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第56話

「「「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」

「「「~~~♪ ~~~♪」」」

「ナニコレ……」


周囲は鼓膜が張り裂けんばかりの歓声と楽団によるリズミカルな演奏で満ち溢れ……

視界を埋め尽くすのは人、人、人……

ここまでの事は人生初だ。

呆然とした表情でボソリと現実逃避めいた事を言ってしまっても無理はないと思う。


「今回は強者揃いと言う噂で元より大人気だったこの催事もさらに多くの人が集まってますね……」

「まさか、会場までの行進があるとは……予想外だったよ……」


そう、俺とティアはただ今は絶賛行進中なのだ。

幾ら、英傑の饗宴(ヴァルハラ)とは言え……ここまで盛大なセレモニーをするとは思わなかった……


「おい見ろよ! あれって緑風のカルロスじゃねぇか!」

「バカ! そんなのよりもっと大物がいるだろう! ほら見ろ! あれ、銀餓狼の死神(グリムリーパー)だぞ!」

「おい待て! あそこは前の英傑の饗宴(ヴァルハラ)に出なかっただろう!」

「だが、あの大鎌は間違いないだろ!」

「ってことは……まさか隣のは幻創の霧(ローレライ)か!?」


姉ちゃん、随分な人気だな……

少し前の方で歩いている姉ちゃんは嫌と言う程に目立っていた。

やはり貴族よりも姉ちゃんたちのような人達の方が身近で有名なんだな……

まぁ、それでこっちの方への意識が削がれるならいいのだが……


「これって予選になったらどうなるんだろ……」

「予選の日の入場券は即完売だそうです。闇市では法外な値段が幾つも叩き出され、今も記録更新中のようです。」

「うげぇ……選手じゃなければそんなにも値段が跳ね上がるのか……」


俺たち選手は入場自由だ。

しかし、負けたものは販売の優先権は貰えるが基本有料だ。

だが、券を闇市で売れば儲けは言うまでもなく大きい。

優先権を目当てに参加する者も多い。

国としても買ってもらえればいいわけで闇市は黙認。


「これじゃあ賭博も半端じゃないだろうな……」

「本当に英傑の饗宴(ヴァルハラ)があれば、景気は安泰です。ですが悠は賭博なんてしないでくださいね? 賭け事で身を滅ぼした者は数多いですから……」

「大丈夫、大丈夫。訳あってその手の賭博はしない様に決めてるんだ。」

「……まさか、経験が!? もしも、借金があるなら私が……」


その時のティアの顔は必死で、後に続く言葉は容易に予測する事ができた。

あまりティアに話すことじゃなかった。


「止めて、止めて! そんな関係、絶対に良くないし、借金なんてもう無いよ……」

「もう無い……と言うことは一度は賭博に手を出したのですか?」


ここで失言に気づく……

あんまり、この話はしたくない。

只でさえ、今日はおめでたい日なのだこんな話で暗くするなんて勿体無い。

早々にこの話は切り上げよう。


「ううん、実際に触れたことはないよ。借金の返済の為に手を出そうとはしたけど、結局やってない。」


借金の理由が賭博だと言うのにも関わらず、賭博で解決しようなんて本末転倒ではないか……

そう思い、結局はその手の賭博には触れていない。

まぁ、額も借りた相手も酷かったからなぁ……


御両親(・・・)には相談なされたのですか?」


───ドクン───


「あはは……相談、してないんだ。」


……なんだ?

この感覚は……

何かが込み上げてくる感覚……

この話はダメだ……


「ダメじゃないですか悠。悠の御両親であればきっと共に悩み……」


───ドクン───


「時には、叱りながらも愛情を注ぎ……」


───ドクン───ドクン───


「きっと、最後には共に解決して笑いあえたはずですよ。」


ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!ドク───


(ダメ! ユウ! それ以上はダメ!!)

「…………ゴメン。ティア少し……」

「ユウ!? どうしたのですか!?」


頭が割れそうな頭痛、異物を無理矢理入れられたかのような耳鳴り、そして、激しい動悸

一向に止まる気配を見せない動悸は激しくなるばかり……

頭に響く珍しいステラの焦った声もティアの心配する声さえも……煩わしく感じる。


―――嗚呼、煩わしい……周囲にある全てが面倒だ―――


……ッ!?

俺は今、何を……


「…………少し肩を貸して……」

「ですが!」

「……大丈夫、本当に大丈夫だから……少し、静かに……頭に響いて……」


……ダメだ。

本当にダメだ。

ステラの言うとおりだ。

セレモニーでさえなければ、すぐさま自分で意識を刈り取っていただろう。


(意識をしっかりと持って!)


身体の奥深く底から湧きあがる黒い何か……

もし、これが完全に湧きあがれば今、ここにいる神崎悠は壊れる(しぬ)

知ってはいけない。

見てはいけない。

感じてはいけない。

そう、本能が呼びかけるのだ。


「苦しい……痛い……」

「どこか痛いんですか! すぐ医療室に!」


しかし、心に歯止めはかけられない。

次々に黒く染められていく……


―――嗚呼、何故、この女はこんなに近くにいるんだ……―――


「……う、うぅ……なんでこんなにうるさいんだ……」

「ユ、ウ……?」


汚くなっていく俺の口調。

戸惑うティアも無理はない。

だが、俺も戸惑っている。

なんとか身体の主導権はまだこちらにあるが……

時々、変な言葉が口をつく……

理性はまだ俺のものだが、荒れ狂う正体不明の黒い激情を完全に抑え込むのはそろそろキツイ。


「大体、何だこの人の量は…………」


身体が言う事を聞かない。

何だ、これは……


「クソッ! 頭が痛いし身体は熱いし……一体なんなんだ……」


思いきり唇を噛み締めて、力を込めて握りこぶしをつくる。

唇からは血が出て、手の握りこぶしからも爪が食い込み血が出る。


「グッ……! はぁ……はぁ……これで少しは持つかな……あはは……」


怖い……

これが怖かったのだ。

湧きあがる黒い何かは身体の制御をすぐにでも奪おうとしている。

そして、この何かはティアたちに友好的ではないのは明らか……

決して身体の主導権をやる訳にはいかない。


「悠、血が!」

「大丈夫、このくらいなら慣れてるから。」

「!? 大丈夫ですか?」


後ろから響く声……

明らかな異常に近くにいた人が声を掛けてきたようだ。


「すみません。少し彼を運ぶのを手伝ってもらえませんか?」

「分かった。おい、お前も手を貸せ。」


そのまま口出しする事も出来ずに運ばれていく……

そして、突如襲いかかる強烈な眠気。

それに抗う術もなく俺の意識は沈んでいく……







「ゴメン、ティア。せっかくのセレモニーなのに……」


今いるのはどこかの医務室だろう。

俺が自らつけた傷は既になく、こちらの魔法医学には驚きを隠せない。

目の前に立つティアはとても心配そうだ。


「いえ、気にしないでください。こんな催しなどよりユウの方が大切です。」

「あはは、お世辞でも嬉しいよ。」

「お世辞なんかじゃありません。英傑の饗宴(ヴァルハラ)はまた来ますが、ユウは失えば二度と会えません。」

「けど……」

「そんな所で口答えしなくてもいいんです。ユウが何と言おうとこの気持ちは変わりません。」


その言葉に物凄く良い主と俺は出会えたのだと再確認させられる。

あんな俺を見たと言うのに……

自分でも知らない何かが自分の中に潜んでいるのだ。

本人の俺でさえ不気味でしかない。


「ですが、本当に大丈夫なんですか? 今言ったようにこんな催しよりユウの方が大切です。無理に出場する必要は……」

「それは無いよ。姉ちゃんと賭けてるからね。」

「……確かに、不戦勝と言われると困りますね。何を命令するのか分かったものではありません。」

「ん? 何か言った?」

「いえ、何も言ってません。」


やはり、姉ちゃんを越えてやりたいと言う気持ちは大きい。

それに、英傑の饗宴(ヴァルハラ)の事も気になる。

そして何より、昨日の夜から胸騒ぎがするのだ。

事実、こうやって不吉な事が起きている。

英傑の饗宴(ヴァルハラ)でも何かある可能性が高い。

その胸騒ぎが指すのは恐らく俺の事ではない。

この、美しく強く優しいティアの事である気がするのだ。


「えっと、どうかしたのですかユウ? そんなに見つめられると恥ずかしいです。」


どうやらティアの事を無意識の内に見ていたようだ。

恥ずかしそうにしているティアにはセクハラと思われても仕方ないかもしれないが、そんな下心は一切ない。


「あぁ、ゴメン。突然だけど最近何か不吉だったり変な事あった?」

「い、いえ、強いて言うならばガルムの襲撃や教会の襲撃、今回の事くらいでしょうか?」


凄いな……今の時点で相当な目にあってる……大半が俺の所為なのだが……

これでまだ何かあるってヤバいな……

だけど、嫌な予感と言うのは総じて当たるからな……


「生きて英傑の饗宴(ヴァルハラ)を乗り切れるか不安になってきた……」

「今までの英傑の饗宴(ヴァルハラ)での死傷者はゼロです。闇討ちでもされない限り大丈夫です。安心して下さい。」

「つい最近、闇討ちに似たような事を体験したばかりだから安心出来ないんだけど……」


どちらにせよ、明日から戦いは始まるのだ。

闇討ちが怖いなどと、弱気な発言は許されないのだ。

持てる限りの武をもってティアの為に尽力しなければ!


「気合を入れていかないとね。」

「そうですね。どうやら今年はかなりの強者が揃っているようですから気は抜けません。」

「あぁ、確かにニア・フォルティナさんだっけ……あの人がたくさんの強者に出場命令が出ているとかなんとか言ってたね。」

「どうやら、そのようですね。先ほど、ゲイルからの報告を受けました。ですが、私たちが手を組めば勝てない相手なんていませんよ。」


その言葉は酷く根拠に欠けるものだった。

しかし、ティアの顔に浮かぶ微笑が不思議と真実味を帯びさせた。

それによる安心感の所為かまた俺は深い眠りについた。








穏やかな顔で眠るユウの顔を眺めながらティアは考える。

あの尋常じゃない様子は何だったのかと……

あの時、一瞬だがいつもと違う口調になり目が怖くなった。

あの荒々しい言葉は普段のユウとは正反対……

まるで別人のような気すらした。


世の中には多重人格というものがある。

その多くの原因はストレスなどが関係しているのではないかと言われている。

新しく生まれた人格は本人の代わりにそのストレスを解消する。

そんな物語を聞いたこともある。


「中身の見えない器……」


突如、思い出したグレゴリウスの言葉。

いつ中身が溢れだすか分からない不安定さがある器……

グレゴリウスはそういう意味でユウの事を中身の見えない器と言ったのだろうか?


「けど、多重人格の話などはまだ決まったわけではないですし、あまり話さない方がいいかもしれません……」


まず、こちらでよく調べてから話しあっても遅くはないでしょう。

そう結論付け、ユウの手を握りつつ明日の戦いへと考えを逸らした。


原動力と参考の為に評価や感想をもらえると嬉しいです!

これからも楽園の狂詩曲(ラプソディー)をよろしくお願いします!



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