第6話
「…んっ、ん~」
目を覚ますと元の世界…なんて事はなく未だに見慣れない部屋で普通に目覚めた。
それなりに遅い時間に寝たというのに朝は早く起きれた。
昨日、寝る前に適当に屋敷を案内されていたのでその時の記憶を思いだし身だしなみを整えキッチンに行くことにした。
サラさんの手伝いでもしようかなと思いキッチンに来たのだがサラさんは起きていて殆ど朝御飯も出来ていた。
どうやら今日の朝ご飯は目玉焼きやベーコンなどシンプルな物のようだ。
「どうかしましたか?」
「いや、手伝えることは無いかと思ったんだけどさ」
「では、ティア様を呼んでくれますか?外で鍛練に励んでいると思うので」
どうやら俺が最後まで寝ていたらしい…正直なところ結構早起きな方だと思っていたんだけど…
ちょっとショックを受けながらもティアのもとへ行くことにした。
白銀に輝く剣を振るティアがいた。
剣術なんて素人もいいとこの俺にはティアが凄いのか、もしくは違うのかさえ分からない。
だけど……
呼吸を忘れる程に綺麗だった。違和感が全くなくて正に流れるような動作……というより“舞”と呼んだ方が相応しいだろう。それにティアの凛とした風貌が合わさり俺の視線を一瞬にして釘付けにし離すことを許さなかった。
やがて一連の動きが終わったのか剣を腰の鞘に収めこちらを向く
「どうかしましたか?」
「……あっ…ゴメンあまりにも綺麗で見惚れてた…」
本心からの言葉だった。世辞や下心の全くない事実だった。
彼女はさっきまで激しく動いていて顔がほんのり赤かったのをさらに赤くし俯く。
「いっいえ…その…なんというか…ありがとうございます。」
どこかティアの様子がおかしい…いつもの冷静な口調はどこかへ消えていた。
調子でも悪いのだろうか?
「ん?……顔赤いよ?休んだ方がいいんじゃない?」
「そ、そうかもしれません…」
「あっそうだサラさんがご飯できたってさ丁度いいしご飯でも食べようよ。」
「そうさせてもらいます…」
そう言うとささっと屋敷の中に入っていった。
何か悪いことしたか?と思いながらも自分も屋敷のなかに入ることにした。
屋敷に戻り食事を終えたあと落ち着いた様子のティアに本は無いのか?と思い聞いたところ。書斎にあるということなので書斎に行くことにした。
書斎にはそれなりに本があり、めぼしいものを手当たりしだい読み漁った。
当然この世界の常識や歴史なども調べることは調べた。
まぁ一番目を惹いたのはこの世界での神話や魔物の情報などだったが。
この世界…というかこの国のことについてだが名前はフラディアス公国というらしい
驚きなのがこの国では人自体が少ないらしい
大公はなんと吸血種だし大公の次に権力を持っている公爵位の五家は獣人種、小人種、森人種、吸血種、竜人種のようになっていて強い権力をもつ人間は殆どいない。
なので人は大抵、普人主義の国の方に集まっている。
フラディアスは人を特別差別している訳ではないがやはり侮られていることに変わりはなかった。
魔力のあるこの世界では恐らく身体能力に影響が出ている。もしあっちの世界に戻ればオリンピックで新記録は立てまくること間違いなしだ。
恐らく俺もこちらに来て魔力というものが宿っているはずだ。
そうでもなけりゃゴブリンなんか倒せないし魔法だって使えないはずだ。
魔力についてだがやはり個人差があるそれと同時に種族によって魔力の量も違う特に吸血種や森人種などは魔力の量が多い、逆に獣人種はそれほど多くの魔力を持たない。
しかし、獣人種は多くの魔力を持つ必要がなかった。身体能力が優れていたからだ。
身体能力は魔力をどれだけ体内で効率良く循環できるかどうかによって決まる。獣人種はその魔力を循環させる能力が優れていた為に多くの魔力を持たなかった。
森人種は獣人種ほど効率良く体内で魔力を循環することができなかった。だから多くの魔力を持つ必要があった。
吸血種は森人種と獣人種の両方の強みである魔力の量と魔力を循環させる能力を手にいれ不老不死の命を手に入れた。しかし強すぎるその力故に神の不興を買い太陽に照らされている間は呪いの影響を受けるという枷を付けられた。
小人種は多くの魔力も持たずそれほど魔力を効率良く循環させることができない変わりに物づくりにおいて優れている。小人種の作る武器や防具はかなり優れていると評判である。
竜人種はあらゆる面に於いて他種族と同等以上の能力をもっている。しかし絶対的に少なく何か悪い事があればすぐ滅びてもおかしくないのではないかと言われている。
このように種族の殆どが個の能力で突出している部分があるのだが精々人間の優れているところと言えば数だけ…それも獣人種ともうすぐで並ぶのではないかと思えるような数だ。
人間という種族はいわゆる他種族の進化の過程の1つではないかという説もでている。
しかし、種族と言うのはあくまでも一つの指標であり、種族に関係なくこの絶対的とも思える先天的な性能差さえも覆すような要素がある。
魔法である…
強力な魔法を使う者はそれだけで強者たりえる資格を手にいれる。
その時点でその者はどんな種族であろうと関係はなくなる。
獣人種が近接戦を行わず森人種に勝つこともあれば
人が吸血種に圧勝することもあり得る。
それだけ強力な魔法というのは有利なのだ。
数多くの英雄譚がこの世界にはあるがそのなかには絶対と言ってもおかしくないほど強力な魔法が登場する。
魔法についてだが
操作系
現象系
召喚系
創造系
特殊系
に分類される。
俺の魔法は恐らく召喚系だろう。
魔法を使っている内に多方面に使えるようになったりすることもあるらしいが殆ど確認されていない。
大抵は使っているうちに元の魔法が強化されていくだけである。俺の魔法はどのように強化されていくのかと少しドキドキもする。
大抵の人たちは操作系なら
水や土などを操るなどの力を使い
現象系なら
火や雷、風などを起こしたりする。
召喚系は
動物を呼び出したりする力を使い
創造系は
突然岩や水などを作ったりする。
特殊系には普通がまず無い為にあまり説明はない。
こんな感じだが時に異常なほど強い魔法がでてくる。例えば操作系なら絶対服従の命令をだしたりなどただでさえ元の世界なら常識を嘲笑うかのような事ができるこの世界の人でさえ常識を疑う魔法がでてくる。
この書斎で調べた限りフラディアス公国には五人ほどそんなやつらがいるらしい。
名を超越者達の宴…この本が古いものなのでこれがどこまで正しいかは分からないが今も存在はしているはずだ。
しかも、国家機密でガチガチに固められていて存在理由から活動目的まで秘密…
できるならそんなおっかない人たちとは出会いたくない所である…
他にもティアの昔を自分なりに推測してみたのだが
当時のシンフィールド家の爵位は知らないが恐らく侯爵ではないかと思っている。
最高権力者である大公が敗戦の責を押しつけるなんてわざわざそんなまわりくどい手を使うとは思えない。
となると、公爵以下の地位の者による謀と思って間違いないだろう。
そしてもとよりシンフィールド家の爵位が低ければ爵位を落とされる以前にもっと思い罰があるだろうし…
なので俺は公爵か侯爵ではないかと思っている。
このことについては仕える者としてあとで詳しく聞いておきたい。しかし、話してくれなかったらその場合は……うん、話してくれるその時まで待つことにしよう。
あと宗教のことについてもそれなりに分かった。
主な宗教は、多神信仰、唯一神信仰、悪魔信仰だった。
この中で悪魔信仰だがなんだか危なそうな宗教かと言えばそうでもなく本を見る限りでは普通に活動をしているため、名前ほど凶悪ではないと思う。
それにしっかりと国に活動許可まで貰っている。
この信仰をしている人の中には悪魔に助けられたという人までいる。
残念ながらこの信仰については詳しく書かれていない。
それに実際のところ未だに悪魔の証明はされていない。
いるのかいないのかは謎だが悪魔信仰をしている人たちは口を合わせてこう言うらしい
悪魔は存在している。
唯一神信仰はテリオスと呼ばれる神を唯一神であると崇めそれ以外に神と呼ばれるものの存在は神より下の存在だと言い
悪魔は滅するべき存在と言っている他の信仰と対立しているが過激なことは今のところ行われてはいないが少し注意した方がいいのではないかと心に留めておく。
問題は多神信仰なのだが…
別に過激な訳ではない…しかし、あまりにもおかしいのだ。もとの世界の宗教を集めたような感じなのだ。この宗教にまつわる神話の殆どがどこか聞き覚えのある神話なのだ。
神の名前だってところどころが聞いたことのある名前なのだ。しかもその多神信仰はだんだんと枝分かれしつつあるのだ。元の世界でも宗教というのは色々と枝分かれしてあのような多様な宗教があるのだ。
多神信仰なかでも最近関わった物がある。
そう聖十字教だ。
これからさきも自分にこの宗教は関わるんじゃないかと邪推せずにはいられない。
俺はどちらかと言うと神様のことは信じていない
神様がいればいいなと思うことがあったり神話を楽しむことはあるが俺にとって歴史を紡いできたのは神様のお蔭ではなく先人達の智恵や努力が実り紡がれているのだと思っている。
少し夢見がちな考えかもしれないが
そうな感じで考えを整理していると声が掛かる
「物凄い量を読みますね~」
声の主はサラさんだった。サラさんは机の上に山のように積み重ねられている本を見て思わずといった感じで驚いていた。
「最低限の知識だけをつけようとして読んでいたら思わずあれもこれもと言った感じで知りたいことが増えてしまって挙げ句の果てには物語にまで手を伸ばしていました…」
「にしても凄いですね。それもまた1つの才能ですよ!」
「……っ、ありがとうございます!」
褒められたのは久しぶりだ。それに俺を褒めてくれたのは今まで姉ちゃんだけだった。
「そんなに喜ばなくても…それよりティア様が呼んでいますよ。まったくこの本はどうするんですか…」
「すいません…」
ううっ褒められてそうそうに失態が明らかになった。
「仕方ないですね。今度からは気をつけてくださいね。私が片付けておきますから。ティア様を待たせてはいけませんよ?」
「ありがとうございます!」
サラさんに少し怒られながらも言われた通りティアがいる部屋に向かおうとすると…
「あっ…あぁぁぁ!」
後ろの書斎から何か崩れ落ちる音がした。
ティアの話が早く終わったら手伝いに行こうと思いながらもティアの部屋に向かった。
しかしティアは何故、俺を呼んでいるのだろうか?
そんなことを考えながらもティアの仕事部屋に着いた俺はドアをノックする。
「ユウか?入ってくれ」
そう言われドアを開けたその瞬間、剣が俺の喉に突き付けられていた…動きが殆ど見えなかった…微かに残像が見えた程度だった。
「動くな!」
「……!」
剣を突き付けている人を見るとそこには獣人種と呼ばれる種族の特徴である獣と人が混ざったようなおっちゃんがいた。
というか訳がわからない何なんだこのおっさんはいきなり剣突き付けるとか
「何者だ?」
尚も剣を突き付けたままそう問う男は猫の特徴を持っている獣人種の中でも猫人(ケットシ―)の特徴と一致する。
というか俺が聞きたいわ誰だよあんた
「……ユウって者ですが…」
「聞いたことのない名だな…取り敢えず武器を出せ」
「いや持ってないですけど…というかさっき名前呼んでましたよね!」
「お前は武器を持たずに暗殺に来たのか?そんな嘘俺でもわかるぞ」
「いやいや持ってないですから…ってか暗殺!?誰が誰を?」
解せぬとばかりに不思議そうな顔をしているがこっちの方が不思議で仕方ない。
というかティアは何故俺を呼んだんだ?もしかして部屋を間違えた?いやだけどさっき入ってくれって言ってたよな?
とにかくどうにかしないと…取り敢えず殺そうとか思われたら困るなこの人の頭の中の大半が筋肉っぽいし…
すると、
「……剣を下ろしなさいダグラス、彼は暗殺者なんかじゃありません。もしかして寝ていたのですか?」
絶対零度の如き冷たさをもった言葉がおっちゃんの後ろから聞こえる。
気づくと剣がおっちゃんの首に添えられていた。
おっちゃんとは次元が違った。そこにあることにティアの声が聞こえるまで気づけなかった。
「分かった…分かったから剣を下ろしてれお嬢」
そう言うとおっちゃんは剣を鞘に納め後ろの声の主ティアに従う。
「なんどもいっていますが、お嬢ではありません。ティアでいいです。それにユウが怪我でもしたらどうするんですか。」
「だけど部外者が入ってきたら普通敵と思うだろ」
「さっき自分の名前を言っていたでしょう。」
「ん?じゃあこいつがそのティアの見込んだ男か?」
「そうです。そこは聞いていたのですね。」
「こんなヒョロヒョロで女々しい顔した子供がか?」
「そうです。取り敢えず話を戻しましょう。……?どうしたんですか?ユウ」
俺は部屋の隅で膝を抱いていた。
「そりゃ姉ちゃんにも俺は男なのに可愛いとか言われたり女装させられかけたりよく子供に間違えられたりするけど…」
「悪かったな坊主、だがまだまだ子供だろ?」
「16なんだけど…」
「ユウ今なんて?」
「おいおい坊主いきなり冗談きついぜ」
この世界では15で成人と同じ扱いを受けるのである。つまり俺は充分成人として見られるはずなんだが
ダグラスには冗談だと思われているし
いつも無表情なはずのティアの顔には微かに驚きの色が含まれていた。
ティアの表情の微かな変化もわかるようになったから気付けたのかそれだけ予想外だったのか
後者では無いことを祈る
「どうせ俺は童顔ですよ…」
「……すいませんでした。」
「……ほんとすまんかった。」
俺の様子を見てコンプレックスを察したのか二人は素直に謝った
「いや俺の方が悪いんですよ。童顔って分かってるのにいちいちいじける俺が…」
そのあと数分ティアとダグラスが必死に慰めた結果
なんとか和解?した。
「取り敢えず話を戻しましょう。こっちがユウ、倒れているところを拾いました。そしてこっちがダグラス、私の所の兵士を束ねています。」
「坊主よろしくな!」
「まぁ、よろしくお願いします…」
その時ドアが開けられ若い男が叫ぶ
「私は反対です!そんな素性の知れぬものなどを引き込むなんて!」
突然入ってきた男に俺は驚くがティアやダグラスはまるで来ていたのを知っていたかのように驚くことなく対応する
というかダグラスが剣は抜かなかったな?俺の時はすぐ抜いたのに
しかし、話は俺の意思など気にせず進む
「しかしゲイル、お嬢の目は確かだ。今までお嬢が見込んだ奴らに間違いはなかった。」
「確かにティア様の人を見る目は確かです。しかし今回もそうとは限りません!」
「ゲイル、私が責任を持ちます。彼はきっと……」
このままでは話が進まないと思い発言しようとするが
「あの…」
「ティア様は甘過ぎます!こんな子供とは言え侮ってはいけません!」
「子供…」
「あっ…」
ティアはNGワードに気づいたらしいがもう遅い
「どうせ子供ですよ。どうせ…」
しかしゲイルとダグラスは気づかない。
場は混乱を極めた
突然入ってきた頭に血が昇っている男
それにに反論するおっさん猫人
部屋の隅でいじける少年?
ここぞというときにどうすればいいかオロオロする領主
「それに坊主は俺の剣に反応することもできなかったんだぞ?」
「そう思わせる為の演技なら?」
「ぐぬぅ…」
「ティア様どうかご再考を!」
話はゲイルと呼ばれる男の乱入によりさらに荒れる一方しかしそこでもう一人のある人物がはいることにより一瞬で変わる
「……なにをしているんですか?ダグラスさんゲイルさん……」
「……!すいませんでした!」
入って来たのはサラさんだった。何故かその声を聞くと背筋になにか冷たいものが走る
あの癒しオーラを発するドジっ子が今では後ろにうっすらと般若を映すレベルで怒っている…
サラさんの言葉にはゲイルさんもダグラスさんも敵わないらしい
ゲイルさんは物凄い早さで謝罪をしダグラスさんに至っては身体が震えていた
というかサラさん俺も怖いです。正直子供うんぬんの話も吹き飛んでしまうほどに
落ち着きを取り戻したティアがゲイルさんの紹介をしてくれた
「ユウ、この人はゲイル。ダグラスの部隊の参謀担当をしてもらっています。」
「先程はお恥ずかしいところをお見せしました。参謀担当のゲイルです。」
「ユウです。倒れていたところをティアに拾われました。」
「ティア様先程までの言葉に嘘はありません。どうかご再考を」
まぁティアのことを本気で気遣っているのだろう。さっきまでもその必死さ故にというのであれば納得がいくし尊敬できる。
それをわかっているティアはどうするべき悩んでいるとダグラスが案を出す。
「じゃあ…坊主、忠義もしくは自分の有用性をティアに示せ。ゲイル、お前もこれなら文句は無いだろう」
「はい、その時は自分も喜んで仲間に迎えます。信頼できる新しい仲間というのが増えるのは歓迎すべきことですし」
「……でも、どうすればいいんですか?」
「そんなのは自分で考えろ」
無茶だ!どうすれば忠義を示せるの?どうすれば使えないものを使えると証明できるの?
皆にはそれこそ言っていないが俺は戦いとか主従関係とは無縁の生活を送っていたのだそんなこと言われても困る。
俺は祈るような目でティアに助けを求めたが…
「すいません。こうなったら聞かないのです。」
「そんな…」
「期限は1週間だ。それ以降は失格とする」
なんだかんだで期限まで決めるダグラス
よし合格する気がしないがもし上手く行ったらこのおっさん絶対殴ってやる。
しかしゲイルの信頼できないものを仲間にするのには反対という言い分はもっともだ。
しかしどうすればこっちに忠義があると証明できるか…少なくとも反抗の意がないことは証明したい。
「取り敢えず今は、私にとってユウは大切な客人ですから。」
「そうだな、俺が言うのもなんだがゆっくりしていってくれ。」
「そうさせてもらいます…」
どうやら波乱に満ちた一週間になりそうだ。
まぁそんな時間も悪くは無いかも知れない