第58話
「うわぁ……酷いなぁ……」
「確かにこれは……酷いですね。」
俺とティアは繰り広げられている光景に引いていた。
何故なら、炎や雷、水、さらには岩が宙を飛びかい……
建物が時々、轟音をたてて倒壊する事もあれば、火事が起こっていたりしているのだ。
他にも屋根から屋根へ跳び移っていく人間や獣人に、獣と化した獣人までも……
「この世の終わりみたいな光景だな……」
「……笑えないですね。」
「って! おおっと!?」
はぁ……油断も隙もあったものではない。
突然、空から岩が降ってきたのだ……
なんとか反応して後ろに飛び退いた為、害は無かった……
誰かに襲われた訳ではないのだ。
どこかでの戦いでの飛び火なんだろうけれど……
「物騒すぎるだろ!!」
「そこらじゅう敵だらけですし、あまり大きな声は出さないで方がいいのでは?」
「四方八方から悲鳴や物の潰れる音で溢れていれば目敏く見つけて襲ってくる相手も少ないだろうけど……」
すぐそこの大通りからは事実そんな音が聞こえてくる。
絶対に大通りには出られない。
だが、問題はあるのだ。
「おい! あっちでやりあってるぞ!」
「ふふ、疲れているところを一網打尽よ!」
すぐ傍の角から漁夫の利を狙っているような声が聞こえてくる。
そう、問題とは……
既に戦っている場所にはさらに人が集まるという問題だ。
「刹那求望」
「失楽園―――憑依」
言葉は不要。
すぐ傍の角から出てこられる前に準備完了。
「なッ!?」
遅い……
決定的に遅い。
もう、確実に倒す事が出来る間合い。
ティアが倒さなかった方を俺が倒すだけ……
「ぐぇ……」
「ああぁぁぁ!」
何度繰り返した事か……
もう何度も繰り返したおかげでティアとのコンビネーションはばっちりだ。
そして、何故か分からないが相手を殺してもなんの忌諱感も感じないのだ。
いくら本当に死にはしないとは言えど……
腕を喰わせた時の忌諱感は物凄いかったのだ。
それがここまでスラッと人を斬れるようになるだろうか?
何か思い当たる節があるかどうかと言うと一つだけある。
俺の中に潜む黒いなにか……
それがもし俺を蝕み始めているのだとすれば……
おかしくはないかもしれない。
「……やめよう。悩んでどうにかなる問題でもなければ、今はそんな時じゃない。もしかしたら、対価に払っているだけかもしれない……」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないよ。それよりもここから離れた方がい気がするんだけど……」
「そうですね。私もそんな気がします。」
研ぎ澄まされた知覚能力などより、今は勘の方が役に立つかもしれない。
行っている傍から大通りでの戦闘が激しくなってきたのか爆音が響き始めた。
「行きましょう。」
「あぁ、こんなところ百害あって一利なしだ。」
すぐに二人でその場を離れる。
分かれ道などは勘に任せて選んで走っている。
何故ならどちらの道からも戦闘音が響いてくるからだ。
「おっ、良い鴨が……」
運が悪い……
いや、どちらの道を選んでも同じだったのかもしれない。
そして、やることも結果も同じ……
「邪魔だ!」
「ふっ、バカめ! そのまま燃えろ!」
そのまま走り、祢々切丸を顕現させる。
男は、こちらに向かって燃え盛る炎球を連続放ってくる。
こうなれば、俺は避けるか、燃やされる以外に術は無い。
だが、一つこういう時の為にダグラスに教えてもらった事がある。
「破ッ!!」
「なんだと!?」
魔法を切り裂く……
正確には打ち消す技なのだが……
わざと祢々切丸の顕現をゆっくりにして形として固まる前の不安定な魔力の状態をぶつけたのだ。
この方法を使えば現象系である雷と炎にはある程度対処できる。
まぁ、雷は少し難しいのだが……
そして、完全に顕現した祢々切丸で男の身体を斬る。
「グアッ!」
「てめぇ! よくも!」
すぐ横にいた男が逆上。
こちらを見て手に持っていたナイフをこちらに突き出そうと……
「ユウに手出しはさせません。」
「なッ!?」
突如、男の後ろに現れる青い髪……
そのまま、男の背中への流れるような斬撃が容赦なく降りかかる。
「ガハッ!!」
その後、死体は光となり消えてゆく……
やはり、ティアのスピードは無敵だな。
しかも、あの完全な一撃……
これが格の差と言うやつなのだと実感する。
「ユウ、片方を倒してももう片方が消えるまで時間差があるのでしっかり2人を無力化して下さい。負けないと分かっていても、危なっかしくてこちらの方がドキドキしてしまいます。」
「ゴメンゴメン。」
やはり、心配させてしまうようではまだまだと言った所か……
もっと精進を重ねなければ……
ティアの言うとおり、片方の消失によりもう片方が消滅するのは少し時間差がある。
その時間がある為、両方無力化するまで油断はできない。
「俺もまだまだ……ん?」
俺たちの後方に悠然と歩く男の2人組が現れた。
その歩みは敵を見つけたと言うのに、慌てることもなければ、逸る事もない、余裕に溢れていた。
纏う雰囲気もどこか今まで遭遇した相手とは違う雰囲気……
既にティアもそれに気付き警戒している。
「久々に出てみればあまり手ごたえのある敵とは巡り会えない……そのくせ、周囲の戦闘の激しさは一段と増してゆく。いくら強者が多いとはいえ、それも玉石混交か……」
「そう言うなゴルドー、こうやって名の知れた実力の伴った者が現れたのだから。」
「何を言う、ティエフ。片方は私も知っているが、もう片方は子どもだぞ?」
子ども扱い……
どう考えても俺の事をバカにしているのだろう。
だけど、それはそれは素晴らしい実力を持っていらっしゃる事なのだろう。
顔を歪めたのは俺だけでなくティアもだ。
「貴方などユウの足元にも及びませんよ。」
「ほぅ? 神に愛されし戦乙女と呼ばれし貴女がそこまで荒唐無稽な事を申されるとは……名前負けですね。」
「武の一端の者として、相手の実力も推し量る事が出来ない者に言われた所で思う所はありません。」
「ははは! この塞岩封殺のゴルドーにそこまで言えるとは!」
「「……どなたでしょうか?」」
自分の耳で聞いた事もなければ人伝に聞いた事もない。
塞岩封殺とか言われても文字通り「どなた?」と言うしかないのだ。
その言葉に、ポカ~ンとするゴルドーとやら……
「ははは! ゴルドー、まだまだだな?」
「言っておきますが、あなたも知りません。」
「ティアと同じで俺も知らない。」
「「何だと!?」」
俺とティアの世間知らずさはかなりのものだ。
もしかすると、彼らは物凄い名を馳せている者なのかもしれない。
だが、俺らは知らない。
「クックックッ……そうやって精神的優位を……」
「いや、本当に知らないから。」
「「「「…………」」」」
沈黙に包まれる場の雰囲気……
ここはちょっとでも相手のメンツを考えるべきだったか?
いやまぁ、敵の事とかを気に掛けるほど余裕があるわけじゃないのだが……
凄いやりにくい……
「まぁ、いい……我らの実力その身体に刻み込んでやる! そうすれば忘れる事もないだろう!」
その声とともにゴルドーは一瞬で自分ともう一人の周囲を岩で囲う。
なんとなくあの名乗りからして予想は出来ていた。
しかし、魔力が少ない人が多かった為かこんな事をする人は居なかった。
「そして、これで終わりだ。」
「んッ!? ティア、ちょっとヤバいかも……」
「確かに、少し危ないかもしれませんね……」
空にはいくつも岩が現れ始めた。
答えは簡単……絶対に降ってくる……
こうなったら……
「ゴメン、これは援護できそうにない。」
「大丈夫です。それより、私も少し援護できそうにありません。そちらは大丈夫ですか?」
「あぁ、自分だけならなんとか……」
浮き方からして重なって落ちてくるのではなく……
辺り一帯に満遍なく落ちる感じだ……
ならば、自分の真上にある岩を何とかすれば良いだけのこと……
しかし、失敗すれば岩の下敷き……
意識を真上にある岩一つに集中させる。
「くたばれ!」
来る……!
全ての岩が一斉に浮力を失う。
そして、その岩が完全に落下を始める前に飛び上がり目にも止まらぬ速さでの二太刀……
しかし、切れ味の良さからしても質量や形状からしてもそれだけでは粉砕に至らない。
ならば、魔力によって強化されているこの身体能力で粉砕すればいいだけ……
両手を地面に両足を天に……
倒立のような状態……まさに天地逆転の状態で着地。
その状態から斬りつけてできた二つの線に向かい身体をバネのように引き絞り蹴りあげる!
体操などの技でよく見たが自分が出来るかは不安だった。
だが、強化されたこの身体はそんなアクロバティックな技を一発で簡単にやってのけた。
期待通りの結果と共に……
岩はほぼ四つに砕け四方に散った。
「はぁ……はぁ……少し無茶だったかな……手が痛い」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、戦闘に支障はないと思う。それより、多分倒したか確認する為にあの岩を動かすはず……その瞬間を狙わないと……まず、俺が行くから何かあったらお願い。」
「安心して下さい。もし何かあればすぐにいきます。」
俺が先に行く理由……
それは簡単、相手だってバカではない。
何か対策があるだろう。
つまり、俺の身体で地雷を踏み抜きにいくのだ。
もし、ティアが何か危ない目にあっても情けない事に俺は一瞬にして助け出す事は出来ない。
だが……ティアのスピードなら俺を助ける事くらい訳ないだろう。
もちろん、助けられるような状況に陥るつもりはないが……
石橋は叩いて渡らなければならない。
すぐさまに岩の防壁へと接近を開始する。
すると、岩と岩の擦れる音を耳が捉える。
そして、中に居る2人の顔が見えてくる……
はずだった……
「ふっ……」
岩を作りだした男の不敵な笑み……
それ以外は無い……男は一人だったのだ。
その時に理解する……これは罠だったのだと……
そして、頭が一瞬で整理され、超高速で新たに思考を開始する。
ならば、もう一人はどこか?
この男を覆っている岩の防壁の裏に今、出たと考えるのが普通だろう。
しかし、それでは罠として成り立ちにくい。
あの笑みは相手を必殺の罠に掛ける事が出来た表情だ。
そして、その余裕な様子から彼は罠の内容に組み込まれていない……
もしくは、既に役割を果たしたと言う事。
もう一人の男の武器は両刃の西洋剣だった。
ならば、あの男は近接戦闘タイプの戦いをするはず……
ミスリードの可能性は剣の重さからしてないものとして仮定する。
ならば、俺を攻撃できる範囲……すぐ近くにいる可能性が高い。
上空に居る可能性……
岩があれほど降っていたのだ。
それに俺が突撃を敢行した時に丁度、降りなければならない。
可能性はとても薄いだろう。
そして、これほど岩が降ってきていたのにあの時から岩の防壁外に出ていたとは思えない。
やはり、推測の域を完全に脱する事が出来なかったが導き出せる最適解は……
「地中ッ!」
「「なんだと!?」」
どれだけ早く思考しようと、もう勢いは止まらない。
ならばと、思い切り身体を捻るッ!
その行動は正しかった。
間一髪ですぐ先の穴より突き出される剣先が身体を貫く所だった。
後、一秒でも判断が遅れていれば……
そう思うと背中を冷たいものが走る。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、間一髪だったけど……」
「何故だ!? 何故今のを躱すことが出来た!?」
何故?あれ?なんで俺はあんなにも早い思考が出来た?
あれは尋常なスピードじゃない。
まぁいい、火事場の馬鹿力だったりアドレナリンだったり戦闘中は何が起こるか分からない。
「おもしろい事をしてくれましたね。ですが戦いの最中に気を抜くのは三流のやる事です。」
「クッ! ぐあぁぁ!!」
もはや、剣筋が見えない……
ティアの斬撃の後に残るのは消えかかる身体と断末魔の叫び声のみ……
やっぱり、ティアは凄い。
「一方的に負けるくらいならば……ッ!」
その負け犬のようなセリフが聞こえた時……
周囲の岩が消え始めて一際大きな岩が男の前で魔力によって構築され始める。
その時に一つ疑問が生じる。
「ティア……あれって魔法を使っている人が消えればどうなるのかな?」
「使用者が“死ねば”消えるんですが……これは……」
「ヤバいよね……」
「ヤバいですね……」
「諸共死ねえぇぇぇ!」
原動力と参考の為に評価や感想をもらえると嬉しいです!
これからも楽園の狂詩曲をよろしくお願いします!




