れると困る。


(神が何かの目的を持ち、天より軍勢を下ろしたか……聖遺物により力を増幅させたか……私たち悪魔の見解としては、後者は非常に稀で、一体みたら百はいると思えが基本。)


 酷い言われようだな……

 まぁ、確かに百も出てこられれば俺もヤバい。

 だが、相手は単体。

 これならば……


(充分に注意してよ? これでも相手は天使の端くれなんだからね。)

(じゃあ、頼むよ。対価は怒りと喜びで)

(ん、頑張って。)


 そろそろ、相手も動き出しそうだ。

 こちらも準備をしないと……

 相手は鎧を纏っている為、祢々切丸は控えるとしよう。

 鎧ごと切り裂くのも恐らく可能なのだが……

 不安が残る……

 ここは…………


失楽園(パラダイスロスト)―――憑依(エンブレイス) 神葬霊剣(バチカル)


 黄金のオーラを放つ片手用の直剣……

 こいつも既に実戦に使えるレベルに達している。

 エインヘリアルもグレイブの剣の様な形状をしている穂先をこちらへ向ける。

 一触即発……

 しかし、ずっと睨みあうつもりはない。

 相手は鎧を身につけた魔物だ。

 一々、表情から隙をつくなんて出来ない。

 それに、こっちにはリミットがある。


「はッ!」


 鋭い呼吸をし、一直線に間合いを詰めに行く……

 まずは、相手の力を測る。

 グレイブの間合いにまで接近。

 くるりと回るようにしてグレイブが横薙ぎに振るわれる。

 長柄のポールウェポンと片手用に作られた剣では間合いが圧倒的に違う……

 そして、重量も違う……

 しかし、俺の神葬霊剣(バチカル)の間合いと重量ははまさに、変幻自在。

 相手の動作に合わせ、こちらも変化をさせつつ振るう。

 本当ならば、俺はぶつかる位置、重量から吹き飛ばされていたかもしれない。

 しかし、片手用直剣はツヴァイヘンダーへと姿を変える。

 そして、火花を散らす……


「くッ!? こいつ、馬鹿力だな!」


 攻撃は相殺されどちらも武器が弾かれる。

 普通、あの速度で振るわれたツヴァイヘンダーを喰らえば武器と骨を粉砕出来てもおかしくないぞ!

 その一撃のぶつかり合いで小さな衝撃波が起こる程だったのだぞ?

 だが、瞬間的な威力で相殺と言う事は……

 押し切られる!

 咄嗟に片手用直剣に戻し、跳躍……

 足元を過ぎ去るグレイブ。

 当たっていたら今頃ミンチだな……


 しかし、大ぶりの一撃を躱したのだ。

 これはチャンスだ。

 そのまま、一撃を……


「ガハッ!?」


 放つ事は出来なかった。

 瞬時に武器を持つ手を切り替えて穂先とは逆の柄の先で突かれる……

 腹部へのクリーンヒット……

 その突かれた勢いを利用しつつ後ろへ飛び退く。

 その判断は正解だった。

 もしあそこでのけぞっていればそのまま穂先の部分で切り裂かれていた。


「完全に手慣れてやがる……」


 まるで畳みかけるかの様にこちらへ間合いを詰めてくる。

 太腿の辺りを狙った突きが放たれる。

 相殺は難しいだろうし、剣で受け止めるのも難しいだろう。

 だが、すかさず剣で軌道を逸らしてカウンター気味に袈裟がけに一撃……

 しかし、体勢を少し崩すまでにしか至らない。

 やはり、容易く斬り裂くのは難しいか……

 そのまま、体当たりをして体勢を崩させる。

 そして、片手用直剣を槍へ変化させる。


「これならッ!!」


 一点に集中する突きならば……

 鎧の中心へ綺麗に決まった突き……

 そのまま、エインヘリアルは突きの衝撃を利用し、羽も使い……

 先ほどの俺と同じように後ろに全力で跳ぶ事で後方へ力を逃がす。

 その所為で本体にダメージがどれほど入ったかは分からないが……

 あの突きは鎧を砕いた。


「貫けない所がまだ未熟だな……今度、ポールウェポンも鍛えないと……まぁ、鎧には衝撃が効くだろうから結果オーライか?」

(大丈夫? 戦いが始まってからさらにエインヘリアルの力が増したけど……)


 なんで力が増したんだ……?

 まぁ、いい……

 こっちもまだ戦えるし、相手にもそれなりのダメージが入った。

 地道に削って行けば……


(……大丈夫。)

(それと、アイツはダメージをしばらくすると回復するから……)

(それを早く言ってくれッ!!)


 アイツはそんなことまでできるのか!?

 無茶苦茶だろう……

 嘆きの声を心であげつつも二回目の突撃を敢行した。


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