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第59話

「アイツ! とんでもないもの置いてきやがった!」

「こんな置き土産をされるとは……詰めが甘かったです。」

「詰めが甘いとか、今は反省しなくていいからとにかく走ろ!?」


 今、俺とティアは巨大な岩に追い掛けまわされていた。

 あの最後に残したあの魔法(アーツ)は巨大な岩を生み出した。

 当然、それだけで終わるはずもなく……


「あの岩、曲がっても追い掛けてくる!」

「こんな転がり方をさせる事が出来るとは……中々にやりますね。」

「だから! 相手の評価とかしてる場合じゃないよ! 今は走る事かこの危機を脱する事だけに集中して!?」


 曲がり角でも的確に追い掛けてくる。

 ずっと、ティアと走っているが潰れてくれる様子は一切ない。

 すると、曲がり角を曲がった時に敵の姿を発見する。


「おっ? 敵か? 腕が鳴るな……って! なんだよそれ!?」

「バカ! こっちに来るんじゃねぇ!」

「言うのは勝手だが大人しく引き返すと思うか!」

「くっそ! ふざけんなよ!」


 背後に迫る巨大な岩に気付くなり戦闘態勢を解き、同じ方向へ逃走を開始する。

 もし、戦闘なんて始めようものなら岩に轢かれる。

 そのくらいは簡単に理解できるだろう。


「ティア、これってちょっと加速してない?」

「えぇ、確かこういうのをジリ貧と言うのでしたっけ?」

「おい……これってお前ら倒せばついてこなくなるんじゃね?」

「「…………」」

「吹き荒れ……」


 そう、少し考えれば俺らを倒せばついてこなくなる事が分かる。

 そして、こんな言葉がある。

 殺られる前に殺れ……

 それに相手は何かを唱えようとしている……

 思い立ったらすぐ行動。


「うおッ!? お前えぇぇぇ!!」

「……これも戦いだ。油断したお前が悪い。」

「…………」


 何が起こったかは一目瞭然……

 俺が足を踏みつけ、相手が転び、仲間も巻き込んでいった……

 ただそれだけ、それだけで危機は去った。

 先手必勝、少し汚いがこれも戦いなんだ。


「ユウ、先ほど使おうとしていた相手の魔法(アーツ)が岩を加速させてしまいました。」

「…………」


 これが因果応報と言うやつなのか?

 いや、止めなかったらもっと酷い事になっていたかもしれないんだ。

 とにかく今は、この状況をどうにかする方法を考えねば……


「あれが動いていなかったらティアは壊せる?」

「壊せます。ですが……」


 壊せる……

 ならば少しの可能性でも試す価値はあるだろう。

 今は少しでも時間が惜しい……

 また人が増えると困る。


「ちょっと失礼。」

「? きゃっ!? ユウどうしたのですか!?」


 可愛い声をだして驚くティア。

 しかし、少し集中したい……

 返事をせずに素早くティアをすくい上げお姫様だっこをした俺は集中する。


「少し静かに……舌を噛んじゃうよ?」

「ひゃッ!?」


 静かに囁くように忠告した俺は足に力を込め跳躍する。

 宙に舞った俺の着地地点は転がっている最中の岩……

 追跡するならば、丁度ド真ん中に立ってやれば、上には追跡できない為、止まるはず……

 流石にすぐには止まらないか……けど、徐々に減速していっている!

 どうやら予測は当たっていたようだ。


「玉乗り経験は無いんだけどなぁ……サーカスの人は大変だな……大丈夫、ティア?」

「は、はい……ですが、恨みますよユウ……突然、抱き上げるなんて心臓に悪いです。」

「ゴメンゴメン。おっと、そろそろ止まったし頼むよ。」


 少し頬を赤らめながら怒るティアを腕からそっと下ろす。

 段々と声が小さくなっていき後半は何を言っているか分からないが本気で怒っている事はないだろう。


「……では、いきます。」


 ティアは手に持っている剣を岩に突き立てる。

 普通なら刃が通るわけもない。

 だが、剣はいとも簡単に突き刺さりそこから割れていく。


「おっと崩れる……」


 ティアと俺はすぐに跳躍……

 岩から飛び降りる。

 一体、どうなっているのか理解出来ないのだが……


「どうやったの?」

「昔、父に教わったのですが……どうやら魔法(アーツ)によって作り出された物には構造的に脆い所があるらしく、そこに少し攻撃してやれば壊れるようです。まぁ、物凄い間隔で位置が変化している為、私の魔法(アーツ)がないとまず出来ないのですが……少し長くなります。今はやめておきましょう」


 つまり、ティアは天才だと……

 興味のそそられる話ではあるがかなり長そうだ。

 頭の片隅に置いておきつつ、今はティアが天才だったと言う事で理解しておこう。


「にしてもティア、あの街の中心部……ここからでも分かるぐらい荒れてるね。」

「ここも酷いですが確かにあちらは更に酷いですね。」


 この街の中心部……

 そこからは常に何かが壊れる音が響き、常に宙を何かが舞っているのだ。

 危ない、直感がそう告げる。

 いや、ここからでも見れば危ない事は分かる。

 あそこからの飛び火が無い事を本当に……切実に願う。








「あら、何かユウに拒まれた気がするわ。」

「……気のせい」

「そう……ならいいのだけれどね。私をユウが拒むだなんて……」

「……普通、こんな敵を連れてこられれば迷惑。」

「それもそうね。」


 周囲に蛍光灯に群がるハエの如く溢れかえる強者達……

 その様子は混沌としており、全員が誰かと戦っているのだ。

 この街の中心部から少し離れた場所のこの場所はまさに地獄の一丁目と化していた。


「らあぁぁぁぁ!!」

「煩いわね……少し黙ってなさい。」


 相手の事情なんて知った事ではないとばかりに声をあげて斬りかかってくる男。

 その刃を薙刀の柄で受け流し、体勢を崩したその一瞬に一閃。

 男があげる断末魔の叫び声は、溢れかえる雑音で掻き消されていった。


「……この数は面倒。」


 かれこれ何時間戦った事か……

 死体が消えなかったら今ここには血の川と幾千の屍の山が築かれていた事だろう。

 そろそろ、疲れてきた。

 少しは休憩を入れてもいい頃合いだろう。


「じゃあ、休憩にしましょうか」

「……それがいい。」

「あぁ? 逃げれると……ガハッ!?」


 一々口を挟まれて答えていてはきりが無い。

 なので、黙らせた。

 鋭い突きは喋ろうとしていた男の喉元を正確に貫いた。


「私も一緒に飛べる?」

「……近場なら」

「じゃあ、飛んで」


 すぐにシエルの手を取り、瞬間移動を促す。

 すると一瞬、風景が暗転する。


 しかし、次の瞬間には違う景色が広がっている。

 やはり、瞬間移動は疲れるわね。

 五感がまだ冴えないわ……


「少しはハエの群れから遠ざかれたわね。」

「ダメ、気をつけて……!」

「ん……?」


 警戒を促すシエルの声。

 こんな所で的外れな事を言うシエルではない。

 五感を無理やりにでも冴えさせる。


「お嬢様方はどうやら只者ではないようだ。」

「ベルナンドの男として女性への礼節を重んじる事は良いが、油断するなよ。先ほどの察知といい、突然現れた事と言い……。油断できないぞ?」

「分かっております。お父様。」


 突然、建物の影から現れた男2人……

 冴えてきた眼と頭が瞬時に彼らの事を知らせる。

 その弾きだされた情報に頭が警笛を鳴らす。


「オウエン・ベルナンドとエドワード・ベルナンド……」

「ちゃんと知っているのねシエル。」

「おや、知っているのかい。君たちの様な美しい女性に知られているなんて光栄だよ。」


 嗚呼、身の毛がよだつ……

 このナルシストの首を今すぐにでも斬り落としたい気持ちに駆られる。

 しかし、抑えなければならない。

 相手は今までの様な有象無象とは、訳が違うのだから……


「やめてくださらない? 私には既に心に決めた大切な存在が居るの。すぐにでも頭の隅から立ち去って頂けませんか?」

「それはすまない。それほどまでに忘れ難い存在になってしまうとは……罪な事をしてしまった。」

「……会いたくないリストの一人。」

超越者達の宴(エクシード)序列第3位エドワード・ベルナンド。女性に絶大な人気を誇る、フラディアス勇者候補。」

「もう勇者候補じゃない。勇者(・・)だ。」


 クッ……情報も時間が経っているから正確さに欠ける……

 今度、しっかりと情報収集をしなければ……

 この勇者……

 本当ならば、私になる可能性もあったのだ。

 まぁ、辞退したし、家が無かった為に可能性は低かったが……


「そして、オウエン・ベルナンド侯爵。現ベルナンド家当主……」

「ふむ、博識だな……いや、勇者の家となっている今、知らぬ方が少数派か……」


 危険……なんてものではない絶体絶命だ。

 絶対的な強者……格上以外のなにものでもない。

 いづれは戦わなくてはならない……が

 今はその時ではない……


「シエル、聞こえるわね。」

「……ん」


 シエルにしか聞こえないような小声でシエルに話しかける。

 それに小さく肯定を返すシエル。


「いい? 私がやりなさいと言ったら出来るだけ飛ぶのよ。」

「……ん」


 事は慎重に進めなければ……

 シエルの魔法(アーツ)にはクールタイムがあり、連続使用は出来ないのだ。

 まずは、空けられるだけ距離を空けなければ……


「で、勇者様のような方が何故この大会に? わざわざ、出ずともあなたの強さは衆知の事実ですが? ここで示す必要もないでしょうに……」

超越者達の宴(エクシード)の序列三位以下に招集が出たのさ、事情を知っているのは僕か僕より上の者達だけだよ。」


 事情……いや、まぁいい。

 特に興味がある訳でもない。

 しかし、時間稼ぎに少し掘り下げてみよう……


「まぁ、簡単に言うと化け物を探しているのさ」

超越者達の宴(エクシード)というものがありながら?」

「あぁ、大変に遺憾だが……そうだよ。現れたのさ、それを誘き出し、見極める。」


 ……化け物?

 超越者達の宴(エクシード)序列3位をして化け物とは……

 そんな者の存在にどうやって気付いた?

 そして、どうして正体を知らない?

 いや、ダメだ。

 もう、のめり込まない……これ以上は個人的に調べさせてもらうとしましょう。


「まぁいいわ。シエル……やりなさい。」


 すぐさまシエルの身体に触れる。

 そして、一瞬の暗転の後に広がる先ほどとは違う景色。

 こうして、柊未知とシエルによる……

 物語において常勝無敗の象徴である勇者からの撤退という人生において数少ないレベルの至高の難業への挑戦が始まった。




原動力と参考の為に評価や感想をもらえると嬉しいです!

これからも楽園の狂詩曲(ラプソディー)をよろしくお願いします!



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